覚醒:IF 関東消滅

友人である中河原美咲が誘拐されかけた際に、空森彼方が宿す宇宙の瞳が覚醒した。


空森彼方が覚醒できたのは、誘拐されかけた中河原美咲を助けるという部分が引き金となっている。

しかし、中河原美咲が誘拐されかけたのは、誘拐犯が空森彼方と中河原美咲が二人で写っていた写真を見て本来誘拐の対象であった空森彼方と、その隣に居た中河原美咲を間違えたために起きてしまった事だ。

つまり、本来の目標であった空森彼方が誘拐されていたら、彼女は覚醒しなかったということになる。


もしあの日、金で釣られた不良たちの裏でアジアンマフィアが動いていたとしたら、どうなっていたのだろうか——。




この日、空森彼方と中河原美咲の二人はテスト期間が直前に迫っていたため、中河原美咲の家に集まり、テスト勉強を行っていた。

その勉強会が終わったのは日も傾き、薄暗くなった夕方ごろ。


「あっ、もうこんな時間。そろそろ帰らなきゃ」

「じゃあ、駅まで送って行こうか?」

「まだそんなに暗くないから大丈夫だって。美咲、また明日ね」


彼方は美咲の家を出て最寄りの駅へ駆け足で向かい、駅の改札でカバンから財布を取り出そうとした時、美咲の家に財布を忘れてきたことに彼方は気が付いた。


「もしもし美咲?」

『どうしたの彼方。何か忘れもの?』

「私、お財布忘れちゃったみたいでさ、美咲の部屋に落ちてたりしない?」

『えーっと……ちょっと待ってて……あ!あったよ彼方の財布』

「あった?よかったー。じゃあ今から取りに戻るよ」

『あたしも駅の方に行くから、多分途中で会えるね』

「うん、わかった。じゃあまた後で」


急いで来た道を戻る彼方。しかしこの時、駅の周辺に複数の誘拐グループがいた。


『どうした。何かあったのか?』

「今、空森さんを追って駅に居るんですが、車が何台か駅を目指してるみたいなんですよね。しかも銃を持ってる可能性が高いみたいです」

『銃持ってんのか……』

「それに空森さん、友達の家に忘れものをしたらしくて、今から戻るみたいなんですけど……」

『じゃ……が駅の近……奴ら……に行……』

「奥沢さん?……急に電波が悪くなったけど——」


空森彼方の監視兼護衛の一人である永塚が、相方の奥沢と電話をしていたところ、突然通話がプツリと途切れてしまった。

あまりに不自然な電波障害だったため、辺りをササッと見渡すと永塚と同じようにスマホが使えない人がそこら中に居た。


「電波障害が起きてるのはここ一帯……妨害電波の発信源はどこだろう——ってしまった……!」


永塚が監視兼護衛対象である空森彼方から目を離したのは、辺りを見回した僅か十数秒の事であったが、その短い時間のうちに彼女は駅周辺から姿を消していた。


「この電波障害だと、解析班のドローンも役に立たないだろうなぁ……」


周囲の人々が手に持っているスマホに視線を向けている中、一瞬で建物の上へと移動する。

その際に永塚の体は気体へと大きく変化するが、普段は人目の無いところで変化しないとスマホなどで撮影されたらあっという間に広まってしまう。

しかし、今回はこの電波障害によりスマホの機能にまで影響が出ていた。そのため仮に見られていたとしても記録される事は無いため、周囲にある程度人が居ても問題は無かったが、時すでに遅し。

空森彼方が姿を消したことに永塚が気付いた時には、既に彼女の追跡は困難だった。




「ちょっと道を聞いてもいい?」

「道ですか?私あんまり詳しくないですけど……」

「あー、いいのいいの。お前が近くに寄ってくれるだけでいいんだから」

「え?それってどういう意味——」


空森彼方が人の多い駅から離れてすぐの通りで彼女は大型の車へと連れ込まれた。

そして叫ぶ間もなく首筋に注射器を刺され、何かを注入されると、彼女はあっという間に気を失った。

それは車が止まってから再度出発するまでのほんのわずかな時間の間に行われ、空森彼方は何者かに連れ去られた。


その車が向かったのは都内にある高級ホテル。

駐車場へ車を止めると、中から三人の男たちが出てきた。その内の一人は大きな金属製のカバンを抱えていて、残りの二人は気絶した空森彼方を担架で運びだし、ホテルの一室へと向かう。

しかし、気絶している人間を救急隊でもない人間が運んでいるなんて怪しさ極まりないが、彼らが歩いているのは従業員専用の通路で、ホテルの従業員は既に多額の金で買収済みだ。

しかも数千万というとてつもない額の大金を渡しているから、今この時間は誰一人ここを通る者はいない。そして今、彼らが気絶した人を運んでいることも従業員たちは知らない。

そして目的である高層階の一室の中へと彼女を運んでいく。


その部屋の中には椅子に座った高齢の男性が一人。付き添うように立つ比較的若い男性と、備え付けのソファに白衣を着た医者と思われる男が一人おり、助手と思われる複数の男女が手術用の道具を入念にチェックしていた。


「来たか」

「ええ、例の女が来ました。それでは先生方、よろしくお願いします」

「……その担架をあちらへ運んでください」

「では、ボスもそこのソファへ——」

「この距離なら杖をつかなくても自分の足で歩ける」


ソファに座っていた医者が手術の準備を始め、側近がボスと呼んだ老人は年のせいかおぼつかない足取りで、さっきまで医者が座っていたソファへゆっくりと歩いて行き座った。


「あいつの言ってた事、本当だったんだな」

「あいつって、誰の事だ?」

「おいおい、お前もう忘れたってのか?……あぁ、お前がいない時だったか。あの女の事をボスに言いに来た奴がいたんだよ。それが白い髪の男でさ——」

「話がしたいんなら外でしてろ」


これから医者が手術をするにもかかわらず、ごちゃごちゃとうるさい部下を老人が一喝する。ここまで彼女を運んできた彼らは返事をする余裕もなく、そそくさと部屋の外へと出て行った。


うるさかった彼らに気を取られることなく準備も着々と進んでいたようで、簡易な手術台に乗せられた空森彼方の腕には何本ものチューブが取り付けられていた。


そしてその準備の最中に異変が起きた。

自然発火、大気濃度の急激な変化、物体が捻じ曲がる、重力変動、異常気象を始めとした様々な異常が発生していた。


これらの異常事態は宇宙の瞳の安全装置が発生させたものだ。しかし、それらはすべて部屋の中ではなく外で起きていたので、部屋の中に居た彼らが気付くことも無かったし、老人たちは白い男との会話ではそのような話は一切出てこなかったため、彼らが瞳の安全装置の事なんて知る由もなかった。


「それで眼球はどうするか決まりましたか?」

「それなぁ……やっぱり今ここで決めなきゃダメかい?」

「はい。摘出するか移植するか今決めてください」


老人が考えた末に出した結論は……。


しかしそれが老人の口から発せられることは無かった。




最後の安全装置ブラックホールが作動したからだ。

瞬く間に関東全域を黒い巨大な球体が覆ったかと思いきや、それは一瞬で収縮。


一瞬だった。


新宿駅や渋谷駅、そしてその周辺を始めとした繁華街の雑踏。

宇宙からも見えるくらいに眩しく輝く大都市の明かり。

それらすべてが一瞬のうちに消えてしまった。


異常が発生したのは、関東から送信されているテレビやインターネットの電波や、電気。そして通話中の回線など。

そして人々がその異常事態に気が付いたのはインターネットとテレビの電波が途絶えたことや、電話が突然プツリと途切れてしまった事、そして停電がいつまでも解消しなかったことだろう。

しかし、電力会社やインターネット回線の会社、テレビ本社に問い合わせても電話もつながらず、現状どうなっているのかすら判明していなかった。

そして政府や各省庁との通信と連絡も途絶え、日本全国は混乱状態にあった。

それぞれヘリや車を向かわせたが、関東地方は明かり一つ無い状態で現状把握は困難と判断され、調査は明日へと持ち越された。


翌日、関東地方の上空は大量のヘリコプターや飛行機で埋め尽くされていた。

飛行機のエンジン音や、ヘリコプターのバタバタといったプロペラの音。それらの音は一機だけでも相当な音だというのに、これだけの数が一斉に上空を飛んでいたとしたらその下に住んでいる住民たちはあまりのうるささに我慢しきれず、飛行機会社などに苦情の電話をしてしまうかもしれない。

まあそれは、住民が居たらの話だが——。


「おいおい……これは一体どういう事だ……?」


ヘリコプターに乗っていた一人の記者が真下に広がる景色を見て、ぽつりと言葉がこぼれ出た。

しかし、他の飛行機やヘリコプターに乗っている者たちは誰もがこう思っている事だろう。それにこの光景を目にしたら誰もが目を疑うだろうし、もしかしたら夢であってくれと思うかもしれない。


「どこかに降りられないか?」

「……降りるってどこにですか?こんなところで降りたら、俺たちだってどうなるか分かんないんですよ!?」


同じヘリコプターに乗っていた別の記者がパイロットに問いかける。

記者としては軽い気持ちで聞いただけなのかもしれないが、その問いにパイロットは怒鳴るように声を荒げて返事をした。

彼もまた目の前に広がる景色を見て、まだ現実を受け入れられていないのだろう。


昨日まであったはずのビル群や、地表を埋め尽くさんとばかりにあったはずの家々。いつもならもう見えているはずの緑豊かな公園に、湖や山。

それらすべてが地球上から消え去っていた。

その代わりにあったのは巨大なクレーターだけ。




その後、宇宙産業トップの海外企業であるスペーステクノロジー社、通称S‐TEC社が自社の人工衛星に搭載されている測量機でクレーターを調査。

そして地下に空洞があることを突き止め、高出力のレーザー照射機器が搭載されている人工衛星を使用し、クレーター内部の地面に穴をあけた。

S‐TEC社や、その本社がある国は新たな資源を求めて軍隊を引き連れて地下世界へと進行するが地下世界の住民たちとの戦争へと発展する。

戦争は一国の軍隊から地上すべての国々へと移り変わり、地上と地下の全面戦争となるまで戦火は広がったが、それだけでは収まらなかった。


にも資源を求めて地球へと飛来してきた金属生命体メタリアンが資源を求めて再度飛来。

地上と地下、そして天空から飛来してきた生命体たちとの戦争へとなるのだった。




覚醒:IF 関東消滅——資源戦争勃発

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超能力に目覚めた者とそれを取り巻く人々と @diarahan-1820

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