シエラの過去~キリング・デス・テレヴォース~篇

【リメイク版】第1話 目覚め

これは、私が目覚めた5年前の話。きっとその時に未来から送られてきたんだと思うけど…。


目の前には銃撃戦でもあったかのように荒廃した村が広がり、怪我人の応急措置をする人、泣き叫ぶ人、途方に暮れる人…。様々な人々がいたが、何があったのかを私は知らない。


「そこの君!大丈夫?」


声のした方を向くと、武装した少女がサイドテールにした銀髪を揺らしながらこちらに駆けてきた。


「え!?あんなに激しい銃撃戦だったのに無傷!?よかった…。民間の人で怪我してない人あんまりいなかったから嬉しいよ」

「キミ…ハ…?」


まだ、言葉はぎこちなくしか喋れなかったんだ、あの頃は。


「あっ、無理して喋らなくてもいいからね。とりあえず、私の部屋に来ない?」


そう言って彼女は、軍から与えられている自分のスペースへと私を連れ帰った。


「私はファナ・プランスム。ファナって呼んで。それで、君は?」


私は、特に考えもせず脳裏に刻まれた誰かの名前を言ったことを覚えている。


「シエラ…。フェリシエラ・ヘルダー」

「へぇ、シエラっていうんだ。君、装備してるけど私たちの軍じゃないね。でもな…こんな軍服は見たことないいし…」


「どうした、ファナ」

「あ、お疲れ様です中佐。実は、無傷の民間人?を見つけたので連れ帰ったところで…」

「見覚えの無い軍服だな。新興勢力か?」

「私もそうは思ったんですけど、武器を何一つ持ってない時点で軍人の可能性はないかと…」

「なら、コイツを少し力試ししてやろうか。もしも強ければ軍に投入してみる」

「ですが、民間人に今の勢力不足が解消できるとは…」


その時は何を言っているのかは理解できなかった。それは、プログラムだったのか、当時の私の意志だったのか。


「私…、自分が何か分かんない…。でも、誰かが困ってるなら…、戦う」

「え!?さすがにそれで初戦で命散らしてきたら私たちの面目が…」

「戦場で自分の面目なんか気にしてたら死んじまうよ。戦う意志があるヤツには戦わせておけばいい」


こうして私は今は滅んだ国、ミッテマルセ共和国の軍に入った。

最初の出兵、私は大金星を上げて帰ってきた。


「お前、タダモンじゃねぇな。そうだ、話がある。ちょっと来い」


そう言って中佐が私を連れ込んだのは、中佐の部屋…ではなく、その地下室。


「この部屋を見て、私の正体が分かるか?」


まだ全てに疎かった私には分からなかった。


「私は、アサシンだ。この戦争が始まる前はアサシン教団の団長なんかもやってたさ。けど、今は教団も解散しちまったけどな。それで、お前に話がある、アサシンをやってみないか?」

「はい。中佐のご命令とあれば」

「おいおい、こっちは命令してるわけじゃない。お前の意志をいているんだ。さぁ、どうする?」

「はい、やります」


こうして次の出兵時、私はあっさりととある敵国の大将、元帥を殺してきた。当時の自分が何をしたかはよく覚えていない。



軍隊へ入隊してからおよそ3か月が経った頃。


「シエラ、お前は今日から中尉だ。昇格おめでとう」

「いえ、中佐も大佐になったよううで。こちらこそおめでとうございます」


この頃には少し人格が芽生えていたのかもしれない。ただ、今の性格になったのはレゼ子と会ってからになる。だからこの頃はまだ敬語だった。


「シエラ、昇格おめでとう。あっという間に私よりも階級が高くなってるじゃないか」

「いえ、これも全て私を見つけてくれたファナと、私を鍛え上げてくれた大佐のおかげですよ」

「何言ってるの。シエラは射撃の腕もあったから暗殺なんかやらなくても准尉くらいにはなれたはずだよ」


私は、仲間に恵まれ、環境に恵まれた。当時の私は仲間に陰で妬まれることこそなかったが、先輩であるファナたちよりも先に昇格、しかもそれがどんなに大きな手柄としても本来なら誰もやらせてもらえないような任務をこなしての上だったからこそ罪悪感はした。



更に半年後、大佐となった私にとても重い決断が迫られていた。思い返すと、この頃に既に今の性格の核ができてたのかもしれない。

上からの指示で、ファナが中尉になっていた中隊をとある戦地に派遣するというものだったけど、その作戦ではファナたちはおとり・・・に使われることになっていた。その中隊が銃撃戦の強豪である敵国エッセカマーと正面衝突、敵を引き付けてるうちに別の大隊が敵を背後から撃破する、という犠牲無しでは達成できない作戦だった。

そこで、私は自分の方の任務を自分だけ途中で引き返し、おとりが全滅していなければ助け、敵を一網打尽にしようと考えた。


「ファナ、私がきっと、必ず助けに行くからそれまでは頑張って生きててね」

「うん。約束だよ」


そう言って指切りまでした。実質、まともに会話したと考えればファナとの会話はこれが最後だった。



ファナの方の作戦が予定開始時刻より7分も早く始まったことを知らされ、私は改めて私の部隊を少人数かつ信頼している強い直轄ちょっかつの部隊メンバーのみの編成にしたことは正解だったと思った。


「みんな、私は今日のおとり作戦の救援に行ってくる。みんななら、今回の任務は大丈夫だね?」


みんなは口々に、「任せてください!」「自分たちはいいので、大佐は急いでください」などを言ってくれた。


私は魔力消費が大きくてあまり使いたくないけどやむを得ずテレポートを使った。



そこは、既にかなり激しい銃撃戦を繰り広げた形跡があった。戦場を駆けながらファナを探すと、他に味方兵は見当たらず1人で大勢の敵と応戦していた。

ファナは私が来たことに気づくと、まるでもう救われたとでも言うかのように笑顔を輝かせた。私は、その笑顔がユウナの笑顔と同じくらい大好きだった。


「シエラ!やっと来て――」

「ファナ、後ろ!!!」


叫んだ時は、もう遅かった。彼女は敵兵の投げた手榴弾しゅりゅうだんに気づかず、爆砕された…。

私は、呆然とそこにのこったファナの愛機のマシンガンとガラスの割れた防弾ゴーグルを眺めるしかなかった。

私は、その時初めて恐怖とも悲しみとも付かない恐ろしい感情に襲われた。

これが、憎しみ――。


その時の記憶は、ただ自分の両腕から乱射される破壊的かつ大きい魔力弾が戦場を舞い、敵を1人で殲滅せんめつした記憶しか無い。

それから私は、半年ほどの長い眠りについたらしい。


続く

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