第045話 コロニークライシス(別視点)

◆アメリア視点


「今日も一日、頑張らないと」


 私はいつものようにマテリアルギルドに出勤し、両頬をパンと叩いて気合を入れる。窓口の椅子に座り、今日もギルド員たちや依頼人がやってくるのを待つ。


「いらっしゃいませ……どのようなご用件ですか?」

「はい、はい、おっしゃる通りです」

「そのご用件はあちらの窓口でお願いいたします」

「誠に申し訳ございませんが、そのようなお話はお受けすることはできません」


 ギルドはオープンしたての朝一が一番忙しい。私は次々とお客を処理していく。


「ふぅ……やっと終わったわね」

「アメリア、お疲れー」


 ピークを乗り越えたところで、同僚のリンダが私の肩を叩いた。


「リンダもお疲れさま」

「でも、最近はいつもより人が少ないね」


 私も彼女をねぎらうと、彼女は不思議そうに首を捻る。

 その原因はあの人以外考えられない。


「多分、キョウいないからでしょ」

「あぁ、もうランクアップを決めた、あの新人くんね」


 ある日、突然コレットと姿を現わした記憶喪失の男。


 最初はその怪しさに警戒していたものの、アナベルさんが見込んだ通り、悪い奴じゃなかった。それどころか、彼当ての依頼が爆増し、うちの塩漬け依頼もこなしてくくて非常に助かっている。


 魔法というよく分からない力で、どこからでも一瞬でワープしてくることができるっていう訳の分からない力の持ち主。


 キョウほどおかしな人間は見たことがない。


「そうよ。依頼人は大体キョウがらみの人が多いしね」

「なるほどね」


 私の答えにリンダも納得するように頷いた。


「あの二人がいないと寂しい?」

「な、なによ、突然」


 リンダがいきなり意味不明なことを口走る。


「顔にそう書いてあったわよ」

「別にそんなんじゃないわよ。いつもより騒がしくなくてせいせいしてるわ」


 彼女がニヤリと笑みを浮かべてからかうので、私は否定した。


 あの二人がいないと、なんだか物足りない、そんな感じがするだけ。


「まぁその内帰ってくるから我慢しなよ」

「だから、寂しくなんてないって言ってんでしょ?」

「はいはい」


 更に私をいじるリンダを睨みつけると、彼女は手をヒラヒラさせて去っていった。


「二人は今頃ドゥーム星系に着いた頃かしら」


 私はその背中を見送ると、机に肘をついて物思いに耽る。


 お隣とはいえ、星系同士はそれなりに離れているから、二週間くらいはかかるはず。そろそろ二人が出発してそのくらい経つ。


「もうすぐキョウとはお別れなのね……」


 誰よりも依頼をこなし、一番やり取りをした相手だ。コレットを通じてそれなりに仲良くなった。そんな相手がいなくなるのは少し悲しかった。


 ――ドォオオオオオオオオンッ


 そんな私の思考を遮るように、凄まじい轟音とコロニー全体の揺れを感じる。


「な、なに? 何が起こったの!?」


 私は机にしがみつきながら叫ぶ。


 ――ビーッ、ビーッ、ビーッ


 揺れが続く中、それ以上にけたたましい音がギルド内に響き渡る。


『コロニータウンにて増殖した違法生物たちの反乱を確認。さらにコロニーの下水管や空調ダクトなどの中にも進行している模様。住民は至急、避難されたし』


 直後に流れてきた緊急アナウンスは、コロニー内で起こった予期せぬ出来事を知らせるものだった。


「皆さん、焦らないで指示に従ってゆっくりと避難してください!!」


 私はマニュアルにのっとって、ギルド内にいるお客さんの避難誘導を始める。


「これで、全員避難できたかしら?」


 私はギルド内を確認してお客さんが残っていないのを確認した。


「ほら、アメリア、私たちも逃げるわよ」

「分かってるわよ!!」


 リンダが私を呼びに来たので一緒に脱出用ポッドがある場所に向かう。非常口から梯子を下りて通路を進む。


 ――ドォオオオオオオオオンッ


「「「きゃあああああああああっ」」」


 しかし、無情にも私たちがいる場所の近くで爆発が起こり、天井が崩落してしまった。


「どうやら後ろも駄目みたいね」

「そうね」


 私とリンダは周りの状況を確認するとお互いに首を振った。

 どうやら逃げ道を完全に防がれてしまったらしい。


 こんな時、あいつがいれば……


 思い浮かぶのは一人の少年とも呼ぶべき人物の顔。あいつなら……あいつならこんな状況でも魔法でどうにかしてくれるんじゃないかと思ってしまう。


「助けを呼ぶわ」

「無理よ。こんなところになんて誰も来れないわよ」

「大丈夫よ。私に任せて」


 私は携帯端末を取り出して通話を掛ける。


 ――ツー、ツー、プツ


 呼び出し音が鳴り、ちゃんとつながった。通信回線がまだ生きてる。

 よしっ。


「キョウ!! お願い、今すぐ戻ってきて!!」


 私は通話相手の向かって叫んだ。


「呼んだか? うわっ、なんだ、これ!?」

「どうなっちゃってるの!?」


 案の定、私たちの前に二人の人物が姿を現わした。紛れもなく、コレットとキョウの二人だった。


 それだけでどうにかなると安心してしまった。

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