第17話 ホテルの朝食(終わり)


顔を洗って、ひげを剃り、歯を磨いて、カッターシャツ、ノーネクタイにズボンという、まるでビジネスマンの朝食という格好になってレストランへと向った。

 リアストでは、芽衣子と遅い朝食をゆっくりと取るはずだったが、まだ8時前だった。レストランにはバイキングで、洋食中心に色鮮やかなメニューが並んでいた。


――ああ、芽衣子さんと一緒だったら良かったのに。まあ、そんなことしたら奥さんに悪いかな。


 進は、芽衣子が帰ってしまったことを残念がる反面、奥さんにとっても良い結果だったのか、もしかしたら奥さんのパワーのせいかもと少しホッとした感もあった。

 窓際の席にひとり座って豪華な朝食をとった進は、外の景色を眺めながらコーヒーを飲んでいた。

だんだんとレストランに人が増えてきた頃、テーブルに置いていたスマホが鳴った。LINEの着信である。


――芽衣子さんだ。


 見慣れない文字だったが、ひらがなで「めいこ」とあったので直ぐに芽衣子と分かった。LINEでも進を登録したようである。


『多摩野さん、昨日はありがとうございました。久々に豪華でした。ゆうやは大丈夫になりました。ご心配かけてすみませんでした』


――良かった。


進は直ぐさま返事を出すことにした。


『良かったです。お母さんが帰って来て安心したのでしょう。無理に誘ったりしてすみませんでした』


進は、本当にそんな気持ちになっていた。お金の力に任せて無茶なことをしてしまったと。

しばらくしてまた芽衣子からLINEが届いた。


『私もお金に目がくらんじゃいました(笑)』


 芽衣子も軽く受け流してくれているようで進も改めてホッとして了解のスタンプを送ってLINEの会話を終わらせた。



そして、コーヒーも飲み干した進がまだまだ時間あるし、デザートでも食べながらもう一杯コーヒー飲もうと席を立とうとした時、またLINEの着信を知らせる音が鳴った。


――LINEニュースか、先にデザート取って来よう。


コーヒーと小さなショートケーキをテーブルに置いてイスに腰掛けて、先ずコーヒーを一口、ケーキを一口、そしてスマホのLINEニュースを見た。


トップニュースのアメリカ大統領選挙の話題に紛れて端の方に『当選者愕然、トトビッグぬか喜び』とあった。嫌な予感を必死にかき消しながら進は、そのニュースを開いた。


『トトビッグ当選配当金 一等600万円ポッチ、過去最低』


とあった。


遅く来た台風の影響で、各地で雷や竜巻などが発生し、14試合中4試合が中止になっていたのだ。トトビッグは、通常、14試合の結果を勝ちか引き分けか負けかで当てるクジであるが、コンピュータが勝手にそれを選ぶため、当選者は毎回一人か二人で誰もいない時もある。当たればほとんど6億円の配当金がもらえるのであるが、今回は4試合が勝ちでも引き分けでも負けでも正解となったため、当選者が一気に81人になり、しかも前回が1等10億円のボーナス回であったためキャリーオーバーも殆んどなくなり、配当金600万円ポッチになってしまったということだった。


――ええーっ、ポッチ……過去最低。


進は、大声を出しそうになるのを必死に抑えた。



しばらくして、やけになってデザートの食べ比べを始めていた進にまた芽衣子からLINEが届いた。


『600万円ポッチでしたね。奥さん別れてくれませんね。良かったですね』


――ポッチで良かった。


進は、また了解のスタンプを送って再び食べ比べを始めた。



終わり

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リアルストーリー 岩田へいきち @iwatahei

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