第013話 百聞は一見に如かず、百見は一感に如かず

「えぇ~!? キョウってば、今日一日でそんなに稼いだの?」


 ハンガーの仕事を終えたコレットと合流して、俺が今日1日でこなした依頼と受け取った報酬を教えると、彼女は目を丸くして叫んだ。


「まぁな」


 俺はいい気分に浸りながら自慢する。


「ビギナーランクの依頼だけでそんなに稼げるなんて凄いよ!!」

「へへへへっ」


 コレットは心からそう思っているのが伝わってくる程に感情が伴った表情をする。

 褒められたら悪い気分にはならないので、思わず頬が緩む。


 今日は一日で大体二千ユラ、つまり二十万円稼いだ。これはかなり頑張ったと言ってもいいんじゃないか?


「私は船の修理にしばらくかかるし、奉仕活動もあるからしばらく厳しいなぁ」


 逆にコレットはどんよりとした雰囲気を漂わせている。


「大丈夫だ。その分俺が稼いでくるからな」


 俺はそう言いながら、今日稼いだ分のほとんどを彼女の口座に送金した。


 ――ピロンッ


「え?」


 コレットの携帯端末が鳴って、画面を開いた彼女の顔が硬直する。


「とりあえず今日稼いだお金は送っておいたから」

「え、受け取れないよ!!」


 俺がニッコリと笑って伝えると、彼女は慌ててながら手と首を横に振った。


「大丈夫だ。勝手に送り付けるからな」

「何が大丈夫なの!?」


 コレットは意味が分からないと、悲痛な叫びをあげる。

 これは俺からの仕返しだ。


 ――ボンッ


「あっ」


 その時、突然小さな爆発音がなった。


「どうしたんだ?」

「最近調理ロボが調子が悪かったんだけど、本格的に壊れちゃったみたい……」


 コレットは悲し気に答える。調理ロボの方を見ると、煙を上げていた。


 これはとても困る事態なのでは!?


「ってことはつまり……」

「うん……ご飯が食べられないね……」

「なん……だと……!?」


 俺の予想は的中していた。

 でも、待てよ。

 もしかしたらいけるかもしれない……。


「ちょっと俺が視てみてもいいか?」

「え? それは構わないけど……」

「リペアッ。クリーンッ」


 俺は調理ロボに手を翳して魔法を使用した。


 ゲーム内のリペアは、武器や防具の耐久力を回復させる生産職に与えられた魔法だった。でもその名の通りなら、修理が可能なはず。汚れを取るクリーンと併せればこの通り。


「えぇええええええ!? 何これ? 新品みたいになっちゃった!?」

「よし、成功だ」


 調理ロボの変わりようにコレットの顔が大きく歪んだ。


 なんとなく直せると思ったけど、その直感は正解だった。どのくらいの物まで直せるかは分からないけど、簡単な物ならすぐに直せるはずだ。


 もし、そういう依頼があるのなら受けてみてもいいかもしれないな。


「どうなってるの? キョウは絶対何か秘密の道具を隠してるよね?」


 コレットがまた俺の体の周りをクルクルと回りながら観察する。


「言っただろ。魔法だよ、魔法」

「もう!! 本当のことを教えないつもりね?」


 俺は本当のことを言っているのに、コレットは全く信じようとしない。

 どうしたら信じてくれるんだろう……そうだっ!!


「コレットも魔法を覚えてみるか?」


 俺は話している途中で天啓が降りてきたように思いついた。


 これは名案だ。


 見たところ、コレットは大きな魔力をその体の内に秘めている。魔力を目覚めさせれば、彼女なら魔法を使うこともできるようになるはずだ。


 魔法は彼女の役に立つ。この前みたいに宙賊に襲われても戦えるし、こういうコロニーの中で絡まれても撃退できる。危険な生物が棲む星に降りる時にも使えるかもしれない。


 いいこと尽くめだ。


「え? 何言ってるの?」

「いいからいいから。ちょっと背中に触るぞ」


 ポカンとしているコレットの後ろに回り、彼女の背に手を当てて、俺の魔力を送りこむ。


「え、な、なにこれ!? 中に入ってくる!?」


 やっぱりコレットには素質がある。

 魔力に栓をしている蓋を壊せば、その力が目覚めるはずだ。


「ちょっと辛抱しろよ!!」

「え、なにこれ!? 無理無理!! そんなに大きいの入らないよー!!」


 俺が強めに魔力を流すと、コレットはジタバタしながら悲痛な叫びをあげた。そして、彼女の中にあった栓が壊れた瞬間、彼女の内から魔力が溢れ出す。


「よし、開いたな」

「え?」


 俺が手を離すと、コレットは間抜けな顔になった。


「どうだ? それが魔力だ」

「ホ、ホントにあったんだ……」


 コレットは手に視線を落とし、自分から立ち昇る魔力の光を見て呆然と呟く。

 やっと信じてくれたか。


「キョウって本当に……きゃぁあああああっ。目が!! 目がぁああああああっ!!」


 コレットが顔を上げて俺の方を見た瞬間、彼女は目を抑えて転げまわる。


「あ、やっべっ……」


 俺はうっかりしていた。


 今まで全く意識してなくて気づかなかったけど、コレットから魔力の光が立ち昇っているのが見えるということは、当然俺の体からも漏れ出しているということ。


 そして俺の魔力はゲーム内最高。最下級の魔法がこの世界であれだけの威力を出すのなら、この世界でも俺の魔力はかなり強いはずだ。


 抑えているとはいえ、そんな俺の魔力を直視すれば、初めて魔力を見る彼女の目が焼かれるのも当然だった。


「ヒール」


 ひとまずコレットに回復魔法を掛けておく。


 コレットはしばらくの間、床をのたうち回っていた。お詫びとして家の中にある家具や家電類を修理しておいた。

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