閑話 駒鯉陽愛は憧れる
私──
同じ歳の子は周りにはいなかったから、高校に上がる時は一人で、実質見知らぬ土地に投げ出されたようなものだ。
「ハンカチ落としましたよ?」
「えっ、ありがとう──」
そんな時に声を掛けてくれた
絶対に優しい人だ!
安直にそう思った私は、これを気に琴歌ちゃんと仲良くなって、学校では琴歌ちゃんと過ごすことが多くなった。
「琴歌ちゃんって、お嬢様なの?」
クラスにも馴染めて来た頃、小学校から琴歌ちゃんと一緒だった女の子の一人──
背中にかかるほどのセミロングの黒髪に、背が高くて、釣り上がった黒目をした菜由ちゃん。少しクールな印象を受けるけど、話しやすい女の子。
「うーん。お嬢様っていうのは聞いたことないなー」
どうやら違うらしい。それにしても、言葉遣いは丁寧だし、ところどころに育ちの良さ……というか気品のようなものを感じるような。
「まあ、そう思っちゃうのも無理ないよねあの見た目だと。大人しい子ではあったけど、髪伸ばしてからは大人らしくなったというか」
「はえー」
髪の短い琴歌ちゃんもちょっと見てみたいな。ああいう美人は余程のことがない限り、どんな髪型も似合うんだろう。
その容姿もあって、今は男子からの人気もすごいが、中学の時はそうでもなかったらしい。小学校から一緒だから、みんな感覚が麻痺して自然と受け入れていたから。
というのもあるが、それとはまた別の理由があるらしく、知っている女子は苦笑いしてしまう。
「しかし、男子も可哀想に……琴歌には
「依河くん……って一番後ろの席の子だよね?」
「そうそう。あの二人、家が隣同士の幼馴染なんだよね」
「へぇー!」
家が隣同士の幼馴染。まるでラブコメのような話に、少し興奮してしまう。
「小学校の時とか、二人ずっと一緒でさ、周りからよく誂われてたりしたなー」
「そんなに仲良かったんだ」
「そりゃ、もうね」
いいなー。
私もそういうのニヤニヤしてしまうのを見たかったけど、私のところだとみんな家族のような感覚だし、そもそも同い年の男子もいないし、憧れてしまう。
「それで誂って『依河くんのこと好きなんでしょ?』って、聞いたらあの子『うん! 大好き!』なんて言うから、盛り上がっちゃって」
「え、やばい。鼻血でる」
「それは抑えて。まあ小学校の時だし、特に恋愛的な気持ちはないかもしれないけど。琴歌も覚えてなさそうだし」
「うーん、それはもどかしいなー」
「でも中学の時に髪伸ばしてる理由聞いたら、なんでもないような顔で『依河くんがその方がいいって』とか……」
「えっ?」
そこまでくると、流石に言わざるを得ない。
「二人は付き合ってるの?」
「いや、付き合ってないって琴歌が言ってた」
「………………どういうことなの?」
「あたしにもわからん」
付き合ってない方がおかしいようにみえる。けど、それはそれでいいなぁー……。
恐らく二人はラブコメで一番美味しい時期にあるかもしれない。所謂、両片想いという、お互いに意識したりしなかったりで、傍から見ていてもどかしい時期。
そんなものをリアルで間近で見れるなんて……。
「やばい。鼻血でる」
「なんで?」
個人的にラブコメは付き合う前が一番面白いと思っている。付き合ってからの尊い時期も好きだが、やはり私は膝を叩きたくなるようなこの時期が好きだ。
「それにしても琴歌ちゃんはどこいったんだろ?」
「なんか次の授業のことで先生に話があるってさ」
時間は昼休み。お昼ご飯を食べようとしたところだったけど、琴歌ちゃんがいない。
「でも琴歌が敬語で話すようになったのもあの頃……いや、依河くんは別にそういう風に見えないんだよなぁ…………でも、琴歌にそういう風にさせてるとしたら、意外とやばい人…………」
「菜由ちゃん?」
「え? あ、いや、なんでもない」
何やらブツブツ言っていたので気になって聞くと、菜由ちゃんは慌てて手を振ってみせる。
「すみません。お待たせしました」
「あ! おかえり琴歌ちゃん」
帰ってきた琴歌ちゃんに、大きく手を振って迎えると、琴歌ちゃんも控えめに手を振って、笑顔で答えてくれる。
「何してたの?」
「次の授業の教科書を忘れて来てしまったので、隣に見せてもらう為の許可をもらって来ました」
「そうだったんだ……あれ? 隣?」
「どうかしましたか?」
琴歌ちゃんの隣の席といえば……。
「もしかして依河くん?」
「そうですけど?」
「席も隣って、なんか運命的なの感じちゃうなー」
「運命……ですか?」
きょとんとした顔をする琴歌ちゃんに、ちょうどさっき、琴歌ちゃんと依河くんが幼馴染なことを話していたことを教える。
「やっぱり朝は起こしてあげたり、お弁当作ってあげたりするの?」
「そういうのはしたときありませんね」
「え、そうなんだ」
「え、おかしいですか?」
「幼馴染ってそういうものだと思ってたから意外というか」
やはりそういうのはアニメや漫画の中だけで、現実の幼馴染はあっさりしたものかもしれない。そう思ったけど……。
「幼馴染だとそういうことをするんですか?」
「幼馴染くらいの関係なら、そういうのも遠慮しなくて良さそうだなって」
「……なるほど」
琴歌ちゃんは顎に手を当てて、少し考えている。
「そういうのも面白そうですね」
「でしょー?」
「でも幼馴染といえど、最近は全然話せてないですかね」
「え? そうなの?」
「はい」
確かに、隣の席だけど二人が話している姿を見たことがない。学校では隠しているのかと思ったけど、付き合いの短い私にも、躊躇いなく教えてくれるあたり、変に隠そうとしてるようにも見えない。
やはり、現実はラブコメのようにはならないのか……。
少し残念そうにしていると、琴歌ちゃんは顎に当てていた手で軽く握り拳を作った。
そして笑顔で────
「それも今日で終わらせますけどね」
と、言った。
その笑顔が少し怖いように見えたのは気の所為かな?
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