旅路篇

第1話 『世界の食糧庫』エッセカマーとシエラの真の正体

私の過去を振り返ってみると、3年前のあの頃とあまり変わっていないエッセカマー。王様たちは元気にしているだろうか。


「ねぇ、ちょっと王様たちのところに寄り道してもいいかな?」

「いいですが、急に押しかけて追い返されたりしないの?」

「大丈夫、命の恩人だということが忘れられていなければ、ね」



私たちはエッセカマーの王城に向かった。

そこはエンヴェルクの王城よりも高い壁がそびえ立ち、大きな門の前には10人前後の護衛がいた。


「どうも、久しぶりに王様に会いたくて来ました」

「貴様、何者だ?関係者以外の立ち入りは禁止されているぞ」

「私、あの戦争の時のフェリシエラ・ヘルダーです。ウソなんかじゃありませんよ」

「そんな馬鹿な、あのお方はゼッシュトゥルオン帝国で災禍の魔獣と戦って名誉の戦死を遂げられたはず…」

「ああ、またその話?それ、ウソですよ」


「まさか、本当に生きておられたとは」


その声がした方を向くと、そこには当時と少し雰囲気が変わった王様がいた。3年前は青年って感じだったけど、男前になって風格が増していた。


「王様、お久しぶりです」

「命の恩人よ、そうかしこまるでない。貴女には是非とも我が国の王女として君臨してもらいたい」

「それってっつまり…、求婚!?」

「恥ずかしいが、その通りだ」


えぇ…。いや、待てよ?もしかしたらあの時言ったことを覚えてくれていて、この国が好き=王様が好きとかそういう勘違いというか、ポジティブ思考的なのになってる!?


「ちょっと待ってください。シエラと私は一生添い遂げることを誓っています。残念ですが、諦めてきださい!」


急にユウナが顔を真っ赤にしてそんなことを叫んだ。え?いや、キスは確かに何回かしたよ。でも、一生を添い遂げることを誓った…?け、結婚してるってこと!?私とユウナが!?いや、嫌じゃない、むしろ大歓迎だよ。まさか、ユウナがそういう風に思ってくれてたなんて…。


「シエラ、顔が耳まで真っ赤ですよ。しっかりしてください」

「あ、ごめんね。それで、私たち結婚したも同然なんだっけ?なら、ここで改めて誓いのキスを…」

「シ、シエラ!?人前ですよ!?」


「も、もういい、せ!」


王様まで顔が真っ赤になっていた。


「貴女に会いたいと言っている者がいる。客間で待っていてもらえないだろうか」

「いいですけど」


客間に行くと、すぐに紅茶とケーキが運ばれてきた。


「さすが王族、お客さんには太っ腹だねぇ」

「シエラ、あまりはしゃぎすぎると迷惑ですよ」

「はーい」


そして数分後、見覚えのある顔、それも一番以外なヤツが出てきた所為で思わず紅茶を思いっきり噴き出してしまった


「お、お前って死んだんじゃなかったのか!?」

「何言ってんの。あの時私は半殺しにされたんだぞ」


メノカ・イチノミヤ。まさか生きていたとは…。


「もしかしてだけど、影人シャドウにやらせてたことは知らなかったりする?」

「あー、あっちの私が影人ってバレてるってことは、殺されたんだな」

「知らなかったんだ。でも、一応あの影人の所為でユウナがあのアサシンギルドから抜けることになったんだから、責任の一部はとってもらうよ」

「は?それどういうことだよ」


そして私は、およその全容を話した。


「は?アイツそんなことやってたのか…。本っ当にゴメン!責任は全部私が持つから…」

「いえ、そのおかげで今私がここにいて、皆さんに会えています。なので、むしろ感謝します」

「マジか…」


「それで、何でここに?」

「いや、私があの結界の中で半殺しにされた後、私が合流する前にエンヴェルクの軍が全員どっか行っちゃったからすることも国に戻る体力もなかったからせめてもと思ってエッセカマーの軍隊の死体をとむらってたらなんか『何て心優しき方だ。怪我をしているにもかかわらず…。よし、国へ案内しろ!』ってなった。で、王様に仕えて今この状態ってワケ」

「そういうことだったのか…」

「あと、何であの人数殺せる魔法使った挙句、ヤバそうな魔人と戦って直で災禍の魔獣倒すって、どこの化け物だよ。本当に人間?」


すると、久しぶりにあの声がしてきた。


くろがねはホムンクルスだ。だからこそ、人間にはできない芸当ができた』

「あ、博士。お久しぶりです」


「は?シエラがホムンクルス?そんなワケが…。ホムンクルスに感情は無いはず…」

『鐵は例外なんだ。私は、今回の戦争の被害を少しでも減らす、未来を救う為に君たちから考えて80年後の未来から送った』

「ま、マジか…」


あまりに衝撃的すぎてか、メノカは気絶してしまった。イリーベちゃんはノーコメントで顔色を少しも変えてはいなかったけど、興味あり気にこっちを見ていた。


『それで、鐵。何故、お前は自分でフェリシエラ・ヘルダーと名乗るようになった?』

「え?当時、名前を聞かれた時に真っ先に浮かんだ名がそれでした。この名前に何か?」


すると彼は嗚咽を漏らし始めた。


『…すまない、バグなどと嘘を吐いて』

「え?嘘?」

『フェリシエラ・ヘルダーは、かつての、亡き私の愛人の名前だ。ついでに教えておこう。お前の感情、姿、声は全て彼女のコピーだ』

『…コピー?それって、私にはその人がそのまま転写されているんですか!?』

『…そういうことになる。フェリシエラ・ヘルダーは、私の最初にして最後の、最愛の人だ。』

『つまりは私、鐵=フェリシエラ・ヘルダーさんなんですか?』

『…もう本物の彼女はこの世界にはいない。それなのに、お前とこうやって話していると、仕事の合間にお前と…、シエラと連絡を取っていた頃を思い出す、鐵』

『…自分の為の未来、博士の為の、シエラさんの為の未来を作る。私は博士にとって亡き妻に似た一人娘ですね』

『ああ、確かにそうかもな。ありがとう、鐵。私ももう少し頑張るとする。あと少ししたら直接会えるかもな』

『どういうことでえすか?』

『さぁ、その時までナイショだ』


私と博士は、実際の親子の他愛のない会話であるかのように、笑った。


続く

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