25話 くすぐり合い その4

 俺たちが陽菜のくすぐり合いの無事を確認していると、代表社員が次の番号を告げていった。

 どうやら次はニコルがくすぐり合いをするようだ。

 ニコルは自分の腕輪に書かれている番号を確認したら、周囲を確認していく。

 そして目が合った人物と一緒に近くの空いているテーブルに向かっていった。

 それからニコルは静かにくすぐり相手の脇の下の手を入れていく。

 またニコルも自分の脇の下に相手の手を受け入れていった。

 ニコルはいつもの物静かで大人しい顔を崩さないでいたけど、尻尾はくねくねと動かしている。

 もしかしてだけど、ニコルはくすぐったいと感じているのだろうか。

 もしそうだとしたら笑わないでくれ、耐えてくれと思った。

 そしてニコル達のくすぐり合いが終わり、ニコルは俺たちの元に戻って来る。


 俺はニコルに労いの言葉をかけていった。


「お疲れ様。ニコルさん、なんだか尻尾がよく動いていたけど、もしかしてくすぐったかったですか?」


 ニコルは無表情のまま首を横に振っていく。


 莉子もニコルのくすぐり合いについて心配そうに尋ねる。


「私もニコルさんが笑ってしまうんじゃないかって心配でした。本当に大丈夫ですか?」


 ニコルは口角を少し上げて、静かに頷いていく。


 陽菜は穏やかな顔を作りながら呟いた。


「不謹慎かもしれないけど、ニコルさんにも人間らしいところがあって少し安心しちゃった」


 芽依は不機嫌そうに言葉を投げる。


「不謹慎すぎるでしょ。ぶっ殺すよ」


 葵は静かに俺たちから少しだけ離れた場所で雑談を眺めていた。



 代表社員が次の抽選番号を発表していく。

 どうやら次は芽依がくすぐり合いをする番みたいだ。

 芽依もすぐに相手を探し、それらしき人物を見つけると一緒にテーブルに向かっていく。

 芽依はくすぐり相手の脇の下に指を差しこんでいき、小さく動かくしていった。

 また芽依もくすぐり相手の手を自分の脇の下で受け止める。

 芽依はいつものムスッとした不機嫌な顔を維持し続け、くすぐり合いを終えた。

 芽依がどんな感覚を味わっていたのかは、表情からは残念ながら読み取れなかった。

 しかし無事にくすぐりを切り抜けれたのには間違いないので、俺たちは共住者の無事に安堵のため息をつく。


 芽依がこちらに戻ってきて、肩をすくめながら苦笑する。


「はぁ、わたしのくすぐり合いも何事もなく終わったよ。笑わないように強く意識してたってのに、相手のくすぐりが弱くて無駄に終わったよ。まったく、わたしの努力はなんだったんだ、ぶっ殺すよ」


 そんな事を言われても困る。

 芽依の言葉通り、笑わなかったらそれでいいじゃないか。

 俺は苦笑しながら芽依を迎え入れる。


「お疲れさまです。芽依さんのその性格があれば、黙島での生活は安泰ですね」

「どういう意味?」


 芽依は半眼で俺のことを見つめてきた。


 莉子があたふたしながらその場をなだめようと試みる。


「芽依さんお疲れさまです。無事にくすぐり合いから戻ってきてくれて安心しました」

「わたしも他のみんなの様子見てたからね。対策が取れたよ。それは莉子さんのおかげでもあるよ、ありがとう」

「え、そうですか?」


 芽依は小さく頷いた。



 代表社員が次の抽選番号を体育館に響かせていく。

 今度は葵がくすぐり合う番が巡ってきたようで、自分の腕輪の番号を確認した後、周囲の様子をうかがっていた。

 そして目的の人物を見つけると、くすぐり相手と黙々とテーブルの移動し始める。

 くすぐり相手は葵が放つ雰囲気に飲みこまれてしまったのか、静かに淡々と葵の脇の下に腕を伸ばしていく。

 葵は流れ作業のようにスッとくすぐり相手の脇の下に手を忍び込ませていった。

 それから、静かで何事も起きなかった葵たちのくすぐり合いがあっけなく終わる。

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