第十話  なんで学校にはテストという関門がっ

(ま、ぼちぼちでんな、って感じかな)

 どの教科も、特に点数が低すぎることもなく、今回も無事、テストを乗り切れたと言っていいと思う。

「もりりん~、どうだったぁ~?」

 いつからだろう? 穂乃美とテスト見せ合いっこをするという、謎な流れができたの。

「まあ……こんなところ?」

「う~……」

 テストの結果は、直接テストの解答用紙を見せてもいいんだけど、その回のテスト結果を一覧にまとめたプリントが、一人ずつ渡されるから、それを机の中から出して見せた。

 全体の順位やこの結果への偏差値なんかも書かれている。

「なによぉ~最近もりりん勉強してるのぉ~?」

「ず、ずっと昔から、学校に勉強しに来てます」

 ちょっとおもしろかった。

「そーゆーことじゃなくってぇ! 最近全っ然もりりんに勝てなくなってきてるよぉ~!?」

「塾とか夏期講習とか、全然してないけど?」

「うぅ~~…………」

 効果があるとするなら……きっと……

(ちらっ)

 結依ちゃんと一緒に宿題してるからだね!

「……えなりんは……」

 ほっぺたをふくらましていた穂乃美は、僕の右隣の席である瑛那の方へ向いた。

「……やっぱりいい」

「どういうことかしら」

 うん。僕だって、遠慮しておきます。

(気にならないでもないけど……)

「えなりん~。食べると賢くなる木の実を毎日落とす木とか、庭に生えてない~?」

「生えていないわ」

「だよねぇ……」

「じゃあ、飲むと賢くなる牛乳を生み出す牛を、飼ってるとか?」

「いないわよ」

「ですよねぇ」

 どちらが瑛那のおうちにあったとしても、もっと話題になっているはずである。

「だれしも得手えて不得手ふえてはあるものよ。あまり落ち込まなくても、いいんじゃないかしら」

「不得手しかありませぇ~ん」

「僕が瑛那より得手のものって何ですかー」

「そうねぇ……友達の多さ、というのは、どう?」

「えなりん。この前、おうちのパーティでたくさん遠いお友達としゃべれた~って、言ってなかったぁ?」

「……では、運動はどうかしら」

「えなりん。この前の春の大会の、個人成績は?」

「……八位よ」

「何人中?」

「……さ、さあ、どうだったかしら……」

「もりりん~」

「穂乃美~」

 ここに謎同盟、結成?

「まぁ、それだけ瑛那が普段頑張ってるってことだよね。すごいよ瑛那は。とても僕と同じ時間を生きてるとは、思えないよ」

 テスト結果は、机の中に直してっと。

「大げさよ。わたくしは、できることがたまたま見つかっているだけよ」

「できることが見つかる、かぁ」

 僕、別にそんな目立ってなにかできるようなこと、今のところないよねぇ……?

(あ。やばい人が瑛那の横に来た)

「瑛那。どうだった?」

「……何と言えば、いいかしらね」

「あら、今回は負けたわ。次はあたしが勝たなくちゃね」

「もりりん~」

「穂乃美~」

「あの二人は、なにをしているの?」

「さあ、なにかしらね……」


「道森、ちょっといいかい?」

「ん?」

 もりりん穂乃美ごっこを終えて、穂乃美も瑛那も汐織も近くからいなくなったタイミングで、矢鍋が声をかけてきた。

「ちょっと、な」

「あ、うん」


 呼び出された記憶がよくある廊下の端には、すでに奥茂と六場がいた。

「いよいよか矢鍋ぇっ」

 おっと奥茂による先制ひじ打ちが炸裂!

「テストも終わったし、さ」

 つ、ついに言ってしまうのか矢鍋!

「いつだ? 今日か?」

 おっと六場も畳み掛けるぅ!

「きょ、今日はさすがに急すぎないか?」

(ってかこの矢鍋のパターンってさ……)

 そう。両・想・い!!

 だったらもう、急いでしまっていいんじゃないの……かな?

「テスト終わった今日だからこそ、かもしれないよ! うん!」

 ここは僕だって攻めるぞ!

「そ、そうか、そういうものか」

「うんうん!」

 僕は右手を握りこぶしにしている!

「どこで告るんだっ?!」

「あ、あんまり言うなよ」

 辺りを警戒する矢鍋。うむ、付近に敵影なし。

「早く決めちまえよぉ!」

「ど、どこって……どこがいいんだろう? 公園とか?」

 ……ん~っと。四人全員、告白の経験がないので、どこがいいとかわからないようだ。

「矢鍋が公園でいいと思ったんなら、きっと公園でいいさ!」

「矢鍋ならできる。自信を持て」

「さすがにこんなことで自信は持てないけど……いつまでも言わないわけにもいかないし……」

 これぞ漢の友情!?

「……わ、わかった。今日、部活終わって帰るとき、公園に誘ってみる」

「うおっしゃその意気だぜぇー! しっかりやれやぁー!」

「わ、わかったから強い強い……」

 きょ、今日。ついに……矢鍋が、汐織にっ……!!


「雪忠、また明日ね」

「じゃ、じゃっ」

 瑛那が部活に向かったようだ。帰りの会が終わって、この後部活があって、そしてその後……矢鍋が、かぁ……。

 汐織を見てみたけど、汐織も教室を出ていった。今の段階では、いつもの汐織って感じだ。情報漏洩とかはなさそうだ。


(……矢鍋。そろそろ行ったかな?)

 汐織には、今日公園まで一緒に帰ろうと誘うらしい。

 教室を出るときには、特に誘ってなかったから、部活終わってから誘ったんだと……思う。たぶん。

(なんだか自分のことじゃないのに、僕が緊張してきたな)

 結依ちゃんかぁ……そりゃ僕だって、いつまでも気持ち言わないよりかは、いつかは言った方がいい気がしないでもないけどさぁ。

(矢鍋はすごいなぁ)

 僕たちに相談する、っていう一歩を踏み出して、今日、またもう一歩を踏み出して。

(んぅ~……やっぱ僕、だめだなぁ)

 もっと立派な人っていうのになって

「うおわあ?!」

 て結依ちゃんいつの間にぃー!?

 僕が靴を履き替えて、考え事しながらとぼとぼ歩き出していたら、結依ちゃんご本人が右隣に!

「や、やあ結依ちゃん! 今日もいいお天気ですね!」

 さあ結依ちゃん、お返事をどうぞ!

「うん」

 うん。いたっていつもの結依ちゃんが、そこにいたのだった。

「……い、一緒に~、帰る?」

「うん」

 よく一緒に帰る仲だからね、うんうん。


 そういえば結依ちゃんは、穂乃美とは反対に、テストどうだったぁ~はないんだよなぁ。ま、まぁ聞いたら答えてくれそうだけど。

 ちなみに過去これまでテスト結果を見たことないわけではなくて、まあ、うん。上位ではあったウッウッ。

 だからなんていうか……普通はテスト返却日って、だれと話しててもテスト返却日! って感じなんだけど、結依ちゃんとだけは、なんだかいつもの一日っていう……こう、わかる? このいつもの感。

 セカバンを左肩から掛けて右側へ下ろしていて。声をかけたらこっち向いてくれて。事あるごとに笑顔向けてくれて。

 そんな結依ちゃんと、今日もこうして過ごせてよかったよかった。

「雪忠くん」

「あ、なに?」

 いっぱいお返事しちゃうよ!

「お願いごと……してもいい?」

「お、お願いごと?」

 なんだろう。流れ星が消えるまでの間におかねもちになれますようにおかねもちになれますようにおかねもちになれますようにって言う、あれ?

「僕にできることが……あったら?」

 流れ星を呼び寄せるとかは、さすがにできないなぁ。

「私、雪忠くんがいないとき、おうちでお昼寝をしているの」

「あ~うん、聞いたことある気がする」

 ほんとに少しだけど。

「今度、お昼寝するとき、雪忠くん……いててほしい」

 ……んぇ~っと……?

「宅配の受け取りとか?」

 あ。そのおめめぱちぱちは。これ外したな!

「回覧板とか?」

 違うかぁ。

(え、なんだろう。つまり結依ちゃんがお昼寝している間、なにかあるから代わりによろしくっていう……そういうことじゃないの?)

「……いててほしいだけ」

(……んぇ~っとぉ…………)

「ぼ、僕いてるだけ?」

「うん」

 特になにも僕にしてほしいことがなくて、ただただいてるだけ? を、今お願いしてるの? 結依ちゃんが? 僕に?

「退屈?」

「えあぁいやいや、結依ちゃんが僕にお願いするんだから、僕でできることはなんだってしちゃうよ」

 なんだってとか言っちゃったけど、結依ちゃんにっこりしてくれた。

「……一度、お願いしてみたかった」

 い、一体いつから計画していたんだろう。

「僕相手なら、遠慮しなくていいようんうん。僕も結依ちゃんのために、力になりたいからさっ」

 左手を握りこぶしにして、お手伝いいたしますアピール。

「ありがとう」

 ……猛烈お手伝いいたしますアピール!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る