閑話 駒鯉陽愛は後悔する

「ちなみにさ、二人の間に何があったのか改めて聞いてみてもいい?」


 行人ゆきひとくんの家から琴歌ことかちゃんの家に帰って、琴歌ちゃんの部屋で二人になったところで、気になったことを聞いてみる。


 まあ、なんとなく想像できるけど……。


「それは……」

「それは?」

「えぇ…………っと」


 琴歌ちゃんは言い淀んで部屋の中をキョロキョロと見渡した。

 ここ最近の琴歌ちゃんの様子がおかしい。というか、琴歌ちゃんが行人くんの話をする時は、いつも積極的にしてくれるけど、最近はなんだか避けてるように見える。


 正直わかりやすい……菜由なゆちゃんは気づいてなさそうだったけど。


「言わなきゃ駄目ですか?」

「えっ、いや……別に言いたくなかったら全然大丈夫だよ!」

「そ、そうですか?」


 あまり無理に聞き出してもなんだか悪い気がするし、多分隠したいことでもあると思うから、琴歌ちゃんが言いたくなったら詳しく聞こうとは思ってるけど…………まあ、気になってしまったから聞いた後でそんなことを思っても遅いんだけど……。


「そ、そうだよ! 行人くんと喧嘩してないのはわかったし、二人ともなんだかんだ仲が良さそうだったから、私が心配することはなかったなーって、もうわかったから大丈夫だよ!」

「はい。喧嘩はしてないんです……ただ」


 琴歌ちゃんは胸元に手を当てて、手を強く握って呼吸を整えるように深く息を吸った。


「その……私は……」

「うん」

「…………私は…………ユキくんのことが…………好き、です」


 琴歌ちゃんは顔を真っ赤にしながら俯いて、消え入りそうな声でそう呟いた。


「琴歌ちゃん!」

「へ? きゃあ! なんですか!?」


 しまった。あまりにも愛おしくて思わず琴歌ちゃんに飛びついてしまった。


「あ、あの……陽愛ひまなちゃん?」

「ごめん。可愛いが過ぎたのでつい」

「え?」

「でも、なんか無理に聞き出したみたいでごめんね」

「い、いえ……やっぱり陽愛ちゃんには知っていて欲しいと思ったので……というより隠すようなことでもないはずですし」

「恋心を打ち明けるのは緊張すると思うし、全然隠していても良いと思うよ」

「でも、隠したままではいたくなかったんです」


 とりあえず琴歌ちゃんから離れて、もう一回ちゃんと向き合って座る。琴歌ちゃんは恥ずかしさからか、少し目が潤んでいるように見えた。


「というか、今更こんな気持ちになってユキくんとどう向き合えばいいかわからなくなって……もう私一人では……」

「そっか……」


 琴歌ちゃんと行人くんは幼馴染で、今までは仲の良い友達という感覚が強かったかもしれない。傍から見ていても、二人の仲の良さは伝わるけど、下手をすればこの恋心が、その関係に溝が入る可能性がある。それが怖いのかもしれない。

 行人くんも、琴歌ちゃんのことは好きだろうけど、それが恋愛的な好きなのかはまだわかんないか。


 …………ん? でも、琴歌ちゃんが気まずくなるのはわかるけど、行人くんの様子もおかしく見えたけど、あれは……。


「本当にどうしたらいいかわかんないんですよね……ユキくんに、私と二人で過ごしたいなんて言われて、私はどうしたらいいか……」

「…………え?」


 ああ、行人くんはそんなことを言ったのか。

 恋心に気づいた琴歌ちゃんに──いや、そんなことを言ったから琴歌ちゃんも自覚したのかもしれない。


 ………………これ、両思いでは?


「私は本当にどうしたら……」

「その後は何か──どこかに誘われたりとかしたの?」 

「い、いえ……その後はまだ……決まってなくて」

「そっか」


 向こうも結構勢いで言っちゃった感じなのかな。でも、きっと琴歌ちゃんのことが好きなのは嘘ではないし、今の琴歌ちゃんみたいに関係が壊れるのを怖がっていたら……


「琴歌ちゃん」

「は、はい」

「もう琴歌ちゃんから誘ってみよう!」

「えぇ!?」


 行人くんに冷静になる隙を与えたらダメだ!

 今ならまだ追い込めば行けるはず。


「せっかく番号交換したんだし電話しよう!」

「い、今からですか?」

「今!」

「う……」


 琴歌ちゃんは苦しい顔を浮かべる。余計なお世話かもしれないけど、背中を押してあげるのも悪いことじゃない……よね?


「わ、わかりました……」


 琴歌ちゃんは渋々そう言うと立ち上がる。


「じゃあ……ちょっと待ってて下さい。電話してきます……」

「うん、いくらでも待つよー。というか私のことは気にしないで」


 部屋から出て行く琴歌ちゃんの背中を見送って、一人取り残された部屋の中でふと思う。


「私、来ない方がよかったかなー……」


 二人の関係が進展しそうなところで、泊まりに来てしまったことに少し後悔して、乾いた笑いが出てしまった。

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