第25話 彼女

 相羽兄妹がいなくなったあとの《デス・かくれんぼ》

 敗者復活戦で復帰した眼鏡を交ぜて、妖怪女、博士、ゴリラの四人が集まっていた。

 スキルを駆使し、LPをため込み、最下層の一階へ向かう準備は整った。

「じゃあ。みんな行くわよ!」

 川西かわにしが仕切るようにその場ではみんなこくりと頷く。

 LPを消費してスキル《昇降機》を発動。10階下にある1階を目指す。

 下っていくと、広いフロアが視界に入ってくる。

 廃校や廃墟。それに人工芝生もある。

 相羽兄妹のマネをしてみたら、意外にもあっさりと《デス・かくれんぼ》はクリアできた。

 とはいえ川西たちはスキル《ソナー》やスキル《探知》を使ってやっとのことで集めたLPだ。

 そうそう簡単にクリアできるものではない。

 そしてようやくついた一階。

 運営のアナウンスが鳴り響き、《デス・鬼ごっこ》が開始される。

 トランプを駆使したLPの削り合い。

 そのゲームにクリア条件などあるのか? と戸惑ったが、相羽兄妹はでクリアしたらしい。

 その情報を聞きつけ、わたくしたちは自分なりにスキルの解析を始めていた。

 条件によってはこの階層もクリアできると知り、乱舞する。

 それでもまだ、終わりじゃない。

 やるべきことがある。

 ニーナと九条はどうしたのだろう?

 彼女らも一緒にクリアできるといいのだけど。

 LPを消費すればクリアできるこの階層で、互いにLPを削り合うのは得策ではない。

 これは運営の落ち度だ。

 このゲームを作ったやつは馬鹿だったに違いない。

 そして今は固有ユニークスキルを見つけてみんなで確かめあっている。

 固有スキルの重ねがけで全員がクリアすることも可能と分かった。

 いける。

 誰もがそう思った瞬間、運営のテコ入れが入った。

 ルールの見直しだ。

 時間制限がついた。

 だが、それでも♡のトランプによるLPの回復が見込める。

 時間を稼ぎつつ、LPをためていく。

 みんなで抜け出すんだ。

 その気持ちを胸に川西たちはクリアを目指す。

 時間が経つと通常エリアが狭まり、LP消費エリアが拡大していく。

 その間にエリア内にいるプレイヤーをおにが追いかけるシステムだ。

 それにより、眼鏡のLPが残り20になった。

 だが、彼が残してくれたスキルリストが役立ち、スキル《背水の陣》を使いピンチをチャンスに変えた。

 スキルの使い方を覚えた川西はこのゲームの終わりが見えてきていた。

 そのためには眼鏡を失うわけにはいかない。

 眼鏡の固有スキル《見通す者》は、LPを消費してクリア条件を見通せるものだ。

 川西たちは見事、その条件を見いだし、クリアした。


 ◇◆◇


 俺様はデスゲームをクリアした。

 その報酬が『なんでも一つ願いが叶うもの』だった。

「ねぇ?」

 俺様は何を血迷ったのか、報酬を手にした。

「ねぇ、ってば!」

「なんだ。貧乳女」

「もう。九条だってば」

 俺様は足を止めることなく河川敷を歩いている。

 もちろん隣には伊里奈もいる。

「学校、こっちじゃないでしょ?」

 貧乳女が不機嫌そうな顔で言う。

「いいんだよ。俺様たちには家があんだから」

 俺様と伊里奈は自宅のアパートへ戻ろうとしている。

 だが、何故か貧乳女がついてくるのだ。

「それより、てめーも自宅に帰るべきなんじゃないか?」

「あー。そうかもね。でも一度ちゃんと龍彦くんのって認めてもらわなくちゃいけないでしょ?」

「は? くそあま、何言ってやがるんだ?」

「お兄様、違うのですか?」

 伊里奈が地味に刺してくるじゃないか。

「だって、あたしの命まで救ってくれたし。ゲームでの立ち回りも格好良かったし? 彼氏にするなら、この人しかいないって思っちゃったわけ」

「聞いていない」

「ん。聞いていないです」

「辛辣!!」

 貧乳女はツインテールを揺らし、抗議する。

「は。バカには何を言っても無駄だな」

「そう、です」

「ちょっと! あたしをバカ呼ばわりしているのはおかしいでしょ!?」

 いや言動があれなだけでバカじゃないのか?

 いやそれを人はバカと呼ぶのか。

 俺様はため息を吐き、足を止める。

「だって、あなたってばクリア報酬で『九条理彩がほしい』と答えたのでしょ?」

「……言葉の綾だ」

 苦い思い出を蘇らせてくれる。

「いいじゃない。情熱的で素敵よ」

 ふふーんと満足げにどや顔をする貧乳女。

 うぜぇ。

「はいはい。で、何ようだ? てめーはもう自由だ」

「だから、彼女として何をすればいいわけ?」

「は?」

 俺様は聞き逃したのか、つい言葉が荒くなってしまう。

「いや、あたしも付き合うのって初めてなのよ。だからしてほしいこととか、ないわけ?」

「いや何もねーよ」

 そしてアパートの鍵を開ける。

 きぃっと音を立てて開く玄関。

 そこから溢れてくる大量のカップ麺の容器。

「ん。まずは掃除を、させるのが、いいです」

 伊里奈がそう呟くと、貧乳女のツインテールが逆立つ。

「まっかせなさいっ!!」

 嬉しそうに掃除を始める貧乳女。

「いや、まあ。これでいいのか……?」

 俺様は戸惑いながらいつものポジションでパソコンを立ち上げる。

「ああ! それってプロコンのSPSSでしょ! さすが、最新PCを持っているだけあるわね!」

 そう言えば、こいつもゲーマーだったな。

 アホっぽくてすっかり忘れていたぜ。

「ちなみにグラボはHi-νを使っているぞ」

「わぁあ! すごい! ヌルヌル動くじゃん!」

 羨望の眼差しを向けてくる貧乳女。

 まずはメールの確認、と。

 貯まっていたメールを処理するだけで二時間はかかった。

 そしていつの間にか居着いた貧乳女が料理を作ってくれている。

 匂いから察するにカレーだ。

 久々に味けある料理になりそうだ。

「お兄様。やっぱり九条さんはここにいてもらいましょう?」

「あー。家事を押しつけられるな」

「ちょっと。聞こえているんだけど?」

 貧乳女が口を真一文字に結ぶ。

 ご機嫌を損ねたらしい。

 まあ、いいだろ。

「できたわ!」

 俺様と伊里奈が綺麗になった食卓につくと、料理が運ばれてきた。

「え。カレーの匂いがしたのにっ!?」

 伊里奈が目を瞬く。

 俺様も目の前にあるものが信じられない。

「じゃーん! ハンバーグでした!?」

 ハンバーグにサラダ、味噌汁、漬物、白米。

 見た感じ、どれにもカレーらしきものはない。

 カレー粉が混入しているとか?

 恐る恐るハンバーグを口に頬張る。

「う……!」

「う?」

 俺様の反応に貧乳女が、伊里奈が目を向ける。

「うまい。バカな……」

「良かった」

 一安心する貧乳女。

「カレーはどこに使った?」

 味噌汁やサラダ、漬物にいたるまでまるでカレー粉を感じさせない。

 だが、あの匂いは絶対にカレーだった。

「カレー粉? 使っていないわよ?」

 さも当たり前のように言う貧乳女。

「いや、けどな?」

「わたしも、カレーの匂い、したです」

「えー。使っていないのに?」

 甘えたような声音に少しイラッとくる俺様。

「おめー、気色悪いな」

「な、何よ! 彼女だからいいでしょ?」

「なった覚えはねーって」

「嘘つき! あたしのこと、好きなんでしょ?」

「てめーが庇ってくれたことに感謝して助けただけだ。好きとは言っていねー!」

「情熱的にあたしを救ってくれたのに?」

 うぜぇ。

「もういい。黙っていろ!」

「彼女でしょ!?」

 俺様と伊里奈が食事を終えるとすぐにゲームを再開する。

 今までたくさんのゲームをしていたが、このゲームは最高だ。

 素晴らしい。

 あのデスゲームとかいうクソゲーとは全然違う。

 鼻歌交じりで俺様と伊里奈はゲームを続ける。

 貧乳女が後ろから口だしをしてくるのは厄介だった。

 まあ、こいつも名を馳せるゲーマーだしな。的確だしな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る