第五話  なるほどこれがギャモンテーブル……え、えっ!?

 今日は矢鍋のお誘いで、バックギャモンテーブルを見に来た日。

 奥茂と六場も来て、みんなですげーうおーかっちょいーってテンション上がった。

 六場ろくば 徹人てつひとは、身長が高めで、がたいがいい感じ。

 僕ら男子四人の中で、間違いなく最も力持ちだろう。スポーツテストでも、砲丸投げじゃ僕では考えられない記録をたたき出している。

 僕らの中では最も口数は少ないかなぁ。冗談とかをあんまり言わないって感じ? 堅苦しいわけじゃないんだけど。

 僕は水色の長そでシャツに黒の綿パン。

 矢鍋も水色の長そでシャツだけど、縦に白い線がたくさん入ってる。クリーム色みたいな長ズボン。

 奥茂は黒色の丸首長そでシャツ。英語書いてる。ジーパン。そのジーパンはよく見かけるやつ。

 六場は白色の丸首半そでシャツ。も、もう半そで? 黒色の、ちょっと短いジャージみたいなズボン。

 バックギャモンのテーブルは、木でできていて、ぱっと見ただけだと天板が丸いテーブルっていうだけに見える。

 しかしなんとその天板は、左右に開くことができて、中にくぼみがあって、そこがまるまるバックギャモンのフィールドという、もうまさにおとこのロマンってやつだね! 僕たちは早速プレイしてみた。

 と、ここまでの情報だと、男子四人が遊んでいるだけのように見えるし、もともとそのつもりだったんだけれどもぉ~……

(結依ちゃんは、今日も僕の横にいてる!)

 なんと、僕が矢鍋の家へ遊びに行く途中で、結依ちゃん見かけちゃってっ。

(矢鍋のところへ行くってなったら、ちょうど途中に、結依ちゃんとこ通るもんなぁ)

 結依ちゃんはプランターのお花さんに、お水をあげていたところだった。

 僕が今日は矢鍋のところへ行くって言ったら、一緒に来たいってなって……まぁみんな超ウェルカムだったけど。

(結依ちゃんにわかるかな?! この漢のロマン!!)

 結依ちゃんは薄いオレンジ色のフリース。長い白色のスカート。


 …………という情報でも終わりじゃなさそうなのが、今日だった。

「な、なぁ。聴いてもらいたい話があるんだ。いいかな?」

「話ぃ? んだよ改まって。なんだなんだ?」

 今は普通のダイニングテーブルにて、僕から見て左隣に結依ちゃん、向かいに六場・その左隣に奥茂。そしてテーブルの左側に矢鍋が座っていて、なんだが議長みたい?

「今から言うやつ、あんまり言いふらさないでくれるか?」

「言いふらす? そう言うんならわあったが、んでなんだよ?」

 なんなんだろう。バックギャモンテーブルに関係すること?

「じ、実は……あ、早苗さんも、内緒に」

「うん」

 改めて……結依ちゃんは、名字も名前もどっちも下の名前みたいだよねとは、よくあるネタ。さすがに僕らはもうよく知ってるわけだけどさ。

「実はさ……僕は今年。決めたことがあってさ」

「何をさ?」

 レスポンス係は奥茂。残った僕ら三人は、グレープジュースを飲みながら、矢鍋の話を聴いている。

「……わ、笑わないでくれよ?」

「はよ言え言えっ」

 確かに、いつもの矢鍋にしては、歯切れが悪いというかなんというか。な、なんだろう?

「…………じ、実は。さっ。こ、告白…………してみようかと、思うんだが…………どうだろう?」

(うぃ?! こ、こくは、くって……)

 これには六場も目をいつもより開いている!

「な!? ぬわあぁにいぃぃ~~~?! や、矢鍋お前マジか?! マジでマジのマジなやつなのかうおぉーーーい!?」

 おおっと奥茂が矢鍋の両肩をつかみ揺さぶっているぅー!

「ま、マジじゃなかったらこんな話するもんかって揺らしすぎだっ!」

 奥茂は両手を離したが、その手はそのままわなわなしている!

「こ、告白とか、まさか、そんな、な…………ぁああ相手は?! 相手はだれだっ!?」

 結依ちゃんもまっすぐ矢鍋を見ている!

「…………立木さん」

「立木かぁーーー!!」

 汐織かぁーっ……! 確かに勉強できそうな組み合わせだなぁ……。

「いつからよ?! 立木に告白する気んなったのは?!」

「い、いつからだろうか……去年の冬休み、家族同士でスキーに行ったから、それでかな」

「すきぃーーー?!」

 ちょっと紛らわしいっ。でもそんなことがあったなんてなぁ……。

「でもこれまで、そんなにたくさん遊んできたわけでもないんだ。スキーに行ったのも、たまたま家族同士で話がまとまって、そうなったようなものだし。だから、僕だけが勝手に好きな可能性の方が、高いよ」

(す、好き、ねぇ……)

 ぼ、僕はまぁそのこほん。今左隣に座っている人のことをゲフゴホ。

(でもこれも、僕だけが勝手に、っていうことも……ありそうだし……)

「矢鍋がマジになったんなら、もう告っちまえよ! いけいけーっ!」

「そ、そんな勢い任せでいいのだろうか?」

「やったれやったれー! 漢見せろ矢鍋ぇー!」

「はぁ……」

 ため息にも聞こえるけど、やれやれな表情もしているような、そんな矢鍋。

「六場も、すぐに告白した方がいいと思うか?」

 普段こんな話、全然話題に出ないけど、六場からどんな言葉が出てくるんだろう。

「……告白する前に、他のやつに先に越されるのが、最悪だ」

「うっ。そうだよな……」

 他にも汐織のことを、その、まぁ、そう思ってる男子がいたら、ってことかぁ……。

 男子同士でこんな話しないうえに、女子によるうわさ話なんてのも、当然持っているわけもなく。

「早苗さんは、女子からしたら……どうだろう?」

 次は結依ちゃんのターン。水色のすべすべコップを両手で握りながら考えている。ちなみに僕のは緑色。

「……私はそんなこと、自分からは……とても、言えないから……言ってくれたら、うれしいな」

「そっか。立木さんが、自分から言える人なのかどうかわからないけど……そういう意見もあるなら、やっぱり僕から言ってみようかと思う」

 おっ。結依ちゃんのお言葉によって、矢鍋のやる気エナジーが充填されているようだっ。

「道森は立木さんとも、よくしゃべってるよな? すでにだれかと付き合ってるとか……ないか?」

 あ、今度は僕のターンだ。

「そんな話、汐織としないよ……てかだれともした記憶ないよ」

「そ、そっか。僕もこんなこと話すの、ここが初めてだしな。ははっ」

「でももしだれかと付き合ってたら、そういう男子の話がもう少し出ててもおかしくない気がする。話をしても、瑛那とのことが多いと思う」

「新居堂さんか。確かによく二人でしゃべってるね」

「そして瑛那からも、汐織が実はお付き合いしてましたぁ話なんて、聞いていないわけで。だからたぶん、今はそういう相手、いないんじゃないかな。た、たぶんだよ?」

「なるほどな、わかった」

 お役に立てましたかなっ?


 その矢鍋告白話はもう少し続いたけど、しばらくして普通のおしゃべりに戻っていった。バックギャモンも再開されたし。二人VS三人の変則対決もおもしろかった。


 解散するとき、僕は結依ちゃんと一緒に帰った。

 帰り道、結依ちゃんは相変わらずおとなしいわけだけど……

「ゆ、結依ちゃんはさ。女子同士で、ああいう話したり~……する?」

 気になるので聞いてみた。

「私はしないけど、しているのを混ざって聴いたことはある」

「へぇ~、やっぱりあるものなんだなぁ。男子同士なんて、全然だよ。矢鍋の言ってたように、あれがほんとに初めてって感じ」

 男子同士はああだけど、そういえば淋子と辺りなら、そんな話をしたことがなかったわけでもないような……? 今日ほど込み入った感じとは、全然違ったけど。

「結依ちゃんも、いつかはあんな話、だれかにするのかな~……なんて~……」

 あははと、ちょっと空を見てみた。よいお天気ですね。

「しないと思うなぁ」

「そ、そうなんだ~あはは~」

 わ~あの雲ソフトクリームみた~い。

「……はずかしいから、だれにも言わない」

「へ、へぇ~」

 あ、ちょっと向こう向いてる結依ちゃんだった。

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