第048話 なんかごめん

 コレットが落ち着いたところで俺たちは家の外に出た。


 そろそろ言い出すべきだろうか。


「ここにいたんですね」


 しかし、俺の思考を遮るようにアナベルさんが俺たちに声を掛けてきた。急に見当たらなくなったから心配して探してくれたんだろう。


「まさかコロニーがこのようになってしまうまで気づかなかったとは……これは私たちの落ち度です。申し訳ありません」


 アナベルさんは家を見るなり、コレットに深々と頭を下げる。


 彼女はコロニーの秩序を守る組織の隊長だ。今回の件でかなり責任を感じているらしい。暗い雰囲気が顔から滲み出ている。


「んーん、気にしないで。これはこの事件を起こした犯人のせいで、ガーディアンズの責任じゃないよ」

「ですが……」


 コレットが気丈に振舞うと、アナベルさんますます表情を曇らせた。


 くぅっ!! この雰囲気、物凄く言い出しにくい!!


「もういいの。一番大事な物は見つかったし」

「そうですか……わかりました。今回はあなたたちのお陰でなんとかコロニーが使い物にならなくなる前に鎮圧することができました。本当にありがとうございます」


 それでも譲らずに首を振るコレットに、アナベルさんは一度ため息を吐いて気持ちを切り替えて、困り笑顔で謝辞を述べた。


 確かに俺たちがいなかったら、恐らくこのコロニーは完全に破壊されていた。再建するには一から建て直すほかなかったと思う。


「守るのは当然だ。俺にとってもここは特別な場所だからな」

「あなたが言うと心強いですね。それはそうともう少し協力してもらえませんか?」

「どうかしたのか?」


 ここにきたのは謝罪のためだけではなく、俺たちに用があったらしい。


「鎮圧には成功しましたが、あの騒ぎのせいで行方不明になっている人たちが大勢います。その人たちを探してほしいんです」


 それは一刻も早く動かなければならない。救出が遅れれば死んでしまう可能性がある。


「分かった。手伝うよ」

「私も手伝う」

「ありがとうございます」


 俺たちが頷くと、アナベルさんは安堵するように微笑んだ。


 結局雰囲気に流されて言い出せなかった。


 それから俺たちは魔法を駆使して瓦礫の中にいる人達を探したり、怪我人を治療したりしてガーディアンズに協力した。そのおかげで大事故だったにもかかわらず、死者はゼロ人で済んだ。


「はぁ~、誰も死んでなくてよかったね」

「そうだな」


 俺たちは死人がでなかったことにホッと一息ついた。


「でも、復旧するまで大変だろうなぁ」

「あ、いや、それなんだけどさ……」


 ぼやくコレットに、今しかないと思って話を切り出す。


「ん? どうしたの?」

「すごーく、言いづらくてずっと言えなかったんだけど」

「うん」


 不思議そうに俺の顔を見つめてくるコレット。彼女の顔を見ていると、非常に言いにくい。


「ん?」


 しかし、俺の感情を呼んだかのように人間ではない存在の気配を感じ取ってしまった。それは無視しておけない。


「どうかした?」

「あっちに何かの生物反応がある」


 彼女は逆に首を傾げると、俺はその反応が合った方角を指さした。


「それってもしかして違法生物? それなら放っておけないね」

「そうだな。行ってみよう」

「分かった」


 俺はまた言う機会を逃してしまった。


「この先?」

「ああ」


 反応があった場所に近づくと、それはコロニーの壁の向こう側から感じられる。


「ちょっと壊してみるか」

「気を付けてね」


 俺はフィジカルブーストで身体強化をして壁をめりめりとぶちやって中を確認してみた。


「この子は……」


 そこには外で暴れていた生物たちとは違い、可愛らしい生物が体を丸めて寝ていた。


 見た目は、デフォルメされた狐っぽい顔に、狐よりも細長い耳を持つ生物。額には大きな宝石みたいなものが付いている。


「何この子。とっても可愛い!!」


 俺と同じようにあけた穴を覗き込んだコレットは、その生物を見て目を輝かせた。


「とりあえず、アナベルさんの所に連れて行こう」

「そうだね」


 俺たちはその生き物を抱きかかえてアナベルさんの許に向かう。


「お疲れ様です。おや、それは?」


 アナベルさんは説明する前に、俺が抱えている生き物を見て尋ねた。


「多分違法生物のうちに一匹かな。壁の中に隠れて寝ていたんだ。多分事件には関係していないと思う」

「連れてきていただいてありがとうございます。引き渡しをお願いします」

「分かった」


 俺が引き渡そうとした腕を伸ばしたところで、その宝石狐は辺りを見回し、俺の腕を伝って、首の後ろに回り込み、ひょっこり顔を出して様子を窺う。


「……あなたに懐いたようですし、その子のことは後にしましょう」


 無理やり連れていくのは気が咎めるのか、アナベルさんは諦めた様に首を振った。


「やることはこれで終わりか?」

「はい」

「後は避難していた人たちを呼び戻すだけか」


 コロニー内の建物は壊れてしまったものの、人が生きるための環境自体が損なわれることはなかった。

 戻ってくることはできるはずだ。


「そうですね。ただ、本当に大変なのはこれからです」

「あっ!!」


 アナベルさんが呟くと、コレットが急に何かを思い出したようにハッとした。


「どうしたんだ?」

「さっき、これと同じような会話をした時、何か言おうとしていたよね?」


 ――ギクッ


 すっかり忘れていたと思えば、このタイミングで思い出すとは……。


 俺は観念して話すことにする。


「すっごく言いづらいんだけど、俺多分、このコロニーごと修理できると思う」

「「ええええええええ!?」」


 俺が遂に白状した内容に二人は同じように絶叫した。


「いや、実際に試してみてないから分からないけどさ。多分いけると思うんだよね」

「「私たちの悲しみを返し(て)(なさい)!!」」


 俺はバツが悪くなって頭を掻きながら返事をすると、二人は声を揃えて叫んだ。


「なんか、ごめん……」


 俺は平謝りするしかなかった。


 その後、コロニーごとリペアしたら、家の中身まで全て元の状態に戻すことができてしまった。当然コレットの家の中も壊れる前の状態に戻った。


 俺の魔法ヤベェ……。

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