第2話 ユウナの因縁に決着を

私の誕生についての真実を知った私たちは、エッセカマーをってゼッシュトゥルオン帝国への旅路を行っていた。


「私の名前、姿、声、性格が博士の奥さんのコピーってことは、私は博士の奥さんってことでしょ?だけど、私の本名はくろがね。私は未来から来た不可思議なホムンクルス…だけど博士の奥さん…。つまりは…」

「シエラ、もうその件について深く考えるのはやめたらどうですか?頭がパンクしますよ?」

「私はシエラさんじゃない、く・ろ・が・ね。シエラって呼ぶと、私と博士が結婚してることになっちゃうよ?私がユウナじゃなくて博士とイチャイチャしてることになっちゃうよ?私と博士が、キ、キスしてることに…」

「それ以上言わなくていいです!そこまで言うなら鐵と呼んだ方がいいのかもしれませんが、それではどうも呼びにくいというか…。それなら、博士の奥さんであったフェリシエラ・ヘルダーとあなたのフェリシエラ・ヘルダーは同姓同名、ただのドッペルゲンガーであって本人ではない、と考えるのはどうでしょうか?」

「確かに。言われると博士に恋愛感情を持ってるワケでもないし、別人って振る舞えばいいのか」

「その調子です」


そんな会話をしていると、ユウナが何かに気づいたかのようにはっとした。そして、目の前の山を睨んでいた。


「シエラ、この山は気を付けてください。山賊が出ます」

「それって、ユウナの両親を殺した因縁の相手…、親の仇の?」

「はい。前に『シュラフトゥン』の奴らと人質を殺してしまったのはこの山です。そして、あの日も。結果として全員がいたわけではなかったみたいですが、恐らく奴らの半分以上を殺してしまった」

「じゃあ、もし出てきたら殺す?」

「いえ、私はシエラとともに過ごすことで大切なことに気づきました。殺すばかりでは誰かが悲しむことになる。だから、憎んで殺すのではなく、許して軽く締め付ける程度にすることも大切だと」

「成長したねぇ。入団したての頃のシエラだったら…。ユウナがお父さんとお母さんを殺されたのっていつ?」

「10年くらい前…6歳か7歳くらいの頃の話です」

「そっか。じゃあ、誰かからたっくさん愛情を注いでもらったことはある?」

「はい。かつて同室だった10歳ほど歳の離れたお姉さんに遊んでもらったりしたことはあります。しかし、彼女のその愛すらも奴らは私から奪ってきました。奴らは私の人生から多くの大切なものも奪った。でも、そのおかげで最高の今がある。そう思いたいけど、奴らと対峙した時、奴らを許すことはきっと私にはできない」

「そんなことないよ。私がずっと、傍にいるからさ」

「シエラ…」


そしてその山に通った一本道を歩くことおよそ10分ほどが経った。


「おかしいね。誰も来ないけど、もしかして休みだったりするのかな」

「まさか。ここは通行量の多い道ですよ!?こんなところに見張り役の1人や2人すら置かないということはあり得ないはずです…。しかし、既にこの道の半分以上を歩いたのにまったく来ないとなると、不自然としか言いようが…」


すると、急に大きな足音とともに、四方八方を囲まれてしまった


「お前だなぁ、俺らの仲間を大勢殺した小娘っていうのは」

「お前も『シュラフトゥン』か?」

「俺だけじゃないさ。ここにいるヤツ全員が仲間さ」

「そうか。それで、私に用があるみたいっだが何だ?早くここを通してくれ」

「ここを通してほしければ、そこの仲間4人を差し出しな。1人ずつ丁寧になぶり殺してやるからさ」

「やめろ!私の仲間に手を出すようなら容赦はしないぞ!」

「やれるモンならやってみろ。ただ、お前をすぐに殺しちゃもったいないんだ」

「どういうことだ!?」

「仲間が無残に死んでいく様を見て絶望するお前の顔が見てぇんだよ!さぁ、さっさと仲間を引き渡せ!そうすれば、お前は絶望するかもしれねぇが、命だけは見逃してやるからよぉ」

「お前らのような下劣な俗どもの言いなりになんかならない!」


すると、シエラがその方向へ向かって歩きだした。


「シエラ、まさか犠牲になるつもり!?」

「そんなつもりはないよ。ちょっと行ってくる」

「…え?」


犠牲になるつもりがないなら、わざわざ危険を冒してまで何をしに…?


「あなたたち、私が誰だか分かる?」

「は?知ってるわけねぇだろ」

「あのフェリシエラ・ヘルダーだよ。分かる?」

「冗談もほどほどにしろ。それともひっ捕らえられてぇか?」

「ご自由に」

「おい、コイツの両腕と両足を縛り付けろ!」


シエラは何の抵抗をするでもなく、大人しく縛り付けられた…と思ったら、その縄が発火し、灰になって消え散った。


「…は?」

「わかった?こういうこと。私はホンモノのフェリシエラ・ヘルダーだよ」

「にっ、逃げろ!!」


こうして、捕まえる隙もないほどの速さで奴らは逃げていった。


「捕まえなくていいんですか?」

「大丈夫だよ。こうやって私に対して恐怖を感じさせた上でクローンを山の中に徘徊させておけば」

「それはそれでまた変な噂が立つような気が…」

「そしたら余計アイツらはここに来なくなるでしょ?だから、それでいいんだよ。これからはユウナみたいな目に遭う人が1人でも減ればいいね」

「…はいっ…」

「あれ、何泣いてるの?もしかして、お父さんとお母さんが恋しい?大丈夫だよ、私がたっぷり愛情注いであげるから」

「…そうじゃないんです。ただ、シエラ、あなたに出会えて本っ当によかったって、改めて思ったら急に涙が…」

「私も、ユウナに会えたおかげでユウナみたいに愛情を求めて苦しんでる人がいるってことを知れたからお互い様だよ」


私は、絶対にこの人と一生を添い遂げようと心に誓った。


続く

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