第012話 ゲームでは基本でもチートなあいつ

「あら? どうしたの?」


 ギルドに戻ると、アメリアが不思議そうな顔をして俺を出迎える。


「依頼終わったぞ」

「え? もう!?」


 俺の言葉を聞いたアメリアは目を見開いた。

 本来は何日もかかる依頼なので、そりゃあ驚くよな。


「ああ。もう完了報告もしている」

「えっと……本当だわ。しかも依頼者から報酬アップの申請と最高評価、それにお礼まである……キョウ、あんた一体何をやったのよ?」


 アメリアはすぐに端末を操作して俺の話が本当だと理解する。でも、依頼人からのあまりの高評価に、逆に怪訝な目で俺を見つめてきた。


「ん? 俺はただ船を綺麗にしてやっただけだ」


 俺はとぼけたように事実のみを述べる。

 嘘は言っていないので問題ないはずだ。


「はぁ……まぁいいわ。有望な新人が入ってきてくれるのはギルドとしてはありがたいことだしね。それじゃあ、報酬は口座に入金するから確認して」

「了解」


 アメリアはそれ以上の詮索を止めて手続きを進めた。


 ――ピロンッ


 そして、俺の携帯端末の通知の音がなる。


「千ユラだと!?」


 俺が口座を開いて入金額を確認したら、約十万円もの報酬が入金されていた。


 本来八千円だったことを考えれば、十倍以上の報酬額だ。こりゃあ大成功だな。まだ時間はあるし、他の依頼も受けよう。


「他に俺ができそうなことはないか?」

「そうねぇ……荷運びの手伝いくらいかしら」


 アメリアは端末をいじって画面を見ながら俺に適した依頼を選ぶ。


「そうか、それでいい」

「また詳細を送っておくわね」

「了解」


 俺はまた依頼を受けて該当の場所に向かう。


「お金がもったいないから走っていこう」


 コロニー入り口からコレットの家まで距離がある。コレットは移動に無人タクシーを使用していた。


 無人タクシーはその名の通り、運転手のいない全自動運転のタクシーのことだ。


 コロニータウンの至るところを走っていて、手を挙げてれば勝手に止まり、乗り込んで行先を告げれば、そこまで自動的に連れて行ってくれる。


 しかし、残念ながら無料じゃない。だから俺は、少しでも節約するために走ることにした。


 身体能力を確認するのにもちょうどいい。


「まずは念のため。インビジブル」


 インビジブルは透明化の魔法。これによって周りに見つかる可能性が減るはずだ。赤外線センサーとかの熱源感知からは隠れられないけどな。


「マップで場所を調べて……と」


 姿を消した俺は、携帯端末を操作して倉庫の場所を検索し、ルート案内に従って軽く走り始める。


「おおっ!! 凄く体が軽い!!」


 やっぱりゲームはゲーム。現実ではより鮮明に肉体の隅々まで感覚が研ぎ澄まされていた。こんなに楽に走れるのなら地球のスポーツも楽しかっただろうな。


 マップによると、歩いたら二時間くらい掛かるけど、この調子だと三十分くらいで着きそうだ。


 目的地までの距離は十キロくらい。四十キロが二時間くらいのスピードだ。つまり今の俺はオリンピック選手並みの速度で走っている。しかも全く全力は出していない。


 さらに魔法も試してみよう。


「フィジカルブースト」


 これは身体能力を向上させる強化魔法だ。ゲーム内では、普通の魔法職が最大まで魔法のレベルを上げても五割増しまでが限界だけど、賢者は二倍まで強化できる。


「うぉっとっと!?」


 魔法が掛かった途端、俺は感覚が違い過ぎて転びそうになった。

 でも、なんとかバランスをとって転ばないで済んだ。

 明らかに効果は二倍を超えている。


「これは気を付けないとな……」


 俺は力の出し過ぎに注意して走り続けた。


「……もう着いてしまった」


 走り出して十分。気づいたらマップが示していた場所にたどり着いていた。


「すいませーん」


 俺は近くに立っていた人に声を掛ける。


「なんだ?」

「マテリアルギルドで依頼を受けてきたんだけど」

「君がそうか。話は聞いている。案内しよう」


 その人についていくと、倉庫が立ち並ぶ区画が見えてきた。


「あそこのコンテナの中身を端末に送ってある指示に従って倉庫内に運んでくれ」

「分かった」


 指示を受けた俺は荷物を運び始める。荷物は段ボールくらいの大きさの硬い箱に入っていて、普通の人だと運ぶのはかなり大変そうだ。


 でも、俺にはゲーム由来の身体能力があるから何も問題なかった。


「フィジカルブーストも掛けているから楽には楽なんだけど、こういう時、アイテムボックスが欲しくなるなぁ……」


 しばらく荷物を運び入れていると、ついついゲーム時代の機能が恋しくなった。


 アイテムボックスは、ゲームユーザーなら誰でも使えるゲーム内の基本機能。アイテムをここではないどこかに収納でき、沢山のアイテムを仕舞っておくことができる。


 それがあれば、一度全部アイテムボックスの中に仕舞ってから、必要な物を必要な場所に出すことができるわけだ。


「え?」


 そんなことを考えていたら、俺の目の前に見慣れたウィンドウが現れた。それはどう見てもアイテムボックスのウィンドウだった。


「マジかよ!! アイテムボックスも使えるのか!?」


 能力だけかと思ったら、まさかゲームの機能まで使用できるとは思わなかった。


 これで勝つる!!


 俺はすぐに荷物に触って意識してみる。


「おお、入った!!」


 すると、あっさりと収納されてウィンドウ内に表示された。取り出して問題ない事を確認した俺は、荷物を全てアイテムボックスの中に入れて指定された場所に運んだ。


「おーい、終わったぞ」

「何!?」


 作業が終わった俺は俺を案内してくれた人に声を掛けると、やっぱりゲンゾと同じような反応になる。


 その後の流れはゲンゾと全く一緒だ。マテリアルギルドに帰ると、アメリアにまた変な目で見つめられることになった。


「それで、どうするの? まだ依頼受けるの?」

「ああ、よろしく」


 折角だから一日でどれだけ稼げるか挑戦したいと思う。


「はいはい、分かったわよ」


 アメリアはうんざりしながらもきちんと仕事してくれる。

 その辺はやっぱりプロだよな。


 その後、暇を持て余した老人と雑談したり、小説家志望学生が書いた作品を読んで感想を言ったりと、様々な依頼をこなした。

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