第26話 人工知能
ぴぴぴっと鳴り響く電子音。
異常を示す波打つグラフ。
「
「ああ。分かっている。このデスゲームは人の感情を理解するにはもってこいってわけだ」
「機械学習できていますね」
「
「しかし、相羽龍彦と相羽伊里奈。この両名はすぐにこちらのゲームに順応していましたね。あと数回、すれば彼ら並の思考回路を持ったAIが生まれるのではないでしょうか?」
おれの弟妹に、か?
笑えない冗談だ。
身内を売る気はない。
だが――。
「そうだな。でももっと違うデータが欲しい。次のゲーマーは絞りこんでいるんだろうな?」
おれは次のデータを取るべく
「そうですね。
「ああ。ありがとう」
おれはすぐにデータを見やる。
なるほど。総勢10名の参加者か。
これでAIの技術も更新できる。
脳神経外科の医者にも転用できるし、このプロジェクトがうまく行けば、この世界の根幹をも揺るがす。
世界は変わる。
AI技術により、世界はさらに便利に、素晴らしくなる。
昔は治せなかった病気も。戦争すらも乗り越えてきたのが人間だ。
そしてその先におれの願った世界がある。
人の未来はAIによって正されるのだ。
そのためにもデータを集めなくては。
人の悪感情や知性を身につけていく機械学習。
以前は急に暴言を吐くようなAIだったが、感情を数値化し、整理整頓するように改良した。
それにより飛躍的にAIの技術は進歩したと言えるだろう。
おれたちはこの世界を塗り替える。
働かなくてもいい人が増えればいい。
真の人間の理想はニートだ。
洗濯機も冷蔵庫も、エアコンでさえ、人が暮らしていくのに必要となった。
なら次は仕事を代用できる機械システムが必要だ。
今や料理も運送も、全てオートでこなせる。
車でさえもオートパイロットになった時代で、今度は人の仕事の変わりをしてもらう。
そして人類は趣味や遊びに興じる。
それが真の理想郷だ。
すべてはここから始まる。
AIの時代が来るのだ。
おれは家族を捨ててでも、この道を選んだ。
母も父も、救われるにはこの道しかないと思った。
思いを継ぐ者がなければ何も変わらない。何も始めることなんてできない。
全ての人を幸せにするには犠牲はつきものだ。
だが――。
「やはり相羽龍彦と相羽伊里奈の知能が欲しいですね。相羽先輩?」
「なんだ。そんなことにこだわっているのか」
「だって、あの天才的な頭脳は欲しがりますよ。反応速度、順応性、それに思考パターン。どれをとってもAIに素晴らしいノウハウをもたらします」
有紗は嬉しそうに呟く。
「研究熱心なのはいいが、二回目となると奴らも抵抗が激しくなるぞ?」
「確かに。こっちの研究員一人が変わりに死んじゃってますからね」
犠牲は大きい。彼らはおれの手中で収まるような柄じゃない。
扱いきれないというのが率直な感想だろう。
「さ。バカなことを言っていないで、さっさと研究を始めるぞ」
おれはマイクに向かってしゃべり出す。
デスゲームの参加者はみんな困惑しているようだった。
これが政府公認の独立研究棟ということを知らないのだろう。
まあ、裏社会に詳しい奴なんてそうそういないが。
まあいい。
これでさらにAI世界が目に見えてくる。
そのうちAI同士で口論させてさらなる飛躍を期待している。
「コマンドプロンプト。シークエンス。キャリブレーション開始」
おれはAIに機械学習を始めさせると、コンピュータがウィィンとファンを駆動させる。
いける。
◇◆◇
兄さんは今頃、どこで何をしているんだろうな。
あのデスゲームから一ヶ月。
6月半ば。
俺様と伊里奈は高校に復帰するために少しずつ回復していった。
九条との会話や家事などで心に余裕ができた。
だから俺様は伊里奈と一緒に学校に通えている。
俺様は高校二年。伊里奈は中学三年。
ずいぶんと遠いところにきたような感覚に、俺様はわずかばかりか、震える。
不安と恐怖が混じったこの気持ち。
ずっと親のいない生活だった。
そのせいでいじめられることもしばしばあった。
だからこの手の話にはだいぶ慎重になった。
俺様はまだいい。でも伊里奈は極度の人見知りだ。
やっていけるのか、心配だ。
それに俺様の学校には九条もいる。
俺様は安心できるけど……。
ため息の一つもでるってもんだ。
「どうしたの? 緊張している?」
「それもあるな」
九条が隣で笑みを浮かべる。
「まあ、龍彦くんの頭なら勉強なんてよゆーかもね」
「それはあるな」
「自信満々だぁ!?」
九条は驚いたようにこちらを見やる。
「ま、俺様も人に好かれる必要はねーからな」
気楽に行くぜ。
「そんなことを言う。友達いた方がいいよ?」
「は。なんで? 伊里奈がいれば十分だろ?」
俺様はわりとマジでそう思っている。
友達なんてめんどくさいのは必要ない。
そう思っている。
「ん。でも、あたしは友達じゃないってこと? え。じゃあ、……こ……こい」
「あー。友達かー」
俺様は納得するように呟く。
「確かに貧乳女は友達だな」
この一ヶ月間、身体の不調がなくなった。
そしてゲームに没頭できた。
それは九条が家事をしてくれたり、ゲームをしてくれたりしたからだ。
それに関しては感謝している。
そしてそれは友達と呼ぶにふさわしいだろう。
「ともだち……?」
ゲシュタルト崩壊をしているかのように目をぐるぐるとさせる九条。
「あたし、ともだち?」
「ああ。そうだろ?」
「そ、っか……」
なんだ。この微妙な雰囲気は。
「ん。わたし、中学校だから」
そう言って離れていく伊里奈。
待ってくれ。この状況はどうしたらいい?
俺様は言うのが遅く、伊里奈が去っていく。
「ええ……」
どこで選択肢を間違えたのだろう。
「いいんです。あたし、トモダチ」
何回繰り返すんだよ。その言葉。
いや分かっているけど。
でもその言葉を口にした瞬間、負けを認めているようでいやなんだよ。
ゲームでもリアルでも負けたくないんだ。
なんでも真剣になるが故、同級生から「もっと気楽にやろう」と言われるタイプだ。
ああ。そう考えると、これからの学生生活が怖い。
不安でいっぱいだ。
もう負けてしまいそうになるが、そんなのは認められない。
俺様は常に強者でなくてはならない。
それは伊里奈を守るためにも必要なことだ。
誰よりも真剣に戦ってきたが、それを悪く言うやつも多い。
だが、俺様はあのデスゲームで鋼の心を手にした。
自信がついた。
それもこれも九条のお陰でもある。
まあ、未だにギロチンの夢は見るが。
俺様たちは約二か月もの間、とらわれていたのだ。
その後、心療内科に通いケアを受けている身だ。
とくに夜が眠れなくなった。
やはり怖いのだ。
あのときの経験は自信もついたが、やはり恐怖の方が大きかった。
かくれんぼに始まり、様々な人間関係を築いていった。
強制的に投げ出されたせいで、俺様は未だに鬱に近い感情が支配するときがある。
だいぶ収まってきたが、身体は震える。
恐怖が身に染みしているのだ。
しかし、あのデスゲームの目的はなんだったのだろう。
それが気がかりでもある。
俺様や伊里奈のような思いをする人がいなければいいのだが。
「ほら。学校ついたよ」
チラリと表札を見る。
《芸能・電子遊戯AI東区高等学校》
電子遊戯。
ゲームのことか。
なるほどな。俺様にはおあつらえ向きというわけだ。
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