危険度:レベル10 最下層の彼女

エレベーターの扉が開いた先に待っていたのは『ようこそ!紅葉茜ちゃん』と大きく書かれた垂れ幕と、大勢の人が私を迎えてくれた。


「これって私を歓迎してくれてるの?」

「そうだよ。一応君の歓迎会をやるって聞いてたけど、ここまでの事をやるなんて思ってなかったな。って嬉しくなさそうだけど、嫌だった?」

「そうじゃなくて、まさか歓迎会を開いてくれるなんて思わなかったから驚いちゃっただけ」

「嫌じゃないのならよかったよ。いつまでもここに居ないでパーティに混ざりに行こう。今日の主役は君なんだから」


パーティに混ざろうとおじさんは言ったけど、初めて会う人と会話するなんて緊張するのに、こんなに沢山の人が居たら会話なんてできっこない。

この歓迎会で私がしたことは、おじさんに紹介された時に挨拶をしたり、置いてあった食べ物をお腹いっぱいになるまで食べたりしただけ。


「研究者っぽい人しか話しかけてこないよおじさん。ほんとに超能力者がここに居るの?」

「一応参加はしてるみたいだね。服装とかが研究員とは違うから、よく探せばすぐに見つかるんじゃないかな。多分君と年齢が違うから話しかけづらいんだと思うよ」

「ふーん……ここには私と同じくらいの年の子がいないってことなの?」

「君と同年代の子はここにはいないけど……君には隠し事はできないだろうし、正直に話した方がいいか」


「一人の女の子がこの研究所にいるんだけど、その子がいるのはレべル10の階層……つまりここの一番下にいるんだ」



その話を聞いて会いに行きたいっておじさんに言うと「すぐに許可が取れるか分かんないよ」って言ってたけど歓迎会が終わるまでには許可が出た。

まさか許可が出ると思ってなかったのかおじさんが驚いていたのは少し面白かった。


歓迎会が終わってから私以外の女の子に会うためにエレベーターに乗るとボタンには一階二階じゃなくてレベル1レベル2と書いてあった。

そして私たちが行くのは一番下のレベル10。


「ねえおじさん」

「うん?どうかした?」

「渡してもらったカードとか、このエレベーターとかに書いてあるレベルってどんな意味があるの?」


あちこちにレベルって書いてあったら誰だって気になる。

一番下まで行くみたいだし、時間もかかりそうだし、それに何よりも私が知りたかった。


「しまった説明して無かったか……。このレベルは主に能力の強さで決まってるんだ」

「じゃあ私がレベル1なのは弱いからなの?」

「いや、君の能力は弱いものかもしれないけど、使い方によっては大変な事態を引き起こすかもしれない。でも君がそんな事をするようには見えないからね。だからレベル1って評価なのさ」


ここに来るまでに色々とあったのに、一番危険度の低いレベル1って……大丈夫なのかな。


「私がレベル1ってホントに大丈夫なの?だって施設が無くなっちゃったし……」

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。君よりもっととんでもないやつがいるから。おっと、もうそろそろ着きそうだね」


エレベーターの扉の先は真っ白な一本道の廊下があるだけ。

それに上の階と違ってしーんとしてるし、人もいないからすごく怖い。


「不気味な感じがするでしょ?初めてここに来る人は気味が悪いって言うんだ」


何回もここに来た事があるのか、笑いながら言った。

そして分厚く頑丈な扉をカードキーを使って開けた先にあったのは、いろんな大きさのモニターが壁一面に並んでいた。

そのモニターに映っていたのは横になっている一人の女の子だけ。


「この子が私と同じくらいの女の子なの?」

「彼女が君と同い年の子だ」


おじさんは静かにそう言った。


「でも……画面に映ってるだけなんだけど、この子本当にここにいるの?」

「もちろんいるよ。あそこの先で彼女は寝てるんだ」


おじさんの見てる先には、さっき通ってきた大きな扉とは違って小さなドアが一つだけあった。


「ドアの先には行けないの?」

「先に行くには偉い人の許可が無いと入れないんだ」

「えー……話くらいはできると思ってたのに……」

「流石に話すことはできないよ。あの子は今、冷凍睡眠状態だから」

「冷凍睡眠ってなに?」

「そうか、まずそこからか……えっと冷凍睡眠は——」

『入室可能時間が終了しました。速やかに退室してください』


静かだったところにいきなり大音量で流れたから、耳がキーンと痛くなった。それに緊張してたからなのか息が苦しいような気もするし、頭もふらふらする。

『……え…………い……の……?』

幻聴みたいなのも聞こえてきたし、やっぱり疲れてるみたいだ。


「もう時間か。話の続きは後にして、早くここを出よう。もたもたしてたら怒られるからね」




「彼女があそこで冷凍睡眠によって眠ってるのは、起きていたらあまりにも危険だと判断されているからなんだ」

帰りのエレベーターの中でおじさんが話始めたのを私は何も言わずに聞いていた。


「なんでそう判断されたのかって言うと、ある田舎町でね彼女以外の住民がみんな亡くなったんだ。当然彼女に疑いがかかったし、町民が書いたと思われる紙には彼女の影響で町民が狂ったと書かれてた。それが彼女を冷凍睡眠にする決定打となったらしいよ」

「ふーん…………そうなんだ」


気分が悪くなってるからか、自分でも驚くくらい素っ気ない返事が口から出ていた。

ちょっと言い方も悪かったし、気分を悪くしたかなと思っておじさんを見ると苦笑いをしてた。


「やっぱり初日にレベル10の見学は無理させちゃったみたいだね。早く戻ってゆっくり休んだ方がいいよ」

「休むって言っても私の部屋とかあるの?……まさか研究所に閉じ込められるとかじゃないよね?」

「閉じ込めるって……そんな事するわけないじゃないか。君は女性研究者たちが使ってる寮で暮らすことになってるんだ」


寮なんてどこにあるんだろうって気になったんだけど、ここから近い所にある街中にあるらしい。しかもその寮は研究所と地下通路でつながってるなんて——

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