第六話  順調な三年生生活。え、またその話を僕に?!

「雪忠。ちょっといいかし……らって、ゆ、結依さん?」

「瑛那? なに、さっきの答え合わせ、間違ってた?」

 実は瑛那とは今、席が隣同士。僕の右隣が瑛那。

 さっき英語の授業で、授業の始めにミニプリントの答え合わせをして、瑛那の実力を見せつけられていたところ。

 結依ちゃんは英語の辞書をロッカーに置いて、その帰りに僕のところへ来たタイミング~……で、瑛那から声がかかった。

「い、いえ、それは問題なかったのだけれど……いいわ。この際、結依さんも一緒に聞いてくれるかしら」

 結依ちゃんなんか最近、僕に巻き込まれること、多くない?

「ちょっと……いいかしら」

「え? あ、うん」

 席を立った? 教室を出るみたいなので、僕と結依ちゃんもついていくことにした。


 廊下に出て、ちょっと奥ばったところまで。ここは廊下の端だから、すぐ周りには他に人がいない。遠目に見れば、どう見ても怪しい三人組に見えそうだけど。

「もうちょっと寄って。この話は秘密よ」

(近ぇっスよぉ!)

 瑛那が肩を寄せてきて、それで結依ちゃんとも肩ちょっと当たっちゃってあわわあわ。でも秘密の話らしいから、なんとか顔は動揺を出さないように出さないように。

「ひ、秘密? なんで僕たちに?」

 よしよし、動揺を隠せているはずだあぁ瑛那とも肩当たってあわわあわ。

「……雪忠。あなた、桂太郎くんと仲がよかったわね」

「矢鍋? まぁ、遊ぶくらいには」

 なにかと最近話題の矢鍋。

「桂太郎くんについて、なにか知っている情報は、ないかしら」

 じょ、情報~?

「情報って、例えば?」

 バックギャモンの成績とか? そんなわけないか。

「た、例えば…………す、好きな女の子がいるか、とかよ」

「すぅっ?!」

 思わず瑛那を見近すぎぃぃぃ!!

「どう? 知っているの? なにか知っていることがあったら、教えなさいっ」

「あいや、えーえぇ~っとぉ~…………」

 ここで僕は結依ちゃんを見てみた。結依ちゃんは、僕を見上げている。今日もすてきですね。じゃなくってっ。

「なにをじらしているのっ。き、気になる女の子がいるのかとか、どんな些細ささいな情報でも構わないわ。知っていることはないのっ?」

「ぁあぁぃゃあぁ…………だ、だって、ねぇ……?」

 う。結依ちゃん、まばたきがいつもよりしっかりしている。これはあれだな……

(漢の友情を忘れたのか、この軟弱者め!!)

 っていう警告だな、た、たぶん。

(じゃあ……え、えっと、よしっ)

 ここは心を決めて……

「きゅ、急にそんな話僕にされても、僕普段男子同士で、そういう……だれだれがだれだれを~とか、そんな話、しない~……し?」

 あ、よかった。結依ちゃんのまばたきを見るに、この答えで間違いではなかったようだ。

 とうとう僕、結依ちゃんの気持ちが、まばたきだけでわかるようにまでなっちゃってたよ……。

「そ、そう。なにも知らないのね?」

(う。そういう念の押され方されると、ちょっときついけどぉ)

「すっ、少なくともっ。話せるほどの情報は持ってないよっ。僕たち普段遊んでばっかりだし、もし、お、おつぅきあぃとか、す、すきぃな人とか、そういう人がいたら、もっとその人とも一緒に遊ぶだとか、話に出ることもありそうだけど、男子同士で遊んでばっかりだよ」

 ど、どうよ? たぶんうそはついてないさっ!

 瑛那は僕の話を聞いて、ちょっとだけ顔を離した。ほんとにちょっとだけど。

「そう……よくわかったわ」

 ……でもなんで瑛那が、そんな情報を聴きにきたんだろう?

「瑛那がなんでいきなり、そんなことを?」

 ぅあぁまた寄ってきたぁ!

「秘密よ」

 どがしゃっとこけそうになったけど、今こけたら二人にぶつかりそうなので、こけなかった。

「結依さんは、桂太郎くんのことについて、なにか知っていることはないかしら。き、気になる女の子がいる、とか」

 ここで結依ちゃんにも。お返しとばかりに、僕も結依ちゃんを見てみよう。あぁいいなぁ結依ちゃん。

「……雪忠くんの方が仲がいいと思うから、雪忠くんが言えることないなら、私もなにも言えないっ」

「そうね……わかったわ」

 ほっ。今度こそ瑛那は少し離れた。はず。

「時が来れば話すわ。それじゃあ、またなにか聴くかもしれないけど、よろしくね」

「は、はぁ」

 ふーっ……瑛那と近すぎたぜ……。

(てひょほぉーーー!!)

 結依ちゃんとも近すぎたぜー!

(結依ちゃんも瑛那も、男子と近づいてもへっちゃらなんだろうか……?)

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