第四話  授業が始まったけどっ

 今日から平常どおりのスケジュールになった。一年生とも、廊下などで顔を合わせる日常がやってきた。といっても、まだ一年生は部活に入ってないから、知り合いって京香ちゃんくらいしかいない……かな?

 京香ちゃんのように、友達のきょうだいとも一緒に遊んだことはあるわけだけど、そういえばいくつ下~とかまでは、あんまり気にしたことがなかったなぁ。

「あ、ゆっきーだっ。ゆっきーこっちこっち~」

 僕のことをゆっきーなんて呼ぶのは、同級生で淋子ただ一人であるっ。

 僕らの教室の近くにある、廊下の踊り場で……あれ、なんか結構いるぞ?

「ゆっきーちゃんだぁ~!」

 うん。僕のことをゆっきーちゃんなんて呼ぶのは、ふたつ下の学年で京香ちゃんただ一人であるっ。

 お~さすが一年生。上靴も制服もつやつや新品って感じだっ。

 一年生は、上靴の先端やシールや体操服とかは、緑がテーマカラー。三年生は赤だよ。つまりさらに来年の新一年生は、僕たちが使っていた赤になると思う。

「やあ。クラス写真撮るときに会ったね」

「うんうん! お姉ちゃん全然気づいてくれなかったぁ!」

「いやぁ~今日の晩ごはん何かな~って、しゃべってたんだってばぁ~」

 京香ちゃんは、あんまり身長は高くないようだ。学年が違うから、学年の平均と比べたらどうかというのは、ちょっとわからないけど。

 髪は短め。肩に掛かってない。昔から短めかなぁ。たまたま僕が会うのが髪切った後ばっかりとか……さ、さすがにないよね。

 淋子の身長は、僕よりほんの少し低い。髪は京香ちゃんほど短くはないけど、それでも短め。姉妹そろって元気っ子って感じなのは、昔から変わってない。

 女子の中では、結構外でも遊んできた仲。まぁ結依ちゃんとがいちばん遊んでると思うけどねっ!

 今年は同じクラスだから、よくしゃべることになると思う。

「菊嶋姉妹と一緒に……奥茂と若稲わかいな? こんなに集まって、なにかあったの?」

「オレがこの二人一緒にいてるとこに声かけたんだけどよぉ、近くにいた若稲も来たって感じかぁ?」

 奥茂は僕より身長が少し大きい。そんなに目立って高いわけでもないと思うけど。

 若稲というのは、若稲わかいな 乃和のわのこと。同級生女子中、おそらく最も身長が高いのが、この若稲。男子の中でも若稲よりも身長が高いのは、数えるくらいしかいない。

 おうちが道場らしく、技を受け継いでいるとかなんとか。でもこうして学校にいてる若稲を見ている限りは、なんというか、興味があることへ淡々とついていくっていうか……あんまりしゃべらないけど、目を輝かせているシーンは割と見るというか……ちょっと不思議なタイプ。でも随所でかっこいいシーンもあるという。

 髪は肩よりもっと長い。特に結ばれることはないかな。

 ちなみに……女子に対して、名字呼びと名前呼びがごっちゃだけど、名前呼びの女子のほとんどは、女子側から下の名前で呼びなさい、っていう話が出たパターンがほとんど。

 結依ちゃんのときは、仲良くなり始めたのが小さすぎて、最初から結依ちゃんだったけど。

「おっきいなぁ~」

 京香ちゃんは、文字どおり若稲を見上げている。若稲も、文字どおり京香ちゃんを見下ろしている。

「あたしらの学年で、最も大きな女の子がのわっち! もはやだれも抜けないだろうね~」

「ひょわ~」

 若稲とあんまりしゃべったことはないけど、一緒の班になったことは、割とあった。だから仲は……悪くないと、思う。

「ふぇ……? はわわわわぁ~~~!!」

「ちょ?!」

「うひゃー!?」

「うえっ!?」

 なんと! 見下ろしていただけかと思われた若稲は、京香ちゃんの両脇に手を差し込み、なななんとたかいたかーいしだしたぞ!? そしてなぜ無表情気味なんだ若稲ぁ?!

 京香ちゃんはひゃわひゃわなる以外どうにもできず、しばらくのたかいたかーい後、京香ちゃんは下ろされた。そのまま京香ちゃんはよろよろ、淋子に支えられる形となった。

「はわ、はわ、お、おねえ、しゃん……」

「あっはは……のわっち、さすがだねっ……」

 驚きを通り越した先の笑いを浮かべ、若稲を見る淋子。それに対し若稲は……ん? ぐーの右手の親指が上げられ……?

「……ふんっ」

(だからなんでドヤ顔してんスか若稲ぁ~~~?!)

 こうして今年も、笑いあふれる一年間が、始まっていったのだった。

「ゆっきーちゃんのいるクラス、おもしろいね!」

 ひとしきり笑った京香ちゃん。まだ淋子とくっついてるけど。

「中学最後の年にふさわしいメンバー、かもね」

 って思ったからそう言ったけど、じゃあ僕は、ふさわしいくらいのなにか目立ったところは、あるんだろうかっ?

「……ゆっきーちゃん?」

 と、後ろからまた別の声が聞こえたので振り返ると、立っていたのは立木たてぎ 汐織しおりだ。

「あ、しおりぃだー。やほっ」

 瑛那と仲良しである、あの汐織。僕は小学生のときからしゃべっている。

 身長は女子の中ではやや高め。瑛那とほぼ同じ。

 これまでの登場人物がインパクトある人らばっかりだったけど、汐織は学校生活をまじめに頑張ってる感じ。

 外で遊んだこともあるけど、マンガじゃない本を読むとか、文房具を買いに行くとか、頼まれたおつかいを手伝うだとか……こ、こう、本当に僕はちゃんと学校生活を頑張っているのだろうか?! と一瞬考えちゃうくらい、まじめなのが汐織。

 料理やお菓子作りが趣味と聞いたことがある。瑛那とは一緒に作ったことがあるらしい。若稲とはまた違った方向で、まだまだ謎に包まれている感じだろうか? ずっと前から知っているはずなのにっ。

 ま、まぁ学校で一緒に作業をするときとかにも、割としゃべる機会があったはずなんだけど。

「あたしの妹からも、ゆっきーはゆっきーちゃんなんだよー」

「こんにちは~」

 淋子に頭ぽんぽんされた京香ちゃんは、少し頭を下げた。

「こんにちは。そう……」

 汐織も少し頭を下げて、その次に……僕を見てきた?

「ゆっきーちゃん、ねぇ……」

「ど、ども」

 とりあえず、右手を後頭部に添えて、僕がゆっきーちゃんですよアピールしておきました。

「…………ぷふっ、ゆっきーちゃんねぇ……」

「そこ笑うとこぉ?!」

 ぇ、汐織がそこまで笑うのって、ちょっと珍しいかもしれない?!

 と思ったら、右手をちょっと上げて、広げて……あ、もう行くんスね。な、なんだったんだろう。

「立木、すげーツボってたなっ!」

 という感想を奥茂が述べたと思ったら、今度は若稲が動き、汐織についていくようだ。このついていく人物をスッと乗り換えるのこそ、よく見る若稲の姿。

「どこ行くの~? あたしも行っていい~?」

 あれ、京香ちゃんもついていくというのが、今年の新たなる風?

「あ、ゆいにゃんやほーっ」

「うぇ?」

 そんな後ろ姿三人を眺めていたところから、視線をこっちに戻すと、いつの間に結依ちゃん?!

(結依ちゃん忍者の子孫なんじゃないか派に、昔から一票を投じているんだけど……)

 本人は、軽く手を前で組んで、うん、いつもの学校の、いたってノーマルな表情。登場だけがいつも急なだけで。

「あぁ早苗っ、日誌か!? 待ってろっ」

 そういえば平常授業が始まった日の今日いきなり、結依ちゃんと奥茂が日直になってたなぁ。日直もくじ引きで決まる。

 奥茂は教室へ戻っていったようだ。

 いろいろとにぎやかだったけど、今この場には、僕と淋子と結依ちゃんの三人になっている。

「ゆいにゃんいきなり日直とか、ついてないね~」

 ひじでうりうりする淋子。動じない結依ちゃんさすが。

(ん~っと……)

 結依ちゃんのお顔は、いくらでも見ていられるわけだけど……なにか僕にも用があるとか?

「ゆ、結依ちゃんは、今年のクラス、どう?」

 ああうん、伝わってない。まばたきしてこっちを見ているだけ。言い直してっと。

「なんていうか、中学生活最後の一年にふさわしいメンバーだ~、とか、なんかそんなの……どう?」

 あぁ~……うん、伝わってなさげ。

「あたしはゆいにゃんと一緒のクラスになれてうれぴ~」

(僕もだよ!!)

 さすがにここで声には出さないけど!!

 淋子が結依ちゃんの左肩に、両手を乗せている。

「私も、うれしい」

(僕ともなのかな?!)

 べっ、別に気になんてならないもんっ!! ……もんっ!!

「ゆいにゃんはゆっきーと一緒のクラスでうれぴ~?」

(はっ!)

 淋子がそんな質問を! 僕の耳は瞬時に研ぎ澄まされる!

「うん、うれしい」

(生きててよかった)

 天井のチェック完了!!

「もちろんゆっきーも、ゆいにゃんと一緒のクラスでうれぴっぴ?」

「えあっとぅ、ま、まあそのっ」

 さ、先に結依ちゃんが言ってくれたもんね! だからお返しって感じでさ!

「……うれぴっぴ」

「よかったねぇゆいにゃん~」

 結依ちゃんもにっこりしてくれた。うれぴっぴってなによ……。

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