閑話 深澄菜由は警戒する
休み時間は主に本を読んでいる。難しい本を読んでるかのように思われがちだけど、基本的にライトノベルを好んで読んでいる。最近は電子書籍も流行っているが、ライトノベルは紙媒体に限る。挿絵を数ページ前の段階で察知できるので、表紙さえ隠せていればオタクバレしない。
兄の影響でラノベやゲームを嗜むようになったが、話が通じる人があまりいない寂しさを感じる。
そうだ、
「琴歌」
「はい?」
突然、
「どうしました? ユキくん?」
「え、ああ、えっと…………」
私の席からだと二人の話し声が聞こえてないこともない。悪いと思いながら、意識を耳に集中させて盗み聞きした。でも、依河くんは中々話を続けず、ちょっと間をあけて……。
「…………いや、ちょっと話しかけてみただけだ」
と、言った。
「なんですかそれ」
本当になんなんですか?
え? 話しかけてみただけって何? それはカップルのやり取りじゃないの? 琴歌はさっきまで陽愛と話していたけど、もしかして、振り向いて欲しくてってやつなのかな。
ゴールデンウィーク前にしていたそんな二人のやり取りが、どうしても気になってしまった。
連休明け、休日気分が抜けきらない私はお弁当を家に忘れた為、購買でパンを買っていた。いつも陽愛と琴歌と三人で食べる中庭に向かうと、先に到着していた二人は、既に何かの話題で盛り上がっていた。
「菜由ちゃんおかえりー!」
「おかえりなさい菜由」
「うん、ただいま」
陽愛の元気なお迎えもいいけど、琴歌の新妻のようなお迎えもいい。とか思いながら、小さなテーブルの椅子に座る。
「それで足りますか? もしよかったら私のおかず分けますよ」
「んー、じゃあ貰おうかな」
「はい」
「私のもあげるよー」
二人は琴歌のお弁当の蓋におかずを乗せると、それだけで足りそうな量になり、逆に申し訳ない気持ちになってしまうが、ここはありがたく頂戴しておこう。
「こういう時の為に割り箸もありますよ」
「用意周到だね。ありがとう」
こういう時を想定しているのか。と思いながら、割り箸を貰う。さて、何から食べようかと、悩んでいると…………。
「それで琴歌ちゃん。身体の方は大丈夫なの?」
「はい。ずっと痛かったですが、休んだら治りました」
何の話だろうと思ったが、多分私が合流する前にしていた話の続きをしているのだろう。
「でも
「私に至らない所がありすぎただけだと思います。ユキくんも途中からは楽しそうにはしていましたけど」
「行人くんって意外とSなんだねぇ」
…………何の話だろう。
「いえ、私の動きが少しずつ良くなってくるのが見ていて楽しかったそうです」
「じゃあ愛の鞭だね。成長してくるといろいろ教えたくなるやつだ」
「私も悲鳴を上げながら頑張りました……まだまだ未熟ですが」
何の話だ? 多分、琴歌と依河くんの話なんだろうけど…………愛の鞭? 悲鳴?
ゴールデウィーク前のやり取りから、二人の関係は進んでいるとは思ったけど、それは大丈夫な方向に進んでいるのだろうか。
「身体中痛くても頑張りました……ユキくんはちゃんと向き合ってくれたので、途中からは見捨てられないように言われたことを必死にこなしました」
………………本当に大丈夫なの?
琴歌の言ってることがDV彼氏と別れられない女みたいになってるけど、本当に大丈夫なの?
「でも、中学校のユキくんは
「んんんっ──!?」
「菜由ちゃん!?」
あまりに驚いてむせてしまった。
「菜由、大丈夫ですか?」
「……大丈夫、ちょっと変なところに入っただけ」
「口に合いませんでしたか?」
「ううん、そんなことない美味しいよ」
「そうですか? 大丈夫ならいいんですけど」
流石に何の話してるか聞いた方がいいかもしれない。人と人とが話しているところに割り込めない性格だから、気になっても聞くに聞けなかったけど。
「えぇと……依河くんの話してたの?」
「うん、琴歌ちゃんと行人くんがバスケの練習してたって話」
「あーそっか、なるほど」
「それで筋肉痛が辛くかったんですよね……」
「なるほどね。理解した」
そうかバスケの話か、琴歌は運動が苦手だからその練習か、私も素人だから上手く教えることは出来なかったけど、依河くんは経験者だから教わるならいい相手だろう。
それで
「大変でしたけど、楽しかったですよ」
「そっか。よかった」
…………でも、そんな大変そうな琴歌を見て楽しんでいたらしいけど、それは大丈夫なのだろうか。
やはり依河行人という男子は少し危ない人なのかもしれない。臆病な私はそう思わざるを得なかった。
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