第047話 残っていた物、明かされる真実

 コレットの家はこの辺りでも一層ひどい有様になっていた。


 ここに恨みでもあるかのように徹底的に踏み荒らされているようだ。家が焼け焦げて煙がくすぶっている。


 彼女はこの家と宇宙船を守るために必死に働いてきた。そして、ようやく全てから解放されて、もう脅かすものはなくなったはずだった。


 それなのに、その大事な物が見るも無残な有様になっていたら、心が折れてもおかしくはない。


 俺はコレットが落ち着くまでただ彼女の傍で見守っていた。


「ぐすっ……よし、もう泣くのは終わり!!」


 コレットは立ち上がって顔を両手でパンと叩くと、涙を拭って気合を入れる。


「立ち直り早いな」

「お父さんもお母さんも私がくよくよしてても喜ばないだろうしね。もう私を縛るものはないからもっと自由に生きてみようと思う」


 俺の言葉に、彼女は力強く笑って答える。

 やっぱりコレットは強いな。


「そっか」

「あ、ちょっと待ってて!!」


 俺が感心していると、コレットは突然走り出して、壊れた家の塀を乗り越えて、その先に入っていく。


「お、おい、危ないぞ!!」


 瓦礫が散乱しているし、家も脆くなっているはずだ。

 俺もコレットの背を追った。


 彼女は焼け落ちた家の中に入ると、ゴソゴソと瓦礫をどかし始める。


「何してるんだ?」

「何か残ってないかなって」

「そういうことか。俺も手伝うよ」


 少しでも思い出の品が残っていないか探したいという彼女の気持ちはよく分かる。だから、俺も彼女と一緒に家の中を探し回った。


「結局残っていたのはこれだけかぁ……」


 二人で辺りをひっくり返しながら家中を探したけど、原形を留めていたのは、球体の機械だけだった。


「それは?」

「そういえば、記憶がなかったんだよね、自然に馴染んでいたからすっかり忘れてた。これはホログラム動画を保存して、再生できる道具だよ。頑丈に出来てるから残ってたんだろうね」

「なるほどな」

「あっ」


 コレットはうっかり手を滑らせて、その道具を地面に落としてしまった。


 それと同時に保存されていた映像が再生される。その中身はコレットが小さい時から成長していく姿と、家族との生活風景が保存されていた。


 彼女の両親は凄く優しそうな笑みが特徴的な人たちだった。


「うぅ……お父さん……お母さん……」


 その映像を見て、また感極まってしまうコレット。その映像は、彼女が学校を卒業するところで終わっていた。


 おそらくその後にウィルに殺されてしまったんだろうな。


「ん?」


 しかし、再生はそのまま終わらずに続いている。


『コレット、君がこの映像を見ている時、私たちはすでにこの世にいないだろう』


 そして、先程までとは打って変わって両親がカメラに向かって語り掛ける映像が再生され始めた。


「え?」

「どうした?」

「私、こんな映像知らない」


 コレットにもこの映像は見覚えがないらしく、ひどく驚いた表情をしている。


「先を見よう」

「うん」


 俺たちは、再生されている二人の映像を見る。


『ただ、その前に君に伝えておきたいことがある。死んでからでは遅いからな』

『そう、私たちはあなたに一つだけ隠し事があるの』


 二人が隠していた秘密。一体何なんだ?


『実は、君は私たちの本当の子供ではない』

「え!?」


 二人が残した情報はあまりに重大な内容だった。


「どういうことなの……?」


 返事が返ってくるわけでもないのに、コレットは二人に縋りつくように聞き返す。


『私たちが君を見つけたのは偶然だった。二人で仕事から帰る途中、救難信号を捉えてね。その信号の発信元に行ってみると、そこに赤ん坊の君が入った救命ポッドが浮かんでいた。残念ながら、辺りに船は見当たらなかった』

『あなたの血筋や故郷を示すようなものはその救命ポッドとポッドの中に入っていたあなたに渡したペンダントだけ。ポッドは見た目はただの箱のように見えるけど、その性能は私たちの技術を遥かに超えていたわ。その中であなたは完全な健康体だったんですから』

『もし君が望むのなら、自分のルーツを探しに行ってみるといい。そこに君の本当の両親がいることだろう。それに宇宙は広い。外に飛び出してみるのも悪くないぞ』


 確かにコレットは両親とはあまり似ているとは言えない。でも、何の因果か、彼女の髪の色や目の色は二人から受け継いでいるように見える。


 そりゃあ、分かるはずもない。


「私は、二人に愛されていなかったのかな……」


 コレットはポツリと呟く。

 そんなはずはない。そうじゃなかったら、こんな映像は残さないはずだ。


『もしかしたら、本当の親じゃないことを黙っていたから、君は私たちのことが信じられなくなっているかもしれない』

『でも、これだけは信じてほしいの。私たちはあなたのことを本当に自分たちの子供だと思って育ててきたわ』

『こんなに可愛い娘を与えてくれた運命に感謝したくらいだ』

『『私たちは君を本当に愛していた』』


 その言葉を聞いた瞬間、コレットの目から涙が滝のようにあふれ出す。


『もう君に会えないことは残念だけど、そろそろ時間だ。それじゃあ、元気で』

『さようなら。また、天国で会いましょうね』

『『私たちの可愛いコレット』』


 そこで映像は途切れた。


 コレットはただひたすらに涙を流し続けた。

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