第049話 カンスト賢者、宇宙船(ふね)を買う(エピローグ)

 一カ月後、船が完成したという報告を受けた。


 メディチ交易コロニーは俺の魔法でピッカピカの新築みたいな状態に戻ったので、住民たちは戻ってきて割とすぐに以前と同じ生活に戻ることができている。


 コロニーが直ったことに疑問を持っていた人もいたようだけど、コロニー上層部は一貫して、なんか知らんけど直ってた、という説明を繰り返しているらしい。


 多分マテリアルギルドやイザナ社長あたりが手を回してくれたんだろうな。


 それから船が完成するまでの間は、依頼を受けたり、アメリアやアナベルさんと会ったりしてのんびりと過ごした。


 旅立ちの準備をしてメディチ交易コロニーのハンガーにやってくると、そこには大勢の人たちが集まっていた。


「おいおい、見送りはいいっていっただろ?」

「何言ってんの。みんなキョウに感謝してんのよ」


 俺の言葉にアメリアが呆れるような表情で返事をした。


「遠くに行ってもすぐに戻ってこれるぞ」

「それはあんたが特別なだけよ。こういう時は素直に見送られなさい」

「分かったよ」


 俺としては別にテレポートで頻繁に戻ってくるだけなので、こんなに大げさにする必要はないと思っていた。


 でも、俺の力を明確に知っている人は多くない。それを考えると仕方ないか。


「それじゃあ、またな、皆。元気で暮らせよ」

「おう、お前もな!! 雑な掃除しかできねぇメンテナンスロボットに掃除させるのはたまんねぇな」

「修理依頼もまだまだあんのに逃げやがって。最後までやってから行きやがれ」


 俺が手を挙げて皆に挨拶をすると、ゲンゾやテンダを筆頭にして、掃除や修理依頼を受けた大勢の奴らが野次のように俺に声を掛けてくる。


「残念ですね。せっかくテンタークちゃんと唯一遊んでくれた方でしたのに。手懐けられた人物でしたのに。この際、引き取って――」

「遠慮します」


 ひと際目立つセレブ婦人のイザナ社長が恐ろしいことを言い出そうとしたので、俺は食い気味に拒否しておいた。


 SAN値を削る生物と一緒に宇宙を旅すると思っただけでゾッとする。


「コレットも気を付けてね」

「うん、皆、またね」


 そして、もう一人今日はこのコロニーを旅立つ人物がいる。それはコレットだ。コレットもアメリアたちコロニーの人たちと別れを惜しんだ。


「それじゃあな」 

「皆、行ってきます!!」


 別れを済ませて俺たちは船の中に足を踏み入れる。


『元気でなー!!』

『達者で暮らせよー!!』


 船のドアが完全に閉まるその時まで、俺たちの背にはコロニーの住人たちの声が届き続けた。


「本当に良かったのか? 俺と一緒に来て」


 コックピットに向かいながら、改めてコレットの気持ちを確認する。


「うん、借金もなくなったし、どうせ一回は無くなった家だもん。それに、お父さんとお母さんもああ言ってたしね。一人だと心細いけど、キョウが一緒なら安心だし」


 コレットは両親から託されたメッセージを見てこのコロニーを出ることを決めた。

 だけど、そういう完全に男としてみていない発言は止めろ。俺に効く。


 コレットの家にはありったけの魔力でプロテクションとバリアを張ってきたので、仮にコロニーが爆発したとしても壊れないし、数十年くらいは持つので放っておいても問題ない。


「それじゃあ、船を受け取りに行くか」

「うん!!」


 俺たちはコロニーの外に出てテレポートでドゥーム星系に跳んだ。




 ドゥーム星系のコロニーについた後、担当者に連れられて俺たちはハンガーを歩いていく。


「おお、あれが!!」

「かっこいい!!」


 そして、ハンガーの一番奥にそれはあった。


「はい、お客様の船になります」


 そう、俺の船だ。


 見た目は西洋風の竜にも見えなくもない。戦闘機の首を長くしたイメージだ。これはSF系RPGの大作で宇宙船を見た時から、こんな船が欲しいと思っていた物を俺なりにアレンジした物だ。


 今まさに俺の理想の形をした船が納品されたばかりの状態で、俺たちの目の前に鎮座していた。


 俺は感動で言葉を失い、その姿に魅入ってしまう。


「気に入っていただけたようですね?」

「あ、ああ。勿論だ」


 俺は声を掛けられたことでハッと我に返り、慌てて返事をした。

 この会社に頼んで本当に良かったと思う。


 そういえば、面白い話を聞いた。


 俺がこのアルゴーテクノ社にオーダーメイド艦を発注したのを知った他のディーラーは、悔しそうにハンカチを噛んで歯ぎしりしていたらしい。


 俺たちがコロニーに着くなり、面会したいという話がマテリアルギルドを通じてやってきていたけど、会うつもりはないと断りを入れてもらった。


 自分たちが招いたことなんだからその責は自分達で受けてもらおう。


「それでは、こちらのパネルに手を置いてもらえますか?」

「分かった」


 俺は指示に従って、ドアの近くにあるつるりとした場所に手を置く。


『生体情報を確認。所有者として登録しました』


 すると、船のサポートAIの声が聞こえた。 

 つまりこれで……。


「正式にこの船はキョウ様の物となりました。おめでとうございます」

「おめでとう、キョウ!!」


 担当者が俺に頭を下げると、コレットも拍手をして俺を祝ってくれた。


「ああ、ありがとう」


 嬉しくて頬が緩まずにはいられない。


「すでにコレット様の船は、積んであります」

「分かった。コレット、出発しよう」

「うん!!」


 俺たちは船内に乗り込み、各種説明を受けた後、ドゥーム星系のコロニーから飛び出した。


「次はどんな星が待っているんだろうな?」

「楽しみだね?」


 俺たちは次の星系に思いを馳せて船を飛ばしていく。



 旅は始まったばかりだ。




 完

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カンスト賢者、宇宙船(ふね)を買う~やり込んだVRMMORPGのアバターとして目覚めたのに、なぜか転生先がSFゲームだった件~ ミポリオン @miporion

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