第11話 幼馴染と約束①
長い白金の髪に透き通った青い瞳。誰に対して優しくて、丁寧な言葉遣いで喋り、笑うときは手を口元に添えて上品に笑う。正しく多くの男子の理想を体現しているかのような容姿端麗な様は、幼馴染の俺でも話しかけるのに遠慮してしまう程の──……………いや、それじゃダメだろうが。
『仲の良い男子がいたら、あまり接点のない人は遠慮するだろう』、これは昨日俺が琴歌に提案したことだ。だとしたら、“その仲の良い男子”の姿を少しでも周りに見せつける必要があるはずだ。なのに、俺は特に話掛けることもなく過ごしている。言ってることとやってることが矛盾している。
今日も琴歌と一緒に登校してきたけど、いつも通りバス停までだから、学校には別々で来るし、話すようなことはその朝に大体話してしまっている。学校に来た後は特に会話はなく、琴歌も特に
…………言い訳をするな
お前は今、女子との約束を現在進行系で破っているんだぞ。それは────待て、そもそも駒鯉は俺のことを友達だと言っていたから、別に会話に混ざってもいいのでは? いや、混ざれる訳ないだろ馬鹿かお前は? 女子トークに入れると? お前なんなんだよ?
頭の中で自分が四人ぐらいに増えて論争している。もうわけがわからくなって、やけくそ気味に頭を掻いた。もう面倒くさい。
「琴歌」
「はい?」
とりあえず琴歌に声を掛けた…………で、何を話せばいいんだ?
「どうしました? ユキくん?」
「え、ああ、えっと…………」
やばい。何も考えてなかった。駒鯉と話していたところに割り込んだので、駒鯉もきょとんと目を丸くしている。俺は必死に目を動かして、何か話題になりそうな物を探した。気づけば教室にいる何人かはこちらの様子を伺っていた。思っていたよりも目立っている。
名前を呼んだだけなのに。
「…………いや、ちょっと話しかけてみただけだ」
「なんですかそれ」
本当になんなんだろうな。話しかけるなら、何か話題になりそうな事を考えるべきなのに、ただただ琴歌と駒鯉の会話を邪魔しただけになってしまった。
「『ユキくん』って行人くんのことだったんだ」
俺が申し訳なさそうにしていると、駒鯉が俺達に話しかけてきた…………ん? だったんだ?
駒鯉は俺と琴歌が幼馴染なことは聞いているし、昔の呼び方についても知っていたのか。
「ええ、昔はそう呼んでましたから」
「なんでまた呼ぶようになったの?」
「それは……なんででしょうね? ユキくん?」
「え!?」
そこで俺に振るのか!? そもそも俺は別に『ユキくん』と呼んで欲しいなんて言ってないけど!
「まあ……なんだ、おかしいことではないだろ」
駒鯉は俺と琴歌が幼馴染なことを、琴歌本人から聞いているし、俺の昔の呼ばれ方も知っている。だとしたら、昔の仲の良さもある程度は聞いているだろう。
「そうですね。私もユキくんに合わせていますから」
「それはそうなんだが」
琴歌の言葉を聞いて、教室が少しザワついた。噂を広めるという目的を考えれば、それぐらいがいいのかもしれないけど。
「二人は昔から仲が良いんだよね」
昔から、というか昔は、という感じではあるが、仲が悪かったわけでもない。それに今は……
「そうだな。友達の中でも一番と言えるくらいには信頼してる」
流石に恥ずかしくなってきて、頭を掻きながら答えた。
「ふーん」
その「ふーん」はどういう……。
琴歌が横目で冷たい視線を浴びせてくる。怒っている、というよりは呆れているような。口元は少し笑みを浮かべて誂っているようにも見える。
確かに、高校入ってから避けていたのに、どの口が言っているのか。と思われるだろう。
「ふーん」
「なんで駒鯉まで」
「ふふーん」
「なんでそんな楽しそうなんだ」
「ふふふーん」
駒鯉はニコニコと俺と琴歌を見比べている。なんだがすごい楽しそうなのだが、それがなぜなのかよくわからない。
「一番信頼してる友達……か、いいね」
「なにが?」
「いやいや、まだまだ美味しい時期だなって」
「何の話だ」
もはや駒鯉が何を言っているかわからない。一人で満足そうに頷いて、静かに手を叩いている。スタンディングオベーションといった様子だ……既に立っていたから、この言葉は適用されないかもしれないが。
駒鯉の奇行に困惑して琴歌を見ると、別に琴歌は気にもとめていないようで、ぽかんとしている。ただ、俺と目が合うとにやりと不敵な笑みを浮かべる。
「私としては“68点”というところですけどね」
「……採点基準がわからないが、手厳しいな」
でも、この間は“65点”だったから少しはマシになったのだろう。採点も配点も謎だが、琴歌との関係は修復されつつあるのかもしれない。
そこで次の授業の開始を知らせるチャイムが鳴った。
駒鯉は琴歌に手を振って自分の席に戻っていく。まだ、先生は来ていないが教室の皆も自分の席につく。
少し目立ち過ぎた気がする。様子を伺うように、目だけを動かして教室の中を見渡そうとして、横を見た時に琴歌と目が合う。ちょうど次の授業の教科書を机から出していた。
「ふふ、今日は目を逸らさなかったですね」
「うるせぇな」
楽しそうに笑う琴歌に煽られて、少しムカついたので、露骨に目を逸らして、頬杖をついて窓の外を眺めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます