第28話 幼馴染と夏休み②

 昼食は琴歌ことかの手料理を頂いて、その後は俺が食器を片付けてる間に他愛のない会話を三人でした。二人はそれ程長い時間居た訳でもなく、俺が片付け終えたのを見てから帰っていった。一応手伝おうとはしていたが、こっちも昼食を作ってもらっている身なので、そこは俺一人で片付けていた。


 それから既に三時間が経過していた。


「……えぇ?」


 時計を見て困惑した。二人が帰った後、俺はソファに横になったのだが、そのまま寝てしまったらしい。夏休みとはいえ贅沢な時間の使い方をしてしまった。


 いや、やることがないと言えばそうなんだが……。


「はあ……」


 思わずため息が漏れた。

 妙に緊張してしまったから、そのせいで疲れたのかもしれない。


「というか……」


 今の俺は完全に待ちの姿勢だ。琴歌を誘ったものの、今は駒鯉こまごいが居るというのを言い訳にして、問題を先延ばしにしている。


 そうだ。琴歌と"二人で"という誘いをしたのにも関わらず、肝心の"どこで、何をするか"というのを考えてない。


「マジで勢いで言ったな……」


 夏休み前のあの時、琴歌と家の前での会話を思い出して、背中が痒くなる。


「ここまで来たら、やっぱり告白するべきだよなぁ……」


 そう考える度に胸が苦しくなる。

 

 正直言うと怖い。ここで告白して断られたらどうなるのか。顔を合わせるのも気まずくなるし、そうなったら今日みたいに家に来ることもなくなるだろう。


「やっぱりやめるか?」


 告白しなかったら、今の関係のままでいられるのだろう。もしかしたら、それが一番いいのかもしれない……。


「………………」


 目を瞑って、再びソファに倒れ込む。ちょうどその時テーブルの上に置いたスマホが震えだした。

 気だるげな身体に鞭を打って起き上がる。スマホの画面を見ると……


「琴歌?」


 画面に表示されたのは"姫榊琴歌"という名前。このタイミングで電話を掛けられて息が詰まった。


「まじか……」


 一瞬、やり過ごそうと躊躇ってしまったが、流石にそれはないだろと、自分の頭を叩いて電話に出る。


「あー……なに?」

《すみません。今大丈夫で──……寝てました?》


 なんでわかった。と、思ったが流石に声がおかしかったか。


「まあ、な」

《……後にしましょうか?》

「いや、いいよ。もう目が覚めた」

《じゃあ……》


 と、そこで琴歌の声が止まった。電波が悪いのかと思ってしまう程の唐突さに、困惑しつつも意識を耳に集中して言葉を待つことにすると、なにやら神妙な息遣いが聞こえてくる。


「あのさ……」《あの……》


 空気に耐えきれずに俺が話しかけようとしたら、見事に被ってしまった。


《あっ……えっと……》

「悪い、琴歌から頼む」

《はい、そうですね。私から電話掛けましたもんね》


 今度こそと琴歌の息を整える音が電話越しに聞こえてくる。妙にドキドキしてしまうのでやめて欲しい。


《もしよかったら……》

「ん」

《もしよかったら……一緒に……》

「……一緒に?」

《一緒に……夏祭りに行きませんか?》

「夏祭り?」


 夏祭り……その言葉を聞いてハッとひした。毎年この時期になると、商店街を中心に開かれるもので、こんな田舎でも中々な賑わいをみせる夏のイベントだ。


 …………いや、俺が言うべきだったんじゃないか? 自分の不甲斐なさに呆れてため息が出そうになる。


「ああ、そうだな……俺もそうしたい」

《ほんとですか?》

「嘘つく訳無いだろ」


 少し琴歌の声が上擦ったように聴こえたのは、俺が渋ると思った驚きか、それとも嬉しいのか。


《ありがとうございます。じゃあ後でまた連絡しますね》

「ああ、ってか駒鯉はいるのか?」

《へっ!? な、なんでですか?》

「いや、あんまり長電話するのも悪いかなって」

《そ、それは大丈夫です……はい。大丈夫ですから》

「そうか?」


 なんだか急に慌てたような気がするが……。


《じゃあまた……》

「ああ…………楽しみにしてる」

《はい……私も、楽しみにしてます》


 電話が切れると、もはや何度目かわからないが、ソファに倒れこんだ。


「このままじゃ駄目だろ」


 自分の情けなさに奥歯を噛んで目を強く瞑った。

 

「あと一週間くらいか」


 カレンダーを見て夏祭りまでの時間を考えると、勢いよく立ち上がって、顔を叩いた。いつまでも琴歌に甘えてはいけない。


「俺は琴歌が好きだ。そうだろ」


 改めて自分の意志をはっきりさせるように呟いた。 

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