第24話 幼馴染と球技大会②
球技大会というのは所詮お遊びの面が強い。まあ真面目にやるなら部活に入ってるという話だから、みんな楽しくやれればそれでいいのだ。それでもやはり勝負事となれば人は勝ちたくなるようで、このバスケはみんな少し気合が入っているように見えた。
「
チームメイトから名前を呼ばれ、パスを貰う。普段はあまり喋ったことがないクラスメイト達だが、数少ない経験者である俺が頼りなのか、よくパスが回ってくる。
パスを受け取り、そのまま流れるようにシュート体勢に移行する。焦った相手が止めに来るが、やはり経験不足からかブロックが甘いこともあって、既に手遅れ。俺は意に介することなくシュートを放つ。
「またスリーポイント!」
その声はどちらのチームから上がったものか。自分で言うのもなんだが、俺の放ったシュートは綺麗な放物線を描いてゴールに吸い込まれるように落ちていく。パスン。と、リングにぶつかることなくゴールに入ると、僅かに歓声が上がる。けれど、もしかしたらその歓声は隣のコートのものかもしれないので、俺は特に反応することなく冷静さを保つ。
「すごいな依河くん」
「ん。いや、ナイスパス」
「はー、クールだなー」
「ナイスシュート!」
駆け寄ってきたチームメイトに軽く手を挙げて応える。最初はお互いにちょっと余所余所しい感じだったが、少しずつ打ち解けてきた感じがする。身体を動かしてアドレナリンが出てきたからか。
相手は同じ一年生のチーム。勝負は今のところこちらが僅かにリードしている。それもあってか、チームメイトからはあわよくば勝ちたいという雰囲気が透けて見えて、試合が始まった時よりも声が出ている。それは別に悪いことではない。
願わくばこの和やかな雰囲気が球技大会後も続いて、みんなと打ち解けられたらいいが、球技大会が終わればすぐ夏休みだし、忘れ去られそうではある……などと、既に終わった後の事を考えていると、相手チームの方になにやら動きがあった。
「メンバーチェンジで」
相手チームからそんな言葉が聞こえてると、コートの外に居た二人と入れ替わる。……あの二人は
「依河くんー」
と、そこで自チームの外野からも声が届いた。振り返ると千明が手を振って主張していた。なんだか嫌な予感がしてきたが、とりあえずチームメイトに話しかける。
「あー……っと、千明が出たいみたいだけど」
「あ、じゃあ俺が代わるよ。次のバレーの為にも体力温存しておきたいし」
「わかった」
チームメイトの一人がそう言って千明と入れ替わる。他にも出たい人が居るなら代わろうと思ったが、どうやらいないようで……みんな薄々と気づいているんだろう、お互いにバスケ部が出てきて、本格的に勝ちを取りに来ているという雰囲気が漂っていることに。
「怪我すんなよ」
「とーぜんそこらへんはうまくやるよい」
一応千明に注意はしてみるが、熱くなりやすいタイプなので心配だ。
「ここまできたら勝ちたいもんなー」
そう言う千明の言葉に感化されてか、他のチームメイトの顔も気合を入れたような顔つきへと変わっていた。
その後はかなり接戦だったが、ついには逆転を許した。原因は頼みの綱の千明が二人がかりで徹底的にマークされていたからだ。普通の試合ならともかく、こんなところで怪我をしてはならないからか、千明も強引に突破するのを控えていた。
少しずつ時間がなくなっていく……点差は一点差、千明だけでなく俺にも徹底したマークがされていた。先程まではボールを追っていた相手は、俺から目を離さないように向き合っている。バスケ部の二人の入れ知恵だろう。とりあえず俺と千明を止めればなんとかなると思われてるんだ。
これは流石に厳しいか。そう思っていた時だった──
「
どこからともなくそんな言葉が聞こえてきた。
千明のことはみんな知っているんだろう。けど、実際に千明がプレーするところを見たことがる人はいない。中学の時、俺は思っていたことがある。バスケ部にも野球部みたいに全校応援があれば、千明の凄さが伝わるんだろう。と……
そうだ。千明は凄いやつなんだよ。俺が頑張っても追いつけないような奴で、だから俺は現実を突きつけられたんだ。
千明が天才で、俺は凡人だということを……。
「ッ──」
俺は駆け出した。俺をマークしていた相手がそれに付いてこようとするが──
「うわっ!」
「わあっ!」
俺をブロックしていた相手と、フリーになっていた味方の一人がぶつかりそうになって、慌ててその二人の動きが止まる。狙ったわけではなかった。ただ走らなければと思ったんだ。
「千明──!」
ボールを持った千明のところに向かう。その瞬間だった。
「!?」
俺のことを一切見ずに、千明をブロックしていた一人の股を抜いて後ろにボールをパスした。まるで俺が来ることがわかっていたみたいに、ボールは俺に渡った。
そこからは何も考えていなかった。
ただ反射的に身体が動いて、シュートを放った。気づいたのはその後だった。そのシュートを放った場所が、俺が最も得意としていた立ち位置であり、俺が中学最後の大会で外した場所。
放たれたボールはゴールに吸い込まれて落ちると、そこで試合終了のブザーが鳴った。
「うおおお! すげー!」
「なんかすげーいい試合したな!」
周りから歓声が上がる。
「依河くんやったな!」
「え、いや……決まってよかったよ」
チームメイトも笑顔で俺とハイタッチする。遊びだというのに最後はムキになってしまったのが少し恥ずかしい。けれど……
「ナイスシュート」
すれ違いざま、千明が俺に言う。その言葉は俺がずっと欲しかった言葉だった。
香木原千明という選手は、俺にとって憧れだった。俺が全力を出しても追いつけない天才で、隣に立つことも出来ないような実力差があった。
だから、ようやく認められた気がした。大げさかもしれないが、こんなものでも……試合で千明に褒められたのが嬉しかった。
未練はなかったはずなのに。胸の奥の熱はいつまでも冷めなかった。
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