【リメイク版】第4話 黒幕の国へ

私と黒幕テウフェルの戦いは始まってどれくらい経つだろうか。互いに体中の傷が目立ち始めて、息も切れていた。


「貴様、本当に人間ではない。しかし、魔人特有の気配は感じられない。だからと言ってホムンクルスに感情は無いから違う…。本当に不思議だ」

「私だって不思議だよ。なんで、こんな世界中を巻き込むような大戦争の黒幕とこんな互角にり合えているのか…。きっと、神様の加護だったり」

「神などという言葉を簡単に口にするな!貴様からはあの忌々しい加護を感じないぞ」

「なら、私の素質だったりして」

「調子に乗るなァ、小娘ェェェ!!!」


急に出された魔力弾が額をかすって、血が出た。それに怯まず、私もダガーに魔力を込めてヤツの右腕を切り飛ばした。


「貴様、1人であれほどの大魔法を発動させておきながら何故未だに私の腕を切るほどの魔力が残っている!?」

「私は魔力を込めようとして込めてるわけじゃないんだ。ただ、この世界を壊したお前に対する感情が籠ってるだけだ!」

「感情任せに戦っても私に勝つことは無理だぞ!」

「いや、この戦争で犠牲になった人々の為にもお前に勝つことが私の使命。負けるなんて選択肢はないね!」

「貴様、少し前にエッセカマーの軍隊を皆殺しにしたのは貴様だ!」

「あれは尊い犠牲…、いや、お前さえいなければよかった。彼らは無駄な犠牲だった」

「そうか、そこまで死が待ち遠しいなら殺してやろう!」

「私は絶対に、お前ごときに負けはしない!」


私はえて、無防備な状態でヤツに突っ込んでいった。

ヤツは思った通り私の頬を力いっぱい殴り飛ばした。

重力魔法で自分に重力をかけて如何いかにも倒れたかのように装った。


「ほう、力尽きたか。さて、邪魔者もいなくなったわけだ。さっさと他の国を侵略してこの戦争の勝利を掴むとするか」


ヤツが背を向けて歩き出した時、私は重力魔法を解除してヤツに向かって残った力を全て捧げた一撃を加えた。


「馬鹿な!?貴様は息絶えたはず…!?」

「演技も見破れないなんて、本当に黒幕?黒幕ならもっと強いくらいがよかったかな!」

「覚えてろ…。私は必ず復活して、貴様を殺す…」


そう言い残して、テウフェルは消滅していった。それで今回、復活を遂げたのだろう。


拡声魔法で戦闘中の会話を全て結界の外へ漏らしていたおかげか、結界

を消して外に出るとたくさんの隊員たちが駆け寄ってきてくれた。


「よくあんな化け物相手に…。本当、お前はあの時と変わらないな」

「君はこの国を、いや、世界を守ったのかもしれない」


大佐と皇帝様にそんなことを言ってもらえて、私は、もっと人の為になりたいと思えた。これからも、この国、この世界の平和の為に戦っていこう、と。


「あのテウフェルという男の話から察するに、ゼッシュトゥルオン帝国は魔人を封印から解放して使役しているようだな。あの国を制圧するか崩壊させるかすれば、この戦争は終結できる。皆、聞け!わが軍はこのフェリシエラ・ヘルダーの手によって守られ、死傷者を一切出すことなく今回の戦を乗り越えることができた。よって、軍備も消費していないと見てこのままゼッシュトゥルオン帝国に攻め入る。我らが出向いた頃には他国による侵攻が既に始まっているはずだ。他国に協力し、この戦争の全ての元凶であるゼッシュトゥルオン帝国を滅ぼすのだ!」


こうして、エンヴェルクはそのままの勢いでゼッシュトゥルオンに攻め入った。テレポートで。使う必要無いのに。


テレポートが完了すると、既にゼッシュトゥルオン帝国は火の海だった。でも、それは侵攻にようるものじゃなくて、侵攻に対抗する為に召喚された災禍の魔獣によるものだった。

また、私が戦うしかない。きっと軍の大半は気圧けおされて既に戦意喪失してるだろうし。


「そこの魔獣、相手は私だよ!」


呼びかけると、その魔獣は図体に不釣り合いな速度でこっちまで走ってきた。私は建物の屋根と屋根を飛んで国の外までおびき寄せようとした。

しかし、向こうの方が速度が上だったみたいで先回りされてしまった。でも、そこがちょうど私の狙っていたところだった。

ファナ。ファナが教えてくれた希望の魔法を使う時が来たよ。死んでも私を救ってくれてありがとう。ファナがいなかったらきっと、私は、私たちは、世界は…。


『Dämonische Bestien, die der Welt Unheil bringen, ich hoffe, dass Sie sich jetzt unter meiner Macht niederwerfen, verschwinden und zu einem schwachen Insekt werden, das nie wieder jemanden töten kann!【Teufelsvernichtung】!!!』


夕闇に私の手の中で輝いたオレンジ色の魔力弾らしきものはとてつもない速さで魔獣に突進していって、その魔獣を包み込んだ。


[ごめんね、これくらいしか残せなかった]

「そんなことない。ファナは、私の、世界の恩人だよ」

[私が今でも傍にいられたらなぁ]

「私が、ファナの分まで生きてあげるから」


光に一瞬映って見えたファナの姿と、それに呼応するように囁かれた幻聴。私はこの先、この戦争で犠牲になった人たちの分まで生きていきたい。

そう思ったところで、意識が途絶えた。

多分、そこで死んだっていう噂が流れたんだろうな…。



「——で、今に至るってこと」


私が夢中になって話しているうちにすっかり昼になっていたし、イリーベちゃんはさっきの倍の量の食べ物を買っていた。

ユウナの方を見ると、何か怒っているように見えた。


「ユウナ、何か怒ってる」

「別に、怒ってなんかないけど」

「顔に書いてあるよ。もしかして、私がユウナと仲良くなる前にファナと仲良くなってたから拗ねてるのかな~?妬いてるのかな~?」

「さ、さすがにシエラをごまかすのは無理ですか…」

「大丈夫、私がキスにたのはユウナが初めてだから」

「…それなら、気にしません」


あれれ?もしかしてユウナの方も…


「シエラちゃん、そろそろ行くッスよ」


自分との出会い話が出なくてつまらなさそうにしていたレゼが言った。


「うん。少しでも早く今回も戦争を終わらせないとね」


続く 次回から旅路篇スタート!

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