12話 体育館へ

 シェアハウスから出発してから数分後。


 俺たちは黙島を電動キックボードで移動し、無事に体育館に到着した。

 俺たちの先頭を飛んでここまで道案内をしていたドローンは、どこか遠くに去っていった。

 おそらく他の人の監視をしに行ったのか、あるいは操縦者の元に戻っていったのか。

 体育館からシェアハウスまでの道のりは歩きだったし、莉子たちと一緒にどの家に住むか決めるか周囲を見渡しながら歩いていたので、そこそこ時間がかかった。

 しかし今回は電動キックボードによって大幅に移動時間が短縮された。

 これは時計などでしっかりと計らなくても、正常な感覚を持っているものならだれでも感じれるだろう。

 それほどすぐに到着したのだ。

 また、サイレダイスのが操作していたであろうドローンの案内によって、道に迷うことなく最短ルートで体育館までこれたので、それの恩恵もあるはず。


 俺たちは体育館に入るために電動キックボードを停めようとする。

 いくら快適な生活とはいえ、室内にそのまま乗っていくのはあり得ないだろう。

 なので俺たちは体育館の外側にあるであろう駐輪場、あるいは駐車場を探してみた。


「……あれ、電動キックボードは用意されてるけど、停める場所は無いのかな?」


 蓮はキョロキョロと周囲を見渡していく。


「でも他の人は適当に停めてるっぽい」


 おそらく他の参加者たちがここまで来るのに乗ってきた電動キックボードが体育館の脇の土場に停めてある。

 変わってる点といえば、俺たちの乗っているものと色が違っていた。

 色が違うので、どこの家の住人が乗っているか分かるようになっている。

 なのでどれが自分が乗って来た物かが分かるし、万が一他の参加者に乗られてしまったら、どこに住んでいる人が乗っていったのかも分かる。


 俺たちも体育館脇でウロチョロとさまよい続けているわけにもいかないので、他の参加者たちにならってなにも無い土俵にそのまま放置していった。


 陽菜は不安そうな表情で訴える。


「え、ほんとうにここに置いてっていいのかな」


 芽依は不思議そうに陽菜を見つめる。


「駐車違反で取り締まる人が居ないんだから、適当に置いとけばいいでしょ。なにビビってんの、ぶっ殺すよ」


 莉子も不安をにじませた顔で呟く。


「確かに不安ですよね。警察は黙島に居ないかもしれませんけど、サイレダイスに何か言われないかは気になります」


 蓮は頭を抱えながらうろたえる。


「嫌だよ! オレ駐車違反で連れていかれるのは嫌だからね!」


 俺だってそんなことで終わるのは嫌だ。

 しかし本当に何か問題があるのならどこかで説明があっていいはず。

 俺はサイレダイスを、そして他の参加者たちの行動を信じてみんなをなだめた。


「サイレダイスからはそんなに細かく説明されていないでしょ。だから安心してここに停めていこう」

「そうだけど、万が一のことを考えると」


 奏太は冷静な表情で言葉を続ける。


「電動キックボードで体育館に移動するのを推奨していたのに、駐車についての説明なしで違反になるのは道理に反します。だから僕はこのままここに停めても大丈夫だと思いますよ。もちろん絶対ではないですけど」


 莉子もうなずいて賛成した。


「そうですよね。私も奏太さんの意見に賛成です」


 俺も二人の意見に乗ってみんなをなだめていく。


「ほら、二人もそういってるから、みんな安心して停めましょう」


 蓮はどこか不安が完全になくなっていない顔を見せ続けるけど、渋々電動キックボードから離れていった。


「くっ、頼みます。サイレダイスさん、見逃してください」


 そして体育館の壁に設置された監視カメラに向かって、懇願するように両手を顎の近くで握っていく。

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