21話 恐怖のアナウンス招集

 物資が支給されてから数日後。


 今回の朝食は莉子が作ってくれることになった。

 莉子本人は自分の料理に腕に自信がないのか、あまり期待しないでと言っている。

 しかし俺たちの食卓に並べられている料理は紛れもなく美味しそうな和食だった。

 茶碗に盛られた白米、わかめと豆腐が入った白味噌汁、卵焼きにパックの納豆。

 文句の無いラインナップだ。

 そして莉子の言葉に反して期待して口の中に運んでいく。

 しかし期待し過ぎたせいかはわからないけれど、口の中に広がる味は、素直に美味しいとはいえるものでは無かった。

 不味いというわけでは無いけど、食べられない物でも無い。

 表現が難しいけど、薄い味に仕上がった料理だ。

 だけど率直な感想を言えば莉子を傷つけ、悲しませるのはその場にいた全員は気づいているのか、誰も不満の声を漏らさない。

 むしろ気を使って美味しいとみんな言っている。

 もちろん俺も莉子に元気になってもらいたくて美味しいと言葉を漏らしてしまった。

 空腹だから美味しく感じたのは事実だ。






 食事を終えた俺たちがシェアハウスで各々おのおのくつろいでいると、この島に来てから三度目のアナウンスが家の中に流れてきた。

 突然のアナウンスにほとんどの人が体を一瞬震わせながら驚いたりする。

 そして流石に三回目となると、あまり警戒心を抱かなくなった、あるいはむしろ重要な情報を提供する声にみんなが耳を傾けていく。


『――ピンポンパンポーン――みなさん、こんにちは。どうお過ごしでしょうか。早速支給された物資を堪能しているでしょうか。新しく手に入れた食品を朝食で食べた人も居るでしょうか。さて、快適さを回復した生活を送っている皆さんにここでお知らせしなければならないことがあります』


 今度は何を伝えてくるのだろうか。

 俺は聞こえてくる音声に集中していく。


『みなさんには是非、もっと他の“楽園”参加者との仲を深めてもらいと思っています。そこで我々はみなさんの何か手助けが出来ないかと考えました。みなさん、今から一時間後に、再び体育館に集まってください。とっても素敵な企画をご用意していますので、よろしくお願いします。なお、今回も何か来れない事情が無い限り、不参加は認められません。その場合は笑った時と同じ対応をします。そして今回もドローンが道案内を務めますので、みなさんを気楽に体育館までご案内します。それではみなさん、移動の準備の方よろしくお願いします』


 スピーカーから放送の音声が途切れると、家の中に静寂が訪れる。

 シェアハウスに居たみんなは恐怖と不安でいっぱいの顔を作っていく。

 俺たちは決して忘れてはいない。

 前回体育館で集まったにらめっこで何が起きたのかを。

 なぜ誰も使用していない部屋が出来上がったのかを。

 どうして食材の消費速度が少し緩んでいるのかを。

 俺たちが大切なものを失ったことを。

 あの出来事がすぐに頭の中で再生されていく。

 助けを求める声が頭の中でこだまする。

 すぐ近くで叫んでいるように錯覚して、俺は周囲に視線を向けた。

 もちろん室内には莉子たちしかいなく、しかも静かにたたずんでいる。

 そう、叫び声なんて実際に叫ばれていない。

 幻聴を聞いてしまった。


 しかし、だからといって体育館に行かないという選択肢を取るわけにはいかない。

 たとえそこに恐怖が待っていようとも、俺たちは快適な生活を続けるために行かなければ。

 俺は静寂に包まれた空間に自分の声を響かせていく。


「さぁ、みんな。体育館に向かいましょう」


 莉子たちは気分が乗らないといった雰囲気を出しつつも頷いた。


 俺だって気分は乗らない。

 しかし行かないと、俺の快適な生活がここで終わってしまう。

 体育館に行く恐怖よりそっちの方が恐ろしい。

 体の中に湧きあがる感情を早く解消するためにも、とっとと体育館に向かおう。

 この迫ってくるものから解放されたい。

 その想いは莉子たちも同じようで、俺と一緒で自然と車庫に向かっていた。


 俺たちはそれぞれ気に入った電動キックボードを選んで体を乗せていく。

 実際は気に入る決め手なんてものは無い。

 ただなんとなく、視界に入った物に乗っただけだ。

 きっと莉子たちも同じだろう。

 そんなことを思いながら、俺は地面を蹴りながら助走をつけていく。

 それから三回ほど蹴った後、右手で握っているハンドルのアクセルを押していく。

 俺を乗せた電動キックボードは滑らかに地面を走行し始め、太陽の日で照らされた大地に進んでいった。

 車庫の中には莉子たちが走らせている電動キックボードの駆動音が響き合い、俺の後ろをついてきているのが振り向いて確認しないでも分かる。

 そして俺の前方にはドローンが宙に浮かんでいた。

 俺たちが家から出発するのを待っていたのだろう。

 操縦しているであろうサイレダイス社員に申し訳ないと思ってしまったので、アクセルを気持ち深く押し込んでいく。

 それに比例して俺が乗っている電動キックボードも応えてくれて、速度が上がっていった。

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