第046話 鎮圧

「トレース!! テレポート!!」


 俺は彼女の声を通じて位置を追跡する魔法を唱えて場所を把握した後、転移した。


「呼んだか? うわっ、なんだ、これ!?」

「どうなっちゃってるの!?」


 俺たちが戻ってくると、辺り崩落した建物のがれきで行く手を阻まれたマテリアルギルドの職員たちが目に入った。


 目の前の現実を受け入れることができずに驚いてしまう。


「来てくれたわね」


 アメリアが少々汚れた格好で近寄ってきた。


「おう。大丈夫か?」

「ええ。この先の脱出ポッドで避難したいんだけど、あの瓦礫が邪魔でね。どうにかできる?」

「任せておけ。レビテーション」


 彼女は問題なさそうなので、俺は願い通り瓦礫を魔法で浮かせて退ける。


「ありがとう」

「いや、それよりも何がどうなってるんだ?」

「私も何が起こっているのか正確に把握していないの。突然爆発が起こってね。私たちはお客さんを逃がしている内に、閉じ込められちゃったって訳」


 アメリアが俺たちを呼んだ理由は分かった。


 つまり、この状況を魔法でどうにかしてくれってことか。このコロニーは、この世界で一番最初に来た場所。俺もそれなりに愛着がある。やれることはやろうと思う。


「なるほどな。状況は理解した。アメリアたちは先に避難してくれ」

「そうね、申し訳ないんだけど、そうさせてもらうわ。残ってもこれ以上はなにもできないだろうし、足手纏いになるだけだから。後は二人に任せたわ」

「了解」

「任せてよ!!」


 アメリアたちは俺たちに手を振って脱出用ポッドがある方に走っていった。


 瓦礫をどかしながらコロニータウンに出ると、建物から火の手が上がり、あちこちから煙が出ていた。それに、武装しているガーディアンズのメンバー達と、見たことのない生物たちが戦っている。


「あ、あそこにアナベルさんがいるよ!!」


 コレットが舞台の後方で指揮をしているアナベルさんを指さした。


「行くぞ!!」

「うん!!」


 俺たちは状況を把握するためにアナベルさんの許に走っていく。


「アナベルさん!!」

「え、あなたたち!? どうしてここに?」


 コレットがアナベルさんに声を掛けると、彼女は俺たちの方を見て目を見開いた。


「アメリアから連絡を貰ってな。すぐに飛んで帰ってきたんだ」

「爆発で死なずにコロニー内に侵入したり、ワープエンジンを積まない船で一瞬で帰ってくるような人ですから、ありえないことではないでしょうけど、隣の星系から一瞬で帰ってきたと?」


 俺が返事をすると、アナベルさんは信じられないものを見るような目で俺を見る。


「まぁな」

「はぁ……本当に規格外にも程がありますね。今後、本当に身の回りには気を付けた方がいいですよ?」


 呆れるようにため息を吐いて呟くと、アナベルさんは俺に忠告してきた。


 俺の力はハッキリ言ってこの世界では異質で異常だ。

 彼女の心配は尤もだった。


「一刻を争う事態みたいだったからな。それで、一体何が起こってるんだ?」


 俺も好き好んで目立とうとは思わないけど、のんびりしている場合じゃなかった。

 そういう時はこれからも迷わず魔法を使うと思う。


「数カ月前に違法生物が脱走したという話は知っていますか?」

「あ、ああ。聞いたことがある」


 こんな所でイザナ社長から聞いた話が出ると思わず、困惑しながら返事をした。


「その生物たちが、密かにこのコロニーの廃棄物処理施設の中やダクト内などに住み着いて数を増やし、一斉に暴れ始めたんたんですよ」

「そういうことか」


 今回の事態の全貌がようやく掴めた。


「はい。危ないので、あななたちは離れていてください」

「いや、こういうのは俺の得意分野だ。任せてくれ」

「一体何を……」


 彼女の言葉を無視して前に出る俺に、彼女は不審そうに見つめる。


「アナベルさん、キョウに任せておけば大丈夫だよ」

「シールド、スリープ!!」


 コレットがサムズアップしてアナベルさんに笑いかけると、俺は見える限りのガーディアンズのメンバーにシールドを張り、範囲内にいる生物を眠りに誘う魔法を掛けた。


 それによって、シールドが掛かっていないモンスターたちがバタバタと倒れていてく。


「むむっ!?」


 その光景を見ていたアナベルさんが目を剥いた。


「これでしばらくは起きないはずだ」


 全員が寝たのを確認すると、アナベルさんに向き直る。


「分かりました。ありがとうございます」


 アナベルさんは目礼した後、部下に指示を出していく。

 言いたいことを飲み込んで、今はこの状況を終息することを選んだ。

 流石隊長さんだ。


 ――ドォオオオオオオオンッ


 ここ以外でも違法生物たちが暴れている場所は沢山ある。

 すぐにでも止めにいかないといけない。


 止めるのは俺一人の方が効率がいい。コレットには使えるようになった魔法でガーディアンズをバックアップしてもらうのが良いだろう。


「コレットはガーディアンズを手伝ってくれ」

「キョウは?」


 俺の指示に、コレットは首を傾げた。


「俺は違法生物たちを止める」

「分かった。気を付けてね」

「了解」


 俺はその場をアナベルとコレットに任せて駆け出した。爆発音が大きいところに行ってはモンスター達を眠らせていく。


 一時間ほどしてようやくほぼ全ての違法生物たちは沈黙させることができた。でもその頃には街の多くは破壊され、残ったのは見るも無残な状態になった瓦礫の山。


「お疲れ様」

「ああ、コレットもな」


 統一感のあった白い街並みは崩れて見る影もない。ビルも半ば崩れ去っている。無事な建物は一つもなかった。


「あ、私の家!!」

「あ、おい、待ってくれ!!」


 事態が落ち着いた所でコレットと合流したけど、彼女は思い出したかのように走り出す。


「これは……」

「うぅ……くぅ……私の家が……お父さんとお母さんとの思い出が詰まった……大好きな家が……」


 コレットに追いつくと、彼女が自分の家の前で立ち止まり、そのまま泣き崩れてしまった。

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