6話 一緒に暮らしましょう その1
そうと決まれば、俺も早速周囲にいる参加者たちの様子をうかがう。
これから先、どれくらいかは分からないけれどとても長い時間を共に過ごす人を選ばなくてはいけない。
説明が無かったけれど、もしかしたら黙島で一生を終える可能性もある。
だったら出来るだけ自分と相性がいい人と時間を共にしたい。
例えば、館内の隅っこのほうでこれからどうしたらいいかおろおろしている女性。
あの人となら一緒に住んでもいい。
思うだけでは何も始まらないのはわかっている。
彼女に向かって館内を歩いていき、声をかけていく。
「あの、こんにちは」
「あ、こんにちは……」
「えっと、その、お姉さんはこれからどうするかってもう決めてますか?」
おろおろした女性は首を左右に振った。
「いえ、まだなにも」
「あ、それならもしよかったら、俺と一緒に生活していきませんか? もちろん嫌だったら断ってくれても大丈夫ですので」
おろおろした女性は左下の床をしばらく静かに見つめる。
「……いえ、私もだれかと一緒に過ごしたいと思っていたので、こちらこそよろしくお願いします。私の名前は
莉子(りこ)と名乗ったおろおろした女性は背中まで黒い髪を伸ばしたロングヘアー。
二十代前半に見える容姿。
黒い瞳に穏やかそうな目。
飾り気のない衣装で身を包み、胸部にはそこそこの大きさの膨らみが出来ている。
全体からは真面目で優しめの雰囲気が溢れ出ていて、ちょっと頼りなさそうだ。
腕輪には35と数字が描かれている。
莉子は俺の誘いを快諾してくれた。
率直に嬉しい。
莉子は決してみんなから注目の的になる存在、
しかし横にいてくれたら安心できる、安定した美しさがあり、そんな女性と黙島で生活できたらどんなに嬉しい事か。
彼女のことはまだ何もわかっていないけれど、若干暗い感じがする以外は性格も問題はなさそうだ。
それは自分にも当てはまる事なので、悪く言うことは出来ない。
「え、本当ですか!? 俺と一緒に過ごしてくれるんですか!? 俺なんかと暮らしてくれるんですか!? 俺なんかみたいな奴と……あ、俺の名前は
「むしろ私のほうこそ心配ですよ。私でいいんですか? 私と暮らすことになってもいいんですか? 私なんかと過ごして大丈夫ですか?」
「いえ、莉子さんと一緒に過ごせたら、黙島での生活は――」
言いかけて、自分の顔が緩んでいることに気付いた。
このまま口角が上がっていき、笑顔と一緒に笑い声が漏れてしまったらどうなるのだろうか。
それは作り笑いと同じ部類になるかは分からない。
もしそれが笑ったと判定されるのなら、このまま会話を続けていたら俺がすぐに終わってしまう。
そして莉子もちょっと笑顔になりかけていて危ない。
俺、いや俺と彼女の身のためにも伝えなければ。
「莉子さん、駄目! このまま続けてたら笑っちゃいますよ!」
「え、あっ」
莉子はハッと驚いたような顔をして、すぐに表情を暗くしていく。
「ごめんなさい。そうですよね。笑ったらいけないんですよね」
「こんなところで雑談してたらすぐにさっきの男性のように俺たちも。そうならないように早く移動しましょう。俺たちが住む家を決めましょう」
「はい」
莉子は頷き、俺の近くに寄ってきた。
そして俺たちは体育館の出入り口に向かい始める。
けど俺の視線の隅に、気になる人物が映りこんできた。
莉子と似た雰囲気を出している男性が、一人寂しく体育館の隅におろおろしている。
もっと言うと、俺と同じ雰囲気を漂わせた、いわば同類が近くに居た。
せっかく莉子という素敵な女性と一緒に暮らすことになったけど、なぜだか彼を放っておくことは出来ない。
彼を無視するという事は、俺も他人から無視されてもいいという事だ。
俺は莉子に確認する。
「あの、一緒に暮らすことになってそうそうで申し訳ないんだけど、その、あと一人一緒に暮らす人を増やしてもいいかな?」
「え?」
莉子は突然どうしたの、というような疑問を抱いた顔を浮かべた。
俺は哀愁を漂わせた男性に視線を向けながら呟く。
「彼を出来れば誘ってあげたいなって思って。なんだか放っておけない」
莉子は俺の視線の先を見つめる。
「確かに彼からは私と同じような雰囲気を感じて、大翔さんが誘ってあげたくなるのも分かります」
「莉子さんも同じ雰囲気を感じたんですね」
「はい」
莉子は右下をしばらく見つめながら考えた後、ゆっくり頷く。
「分かりました。彼も誘ってあげましょう。きっとさっきまでの私と同じように、この先どうしたらいいのか不安で押しつぶされそうで、困っているはずだから。助けてあげましょう」
「莉子さん。はい、ありがとうございます、誘ってみます」
莉子の許しを貰えたので、早速哀愁を漂わせた男性に近づいていく。
「あの、すみません」
「え、うぁ?」
哀愁を漂わせた男性は驚き戸惑った顔でこちらを見つめてきた。
俺はさっきの莉子みたいな反応だな、なんて思いながら会話を続ける。
「お兄さんは、今後の予定はもう決めましたか?」
「……いや、俺は。なにもない」
「そうなんですね。あの、もしよろしければ俺たちと一緒に暮らしてみませんか? あ、俺たちっていうのは、彼女も一緒です」
莉子は軽く頭を下げながら挨拶をした。
「どうも。莉子っていいます」
「あ、どうも。僕は
奏太は三十代前半に見える容姿。
茶髪の短い髪。
黒目で若干垂れ目。
どこか保守的であまり活発的ではない雰囲気を感じる。
装着された腕輪には37の数字が書き込まれていた。
俺も軽く頭を下げながら名乗る。
「俺の名前は大翔っていいます。それで奏太さん、もしまだ誰かと一緒に暮らす予定が無ければ、よかったら俺たちと一緒に来ませんか? もちろん嫌でしたら断ってくれて構いませんので」
奏太は右下の床を見ながらしばらく沈黙した。
その行動はついさっきも見た気がする。
そして奏太は顔をゆっくりと上げ口を開く。
「僕は大翔さんより年上ですよ? ……ですよね? おっさんですよ。こんなおっさんの僕と一緒に暮らしたいですか?」
「え、あー、俺たちは奏太さんのような人を放っておけないんですよ。奏太さん、一緒に来ませんか? 無理にとは言いませんので」
「僕なんかじゃなくて、他の人を誘った方がいいんじゃないかな? そう、例えば莉子さんの様な素敵な女性をもう一人誘ったりとか」
莉子は首を高速で横に振って否定する。
「そんな、私なんて」
そんな謙遜することは無いのにと思いながら、奏太をもう一度説得してみた。
「家の中がどうなっているのかは分からないのでどうなるかは分かりませんけど、俺たちと深く関わらなくてもいいです。だから一緒に住んでみませんか?」
「……ありがとう。こんな僕を誘ってくれて。お言葉に甘えて大翔さんたちの家にお邪魔させてもらうよ」
「こちらこそ、ようこそ」
莉子は俺の横で安堵のため息をつく。
おそらくこの三人でなら、静かで安定した生活を送れるだろう。
「さあ二人とも、俺たちが住む家を探しに行きましょう」
莉子と奏太は頷くと、俺の後ろについて歩いてくる。
そして体育館の出入り口から外に出ようとした時、俺の斜め背後から男性の少し明るめの
「あの、すみません! オレも是非お兄さんたちと一緒に行動させてください!」
俺たちは声をかけてきた男性に振り向く。
そこに立っていたのは憂いもある明るめの雰囲気をした男性。
明るめの雰囲気をした男性は二十代半ばに見える容姿。
金色に染まった髪を耳の少し下まで伸ばしていて、若干吊り目気味の黒目。
気楽な衣装を着ている。
全体的に明るいけど、どこかに影があり、若干能力が足り無さそうな印象を受ける雰囲気。
腕輪には数字の2が書かれていた。
せっかく三人でこれから暮らしていこうと思ってるのに、突然俺たちの輪に入りたいという
非常に困る。
なにせ、彼の外見から俺たち三人とは違う雰囲気を感じるので、これからの長い黙島との生活で問題が起きるのは容易に想像できる。
彼を俺たちの暮らしの中に入れたら、何か衝突が起きるだろう。
「えっと、その、お兄さんは何で俺たちと一緒に暮らしたいと思ったんですか?」
「あ、オレの名前は
蓮と名乗った明るい雰囲気の男性は若干不安そうな顔をしながら尋ねる。
俺の気持ちとしては善意で蓮を引き入れてあげたいけど、俺たちの今後の事を考えたら躊躇してしまう。
そして悩んでいると、横から女性のまた明るい雰囲気をした声音で声をかけられた。
「ちょっと待って! あたしもお兄さんたちに混ざりたい! というか混ざらせてください!」
明るい女性は二十代前半に見える、若い容姿。
銀色に染まったショートヘアーで、カラーコンタクトで黄色い瞳をしている切れ目。
気楽な衣服で身を包んでいて、胸部にふっくらした物が出来上がっている。
全身に明るさを
27番と描かれた腕輪を装着している。
たった今、蓮の対処をしている最中なのに続けての同行のお願い。
彼女も見た目からして俺たち三人とはかけ離れた雰囲気を感じるので、一緒に暮らしていくのは難しさを感じる。
「え、お姉さんもですか? えっと、蓮さんの知り合いかなにかでしょうか?」
蓮は驚いて一瞬目を見開き、明るい彼女に顔を向ける。
そして高速で顔を横振っていく。
「いや、いやいや。オレ彼女のこと知らないよ! 初めて会いました!」
明るい彼女は一瞬たじろぎ、若干悲しそうな顔を浮かべながら呟く。
「確かに初めてですけど、そこまで否定しなくてもよくないですか? “楽園”の参加者みんな初めましてでしょ? あ、あたしは
俺は二人をなだめるように、穏やかな口調で喋りかける。
「まぁまぁ。えっと、陽菜さんはどうして俺たちと共にしようと思ったのですか?」
「えっ」
陽菜と名乗った明るい女性は、一瞬視線を蓮に向けた後、すぐに左下の床を見ながら考え込む。
そして軽く口角を上げながら言う。
「なんだか人数が多いグループで、楽しそうだったから」
「え、それだけですか?」
「あと、お兄さんたちが優しそうだったから、あたしみたいな人でも受け入れてもらえるんじゃないかなぁって。直感だけど間違ってないと思う」
優しいかどうかは置いといて、そんな自分のことを卑下にされると、心配で俺たちの輪の中に引き入れたくなるのは事実だった。
そしてそれが断る理由を無くしてしまう。
「俺だけの意見で決めることが出来ないから、莉子さんと奏太さんの意見も聞かないと」
「莉子さんと奏太さんっていうのは、そこの二人ですか?」
陽菜は莉子と奏太の顔を交互に見ながら両手を顔に近くで合わせる。
「お願いします。あたしも連れて行ってください。仲間に入れてください」
莉子は首を横に振りながら応えた。
「そんな自分を下げないで。大丈夫、私は陽菜さんと一緒に暮らしてもいいと思ってるから」
奏太も小さく頷きながら言う。
「僕も特に問題はないです。むしろ僕なんかが居るところで一緒に暮らしていけるのか心配です」
陽菜は少し嬉しそうにしながら頭を下げる。
「ということなので、よろしくお願いしますね」
「まだ決まったわけじゃないんですけど。まぁ、そうですね。二人が良いというなら断る理由がなくなりました。陽菜さん、よろしくお願いします」
一方、蓮はうろたえながら訴えた。
「あの、オレはどうなったんですか? オレも一緒に連れて行ってもらえますよね!?」
俺は蓮以外の三人に確認する。
「えっと、蓮さんも陽菜さんに引き続き俺たちと一緒に暮らしてもいいかな?」
莉子、奏太、陽菜は首を縦に振って肯定した。
「私は大丈夫ですよ」
「僕も問題ないです」
「あたしはむしろ大歓迎! 蓮さんよろしくね!」
俺は顔をゆるめながら頷く。
「というわけなので、蓮さんもよろしくお願いします」
蓮は小さなため息をつき、安心した顔を見せる。
「ありがとう。これからよろしく!」
「さぁ、一緒に暮らす人が決まったので、俺たちが住む家を決めに行きましょう。外に出ましょうか」
三人を誘導して、これから島を歩いてこれから俺たちが暮らす家を探そうと体育館の外に出ようとしたその時。
俺の腕が何かに引っ張られているのを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます