第014話 初めての魔法

「大丈夫だったか?」

「う、うん。でも……これが魔力なんだね……まさか本当にあるなんて思わなかった。しかも自分がそれを使えるなんて……」


 なんとか復帰を果たしたコレット。

 彼女は手を開いたり閉じたりしてその力を噛みしめるように実感している。


 その額には汗が浮かんでいた。ただ、彼女の体内にある魔力が徐々に減っている。

 このままだとマズいことになりそうだ。


「それは良かった。ちなみに、そのままにしておくと多分魔力が枯渇して気絶する」

「え!?」


 コレットは首をグイっとこちらに向けて叫んだ。

 若干ホラー味を感じる。


「魔力を垂れ流している状態だからな」

「ど、どどどど、どうしたらいいの!?」


 俺の言葉を聞いたコレットは俺にしがみついてくる。

 汗をかいているせいか、いつもよりいい匂いが強いから止めてほしい。


「落ち着いてくれ。コレットは魔力量が多いからすぐにどうこうなったりしない」

「そ、そうなんだ……すーはー、すーはー」


 俺の体からやんわりと彼女の手を外しながら宥めた。体を離したコレットは、深呼吸をして気持ちを落ちつける。


「まずは座って目を閉じて、ゆっくりと呼吸をして流れを感じ取るんだ」

「うん」


 彼女は俺の指示に従って床に腰を下ろした。


「魔力の流れが分かるか?」

「うん、自分の体の中を巡って上に立ち昇ってるのが分かるよ」

「そしたら、その魔力が体に留めるイメージをするんだ」

「分かった」


 彼女は俺の言葉を素直に聞き入れる。

 その効果は絶大で、コレットから立ち昇っていた魔力が徐々に減り、最終的に蛇口をほんの少し開いたくらいになった。


 これなら彼女の魔力の自然回復力よりも少ないからもう大丈夫そうだ。


「よし、もう気絶する心配はないぞ」

「よかったぁ……」


 俺が太鼓判を押すと、コレットは大きく息を吐いて安堵した様子を見せた。


 成功してよかった。上手くいく確証はなかったからな。あくまでこうすればいいっていうのが頭に浮かぶだけで、実際にやったことがあるわけじゃないし。


「それじゃあ、早速魔法を使ってみよう」

「え? そんなに簡単にできるの?」


 コレットは目を見開いて俺を見る。

 魔法のことを知らない彼女がそんな反応になるのも無理もない。


「生活魔法ならそれほど難しくはない。今回はクリーンの魔法を教えよう」

「クリーン?」

「ああ。汚れを綺麗にしてくれる魔法だ」


 コレットに初めて会った時、彼女の服が少し汚れていた。


 宇宙船のパーツを回収した時に付いてしまったんだろう。彼女は職業柄よく汚れてしまうはずだ。そんな彼女にピッタリの魔法じゃないかと思う。


「え、そんな魔法があるならすぐ使いたい」

「分かった。えーっと……そうだな。何か汚れている物はないか?」


 彼女も乗り気になってくれたけど、周囲に汚れている物が見当たらなかった。


「うーん、洗濯物くらいかな」

「それを持ってきてくれ」

「はーい」

 

 コレットは今日彼女が着ていたつなぎを持ってくる。

 うん、結構汚れが付いているな。これなら結果が分かりやすい。


「ます、つなぎに手を翳して目を瞑ってくれ」

「うん」

「次に、綺麗になったつなぎをイメージするんだ。魔法で最も大事なのはイメージだ。イメージがしっかりしていないと魔法がちゃんと発動しないぞ」

「イメージ、イメージ」

「イメージができたら、掌に魔力を集める」

「掌に……集める」

「そして、最後に魔法名を唱えるんだ」

「クリーンッ」


 コレットが俺の指示に従って魔法名を唱えると、彼女の手から真っ白な光がつなぎに向かって放たれた。


「どう、なったの?」

「見てみろよ」


 少し目を開けて俺に問いかけるコレットに、顎でつなぎを指し示す。


「えぇええええええ!? すっごい!! ホントに新品みたいになっちゃった!!」

「ははははっ。一発で成功するなんて凄いな」


 まさか一回で成功するとは思わなかった。

 不思議と魔法の教え方も、何度か失敗するという知識も頭の中に入っている。

 彼女の魔法の素質はずば抜けている。


「私、本当に魔法使えるようになったんだ……」

「どうだ? これで魔法を信じられたか?」

「うんうん、信じる、信じるよ!!」


 呆然と呟くコレットにニヤリと笑いかける。すると、彼女は子犬のように目をキラキラさせて俺を見上げた。


「これから少しずつ魔法を教えていくからな」

「分かった! あ、そういえば、ご飯の作る途中だったね。すぐに用意するね……あれ?」

「危ない!!」


 コレットが調理ロボの方に走りだろうとすると、彼女はフラリと体勢を崩して倒れそうになる。俺が咄嗟に彼女を支えて事なきを得た。


「ふぅ……大丈夫だったか?」

「う、うん」


 コレットに確認すると、彼女はモジモジしながら頷いた。


 今気づいたけど、近づきすぎた!!

 背中を支えると俺とコレットの顔はほんの十センチくらいしか離れていない。

 

 俺はコレットを起こしてパッと離れる。


「ま、魔力を放出したから疲れたんだと思う。今日はもう休んだ方が良い」

「わ、分かった。そうするよ」


 俺が明後日の方向を見ながら言うと、コレットがつなぎを持ってぴゅーっとダイニングから姿を消すのが目の端に映った。


「やっぱり同棲は体に悪い……」


 独り言を呟いた後、俺は自室に戻ってベッドに潜りこんだ。

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