18話 帰宅途中

 そして俺たちは体育館脇へと移動し終えた。

 体育館脇には当然ながら俺たちが乗ってきて停めた電動キックボードが並べられてある。

 ほんの数時間前までは他の参加者の電動キックボードも止めてあったけど、今はほとんど無くなっていた。

 また、たとえ色が違って自分たちが乗って来た物と間違えることが少ないといっても、気にしない人間もいる可能性もあったので心配していたけど、台数は最初と変わっていない。

 莉子たちは電動キックボードの前までは移動するけど、そこでいったん足を止めた。


 莉子は不安そうな顔を浮かべながら呟く。


「あれ、私どの電動キックボードに乗って来たのか忘れました」


 奏太もおろおろしながら言う。


「あ、僕も同じです。どれに乗って来たか覚えてないです」


 ニコルは顎に軽く握った拳を当てながら電動キックボードを見つめる。


 葵は無言のまま、俺たちより少し後ろで様子をうかがっていた。


 芽依は頭を軽くかきながら言葉を漏らす。


「べつに誰がどれに乗っても関係ないでしょ。爆発でもするわけじゃないんだし。ぶっ殺すよ」


 陽菜はよろよろと力が抜けた状態で近くに停めてあった電動キックボードに体を乗せていく。


「みんな自由に乗ればいいじゃん。ほら、はやく帰ろうよ」


 俺はみんなが電動キックボードを選び終わるのを見届けたら、残った二台のうちの片方に寄っていった。

 デッキに足を乗せ、ハンドルを両手で握っていく。

 そして隣に停めてある電動キックボードを見つめた。

 莉子たちは既に電動キックボードに体をゆだねていて、もう電動キックボードを必要としている人は居ない。

 ではなぜ一台残ってしまっているのか。

 その理由をすぐに考えるのを止めた。

 それで思考を巡らせたら、まともに運転できない気がする。

 しかし感情はなかなか消えてはくれなく、悲しみが体の中で強くなっていく。


 俺は周囲を見渡して言葉を投げかけた。


「それじゃあ、出発しようか」


 莉子たちは俺に向かって頷く。


 また、俺たちの近くには飛行型ドローンが一台浮遊している。

 サイレダイスからは何も説明を受けていないけれど、何となくは察することが出来た。

 ここまで来るときもドローンの案内があったのだ。

 帰りもドローンの案内があっても不思議じゃない。

 俺は右ハンドルに備わっているアクセルを押し込んでいき、電動キックボードをドローンに向けて前進させていった。

 そして俺の予想通り、ドローンに近づいていくとまるで俺たちを道案内するかのように、一定間隔を開けながら前方を飛行していく。

 ドローンに先導される俺の後ろを、莉子たちが続いて走ってくる。

 体育館まで来る時はみんなで一緒に走れて楽しい感覚があったけれど、今はそんな感情を抱く余裕が無かった。

 もし仮に抱いたとしたら、俺は自分を許せないだろうし、莉子たちの中にも走行を楽しんでいる様子を見せる人が居たら、俺は関係を見直すだろう。

 あるいは一緒に暮らすことを遠慮するかもしれない。


 俺たちは少し暗くなった曇り空の中を電動キックボードで軽やかに移動していく。

 その途中で、一瞬後ろを振り向きみんなの様子を確認した。

 莉子たちは今現在も浮かれない表情を浮かべている。


 そして俺は遠くに建てられた小さくなった体育館を見つめていると、この先も快適な生活を続けられるのか、自分は生き残れるのかいう気持ちが湧きあがってきた。

 視線を前方に戻し、運転に集中する。

 強い心配を抱きながら、ドローンを追いかけながら俺たちの家に帰るのだった。

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