1号ファイル 天奈亜麻音(アマナアマネ)

1985年広島県のとある田舎町の約数百人の町民の大半が死亡していた。


それが判明したのは、週に一度隣町に野菜を売りに来る農家が誰も来なかったのが事の発端だ。

農家が来ないときは天気が荒れる以外は無かったらしく、変に思った取引先の八百屋の主人を始めとした数人が隣町へと向かった。


彼らが隣町で見た光景は、目を覆いたくなるほどに酷い状態だった。

鎌や鍬、鉈に斧を始めとした農業などに使われる道具が体に突き刺さった死体が町のあちこちに転がっていて、さらに夏の暑い時期だったためすでに腐敗が始まっている。


すぐに警察へと通報され、大規模な捜査が開始された。

先週は野菜を売りに来た事から、この大規模殺人事件が起きたのはわずか一週間。検死の結果から亡くなって二日から三日が経過。

この経過日数はほぼすべてが同じで、これ以上時間が経過しているものは一切なかった。

検死や死体の状況から、この大規模殺人事件は何らかの原因で町民同士が殺しあったのが有力視された。


捜査が始まってから二日目に唯一の生き残りを発見した。

発見現場は大きな畑で眠っていた一人の少女。年齢は小学校低学年から中学年くらいで同年代も亡くなっているのにも関わらず生き残っている理由は不明。

目立った外傷は無く、念のため病院へと搬送された検査もされたが怪我は無かった。


捜査は行き詰まり、町民の家の捜索が開始された。

しかし、わずか三日で町民の大半が亡くなっているから、証拠なんてそう簡単には出てくるわけがない。

それと同時に調べていた死体の身元は次々と判明したが大きな進展は無かった。


町民たちの書き残しを発見したことから、捜査は一気に進んだ。

書き残されていた事をまとめると、大規模殺人に至る経緯が判明した。


事件の始まりは天奈家の娘、天奈亜麻音が畑で綺麗な石を見つけたことが発端のようだ。実際に生き残りの少女——天奈亜麻音が発見された畑で、拳三つ分ほどの大きさの石が見つかっている。だが、石の状態が記述と違っていた。

石について書かれていたのは青白く発光していたと書かれていたのに対して、発見された石は灰色の普通の石。


この石で変化が生じたのは発見者である天奈亜麻音ではなく、それ以外の町民の方だった。

畑にいた農家同士で殺し合いが始まり、そこから町中に波及していったと考えていいだろう。初日の時点で町民の大半が死亡し、事件発生から二日目の時点で一人を残して死亡したようだ。


当初は警察が捜査していたが、次第に手に負えないと判断した後に研究所ここに捜査協力の依頼がだされた。

それまでここで扱っていたのは心霊系の物事だったので、殺人事件を扱ったことは一度も無い。にも関わらず研究所うちが選ばれたのは実績があったからなのか、それともそれ以外に何か要因があったのか——。


主な調査は生き残りである天奈亜麻音と、事件発生の一因と思われる石の二つ。

捜査に苦労するかと思いきや以外にもスムーズに事が進み、事件が解決するまでそう時間はかからなかった。


今回の大規模殺人事件はあの石——欠片が全ての原因だと言ってもいいだろう。平和な町の住民全員に突如殺人衝動が芽生えるなんて普通ならあり得ない。

だが、この欠片ならそれを引き起こせる可能性があった。


欠片は研究所にて解析が行われているが、すでにただの石ころとなった欠片からは何も得る事は出来なかった。

続いて天奈亜麻音の調査が開始されると彼女に謎のエネルギー反応が確認された。これは欠片にあったエネルギーが彼女へと吸収されたと考えていいだろう。

この事実が明らかになった時、誰もが彼女の事を恐れた。


大規模殺人事件の話は警察経由で政府にも伝わっていた。そのため天奈亜麻音の情報も当然伝わっている。彼女をどうするのか——政府、警察、研究所われわれの三組織での協議が行われた。


すぐに決まるなんてことは無く、協議は長引いた。

そこには恐れた者たちは彼女を処分する。その能力ちからの強大さを知った者たちは生かして兵器として運用する。様子を見るだけに留めたい者たちは永久凍結するの主に三つの意見に分かれていたからだ。


勢いがあったのは兵器派だったが、永久凍結派に大物議員がいたことで彼女は冷凍睡眠の処置を受ける事で合意。


1985年7月28日 天奈亜麻音 冷凍冬眠完了


いつの日か、彼女と何らかの方法でコミュニケーションを交わすことが出来るとしたら、きっと彼女が危険ではない事が分かるはずだ。

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