【リメイク版】第2話 殲滅人形

大勢の敵兵を1人で殲滅してからおよそ半年の間、私は眠っていたらしい。

気づいた時には、私がファナたちに出会い、軍に入隊した日からおよそ1年以上の月日が流れていた。

私が目覚めたことは誰かが知らせてくれたらしく、起きて1時間もするとかつての中佐——大佐がお見舞いに来てくれたけど、その顔はとてもやつれていた。


「大佐、お久しぶりです」

「私はもう大佐でも、何でもねぇ。目覚めたばかりですまないが、その呼び方はもうやめてくれ」

「何かあったんですか」

「ミッテマルセはエンヴェルクに負けた。お前の居る状況に半年以上居たからか、お前が長い眠りに就いてからはどんどん勢力が衰退していった。そこを狙ったエンヴェルクが攻め入ってきて5日待たずして大敗を喫したわけだ。だからもうお前も中尉じゃぁないんだ」

「じゃあ、あなたと同じ立場ということなんですか?」

「いや、お前は違う。お前が1人であの大群を壊滅させた時、エンヴェルクの諜報部員がお前の戦闘の様子を記録していたんだが、お前が敵の殲滅中、死んだ目で泣きながら高笑いをしていたことから【殲滅人形】なんて言われていた。目覚め次第、元帥げんすいが会いたいとおおせだ」


その時、誰かが病室に入ってきた。


「その件については、私から直接説明させてもらおう」


そこには、深紅の髪を揺らす美少女がいた。


「私はエンヴェルク帝国の皇帝にして元帥、ティオール・トゥシルーブ・エンヴェルクだ。よろしく」

「私はフェリシエラ・ヘルダーです。それで、お会いしたいというのは…」

「驚かせてしまったか。私は、君が【殲滅人形】と呼ばれている件について少し話がしたいと思ってここに来た。いくつか質問してもいいかい?」

「はい、お構いなく」

「君、軍に入る前や戦争が始まる前はどういう生活をしていたんだい?」

「私、軍に入る直前までの記憶が無いんです、当時から。なので、それはわかりません」

「一応、君の功績は聞かさせてもらったけど、直前まで一般人だったとは思えない功績だ。何か、それらについて心当たりはないかい?」

「無いです。あるとしたら皆さんの指導のおかげであったり、仲間や環境に恵まれていたことですかね」

「そうか。君は最後の出兵の時、戦友を失った。その時、どう思った?」

「…分かりません。とても心が冷え、何も考えられなくなったことぐらいです」

「そうか、君はかつての記憶とともに感情の一部も忘れていたのか。それは、憎しみという感情だ。その感情が君の制御を振り切って君を【殲滅人形】に仕立てあげたのだろうな。戦場での身勝手な行動は危険極まりない。大佐だったとはいえ、仲間にも判断を迫るべきだっただろ?」

「私はもう、軍人として要らないのですか?」

「いや、君の功績が偉大なのは確かだ。これからは軍人としてでなく、アサシンとしてわが国に従事してもらおう」

「あ、ありがとうございます」

「では、まず1つ目の任務を与えよう。君の戦友を殺した軍の国、エッセカマーを潰してきてくれないか?」

「はい。皇帝のお望みとあらば」


こうして私はエンヴェルクの皇帝お墨付きのアサシンに任命されたが、徐々に感情が発達していた私には心の迷いが生まれ始めていた。

私はファナを殺されてめちゃくちゃ悲しかったし、悔しかった。でもそれは、私の殺した人を大事に思っていた人々も同じではないだろうか。私は、相手が敵兵だからとはいえ平気な顔をしてこれまで通り殺すことはできるだろうか。きっと私は躊躇ちゅうちょするだろう。でも、そんなことを考えたってこれまで私が殺してきて人たちが帰ってくるわけでもなければ、敵が互いに手加減しようなどと言ってくるわけもない。

その末、私は決めた。この戦争のうちだけはいくらでも手を汚そう。でも、この戦争が終わったら無駄な人殺しはしない。そう誓った。



2週間後、軍隊がエッセカマーに侵攻している間に私はアサシンとして国の王や大臣などの有力者を殺す任務を与えられた。

下調べの為に3日前に潜入したが、その国の雰囲気はとってもよかった。いや、好きだった。だからこそ、敵兵には犠牲になってもらっても国の有力者までは殺さない。

そう考えてしまった。


侵攻が始まって、私は警備が強化される前にエッセカマーの王城へ侵入した。

一番奥の宮殿に行くと、そこでは国の有力者たちが集まっていた。

私は迷わず屋根裏からそこへ飛び降りた。


「貴様、何者!?名乗れ!」


急に護衛に剣を向けられたけど、私に戦う意志は一切無かった。


「わ、私はエンヴェルクに遣わされたアサシンですが、あなたたちを救う為にここに来ました」

「どういうつもりだ?」

「私、この国が気に入ってしまったんです。なので、もしもこの国が一旦滅ぼされたとしても、いずれ戦争が終わって国家再建の余裕が出てきたらもう一度この風景を作り出してほしいんです!だから私を信じてください!私があなたたちを庇います」

「…ならよろしい。それで、どう我らを守るのだ?」

「こうすれば、大丈夫なはずです」


私はその王城に頑丈になる魔法をかけた


「どんな攻撃が来てもあなたたちはよっぽどのこと死なずに済みます。迂闊にお城の外に出ないでくださいね」


私はそう言い残すと、自分の真の戦場へ向かった。


続く

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