第21話 幼馴染とテスト①
雨の降る日が続く六月。期末テストを目前に控え、学校は既にテスト期間に入り、部活動も練習を禁止されているこの二週間は、全校生徒が、このテストに向けて勉強に励まなくてはならない。というプレッシャーを感じながら過ごしているだろう。
俺も部活に所属していないが……いや、所属していないからこそ、より一層勉学に励むべきなのだろう。そんなことを感じながら、テスト目前の日曜日を迎えていた。
「本当にわからないところはないんですよね?」
対面に座り込んだ
「昨日も夜に復習してたけど……まあ、問題なさそうだな」
「…………確かに、私が作った問題も全問正解してますけど」
言わば小さな部屋の中に二人っきりという状況だが、特に琴歌と遊んだりすることなくこのテスト期間は、しっかり教えてもらっていた。
「琴歌様のお陰でもう完璧よ。全知全能とは正にこのこと」
「大げさすぎますよ」
呆れたような顔で琴歌は俺の目を見つめる。
「今回はマジで百点いけるかもしれん」
「それフラグじゃないですか?」
「いやいや、自信を持つことは悪いことじゃない。気持ちが落ち込んでいたら十分なポテンシャルが発揮できないからな」
「スポーツとかならそうなんでしょうけど……勉強でメンタルってそんな影響あります? 受験とかの大舞台なら必要でしょうけど」
「期末テストも大舞台だろ」
「あと何回あると思ってるんですか……毎回そんな覚悟持ってたら寿命縮んじゃいますよ……」
毎回、勉強前にこんなくだらない会話をして、勉強し始めると真面目に取り組む。それがいつもの流れだった。
「そう言えば、今日はお昼どうします? お母さんとお父さんはまた……」
「あー、そうだな。お願いしようかな」
昨日も今日も、母さんと父さんは示し合わせたかのように外出したので、琴歌に昼ご飯を作って貰っている。明らかに俺と琴歌を二人きりにさせようとしているが、深くは意識しないようにしている。
「我ながら真面目に取り組んでいるな。本当に」
自分で言うのもなんだが、まさかテスト勉強をここまで真面目にやるとは思わなかった。集中し始めれば集中していられるタイプではあるが、それでも勉強自体は苦手な方だから。
「真面目にしてなかったら怒りましたからね?」
「本当に感謝してます」
「軽いですねえ」
「いやいやこの頭も大分重くなったはず」
そう言って頭を下げると、琴歌は「はいはい」と適当に相槌をする。なんだか少し余裕が出てきたからか、いつもより余計に雑談をしている。でも、琴歌のおかげで勉強に身が入っているのは事実だ。流石に人に頼んでおいてふざけてはいられない。
「あとはラストスパートってところかな」
「テストが終わるまでは気を緩めないで下さいよ。名前の書き忘れとか」
「それは本当に笑えないから気をつけます」
「ならいいんですけどね」
琴歌はそう言ってバックから参考書とノートを取り出して、テーブルの上に置く。しかし改めて考えると、こうして
しかも親がいない二人っきりの状態で…………
「ユキくん?」
「んん? ど、どうした?」
「いえ、なんだか視線を感じたので」
「気の所為だろ」
余裕が出てきたからか、琴歌のことを注視してしまった。
「カンニングの練習ですか?」
「だとしたら俺がやらないことが証明されたな」
「"やったけどバレた"はやらないことの証明にはならないと思いますが」
「……やらないから安心しろ」
「まあその心配は元々してませんけど」
叱られるかと思ったが、意外にも琴歌は微笑んでみせる。
「信用してるんだな」
「まあ幼馴染ですからね」
「…………関係あるか?」
「ありますよ」
琴歌は俺のことを信用している。昨日に続いて今日も親がいないことはわかっていたはずなのに、それでも俺の部屋まで躊躇うことなく来てくれている。それは俺に手を出される心配はないと安心しているからだろう。
いや、俺としてはもう少し警戒してほしい気持ちはあるんだが。
琴歌はしっかり者だから、気を抜いて無防備な姿を晒すことはないけど、時々距離が近くて落ち着かない。俺も男だから流石にもう少し警戒はしてほしい。特に暑くなってきて薄着になってくるこの季節は────
「ユキくん?」
「んんん? どうした?」
「またぼーっとしてましたけど?」
「いや、なんでもない」
「…………あんまり隠されると、こちらも気分が悪いんですけど」
「いや本当になんでもないんだ。心の余裕からかな……ははは」
乾いた笑いを浮かべて誤魔化すが、琴歌は目を細めて睨みつけてくる。
「なるほど。そういうことでしたら一つ提案があります」
「提案?」
琴歌はジトりと睨んだ状態で指を一つ立てた。
「もし満点が取れなかったら私の言うことをなんでも一つ聞くというのはどうですか?」
「…………お前、それ好きだな」
この間も言ってたけど。
「そんなに自信があるなら大丈夫でしょう」
「待った、せめて……せめて九十点とかにしないか?」
「いいですよ」
「え、意外とすんなり」
「それは九十点なら取れるということですもんね?」
「あっ……それは……」
琴歌はにっこりと笑顔を向けて改めて確認を取る。
「できますよね?」
「あっ、はい…………」
流されるまま受け入れてしまった。でも、"琴歌の言うことを聞く"というのはまだ良かった。また今回も"琴歌が言うことを聞く"というのなら、俺は遠慮して頑張らなかったかもしれない。
琴歌に何をされるかまだわからないから、安心するのはまだ早いんだろうけど……。
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