第16話和扇、最後の仕上げ

結界を張る準備をする歌保。

歌保は、調べていた事を又、見よう見まねで

する。


「それでは、始めましょう」


「はい、先生お願いします」


歌保は呪文を唱えながら、オデコから始まって、所々を自分の二本の指で、押して行く。

三十分程、時間を掛けて儀式は終わった。

歌保は、小さなお札を、泰造に渡した。


「明日これを、肌身離さず、お持ちください

ませ、どんな強い悪霊でも、結界を割る事は

出来ませんので」


「ありがとうございます!必ず、ちゃんと

持っておきます!」


「間に合って良かったです、では私は次の所が有りますので、佳子様、お水は入れ替えて

おられますか?」


「はい!毎日ちゃんと」


「よろしいですね、では失礼致します

心清らかに、お過ごしくださいませ」


歌保は何時ものごとく、タクシーで駅に

向かった。


「お父さん、和扇先生ね身内に人を殺した人が居るって、言い当てたわよ!本当に凄い

先生ね!」


「本当だよ!知らずに明日、行っていたら

死んでたかも、分からないからな!」


「本当ですね!」


家に帰った歌保は


(これで全部、取り上げたわ!もう木村家

にも矢田家にも、用事は無いわ!探偵にも

盗聴器を回収して貰って、帰って貰おう)


歌保は、探偵に連絡をした。


「盗聴器の回収をすれば、仕事は完了です」


「はい、了解しました」


「報酬の希望は?」


「もう沢山、頂いているので後100万も

有れば!」


「じゃあ、300万振り込みます!あの世迄

他言無用で」


「いいんですか?」


「はい、助かりました!」


「こちらこそ、ではマンションを引き上げて

地元に戻ります、携帯はポストに投函して

おきます!お世話になりました!」


「こちらこそ、又、何か有ったらお願い

します」


「何時でも!」


歌保は電話が終わると、もう和扇になる

必要が無いので、ウィッグ、着物、お札等

証拠品の処分に、かかっていた。

何時もの様に、細かく裁断して袋に入れて

クリーンセンターの焼却炉に、自分で

投げ込むのであった。

仕事から帰って来た充に


「充さん、後1億、取り上げたわよ!」


「でも、もうそんなに無かったんじゃ?」


「プライドの高い泰造を利用したのよ!

自分の命に、いくら出せるかってね!

そしたら、家族の預貯金を下ろして、足り

無い分は、融資を受けたんでしょうね!

こういう時、元とは言え、議員は強いわね!ただ、木村家も、もう終わりよ!ただ

まだ選挙に出る事が、許せないの」


「やっぱり、出る気なのか?」


「神経が図太いのよ!って、私が言えないね?」


「ハハハ、そうだな!お見事だよ!」


「充さん、泰造が選挙に出れ無い様に

出来ないかな?」


「う~ん、それなら、もう直接言うしか

無いだろ?」


「でも私は、顔がばれてるから!」


「よし!俺が行って来るよ、いざとなったら

こっちには、証人も居るんだからな!」


「でも、美弥ちゃんは捲き込まないで

欲しいの」


「分かっててるよ、切り札だよ!」


そう話して居ると、家のチャイムが鳴った。

顔を見合わせる二人。


「誰かな?は~い」


「及川美弥です」


慌ててドアを、開ける歌保。


「美弥ちゃん、どうしたの?まぁ上がって」


「はい、お邪魔します、おじさん、おばさん

先に愛奈に線香を、あげてもいいですか?」


「勿論よ、愛奈も喜ぶわ」


美弥は、ケーキの箱を置くと、長い時間

手を合わせていた。

そして、充と歌保の前に座ると


「おじさん、おばさん、あの三人は死んで

遺書迄、見付かったのに、どうして愛奈は

自殺のまま何ですか?殺人にどうしてならないんですか?」


「う~ん警察も、確固たる証拠が無いから

今、手も足も出せないんじゃ無いかな?」


「じゃあ、私が証言します!」


「駄目よ!美弥ちゃんを、あんな警察や法廷に立たせるなんて、これ以上、美弥ちゃんを

巻き込めないし、巻き込みたく無いの!」


「おじさん、おばさん、私の事をそんなに

……」


美弥の瞳から、ポタポタと涙が落ちる。


「あ~あ~泣いちゃって、愛奈に笑われるよ!」


「愛奈になら、愛奈になら笑って欲しいです!」


充と歌保は、美弥のその言葉が胸に突き刺さって、一瞬、言葉を失った。


「美弥ちゃん、学校は?」


「今、転校して別の学校に行ってます」


「転校したの?」


「はい!あんな、隠ぺいする様な学校は

信用出来ませんし、許せませんから!」


「そう、あの学校には、おばさんがお灸を

据えとくわ、特に校長にはね!」


「お願いします、おばさん」


「うん、分かった、だから、あの日の事は

忘れる事は出来ないだろうけど、前を向いて

進んでね」


「はい!私の胸の中に、全て閉まって

おきます!」


「苦しいけど、ごめんね、それと美弥ちゃん

美弥ちゃんを、巻き込みたく無いんだけど

もし、おじさんとおばさんに何か有った時は

美弥ちゃんの名前を、出してもいいかな?」


「私の苦しみ何か、おじさん、おばさんに

比べたら、私が今、生きて居るのは愛奈の

お陰ですから、おばさん必要な時は何時でも

私の名前を出してください!それが愛奈の為

に、なるなら私は平気ですから!」


「美弥ちゃん…ありがとう!美弥ちゃんは

愛奈の分迄、沢山の事を学んで、楽しんで

生きてね!」


「おばさん…ありがとうございます!私は

愛奈の分と、二人分生きて見せます!」


「フフフ、そのいきよ!」


「フフフ」


そして美弥は、帰って行った。


「充さんが、木村の所に行ってくれるなら

私は学校に行って来ますね、このままでは

駄目でしょう?」


「そうだな!人の死を隠ぺいする様な学校は

何か有ったら又、同じ事をするだろうからな!」


「うん!じゃあ明日は、お互い頑張ろうね」


「あ~やれる事は、やろう!」


「うん」


歌保の復讐も、大詰めになって来た。

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