第13話 落ちた天使

 俺様と貧乳女が親となり、隠れている小部屋を尋ねる準備ができた。

 みんなそれぞれの部屋に入ったらしい。

「スキル《探知》!」

 貧乳女が唱えるとARの機能を活かし、ソナーのような波紋が広がっていく。

 ぶつかり、跳ね返ってくる波紋を拾い、位置を特定する。

 それだけのスキルだが、LPは300とかなり割高になっている。ちなみに失敗する場合もあるので、貧乳女はかなり運が良かったのだろう。

「こっちに大西おおにしちゃんがいるよ!」

「わりぃ。俺様は無駄肉乳女を排除する」

「分かるの?」

「ああ。方法は秘密だがな」

 あの無駄肉乳女の勘と理解力がすごいだけで、貧乳女のような一般人では理解できないらしい。

 ホッとした気持ちもあり、身を引き締める思いだ。

 俺様は青の部屋を選び、伊里奈と一緒にいる無駄肉乳女を見つける。

「みーつけた」

「ひっ……!」

 無駄肉乳女は怯えたような顔をしている。

 まあいい。

 スキル《ギャンブル》で今のレートは三倍。消費LPが20から60に上がっている。

 これでLP80の無駄肉乳女はリタイア一歩手前だ。

「く。妹さん、気にかけないのね」

「ああ。

「妹さんのこと、ずいぶんと高く買っているのね」

 無駄肉乳女がバツの悪い笑みを浮かべている。

「は! 兄が妹の助けにならなくてどうする?」

「……そうね。そうかもね。兄妹って普通はそうよね」

 無駄肉乳女は暗い顔を見せる。

 俺様が勝つのが嫌なのか。それともに反応していたのかは分からねーが、今度こそ落とす。

「てめーが落ち込んでも、俺様はやめねーよ」

 曖昧な笑みを返す無駄肉乳女。

「ここだっ!」

 貧乳女は博士のいる白の部屋を選ぶ。

「なぜバレたし……!」

 博士は驚いた顔を見せる。

 貧乳女のレートは通常通りなので20の消費ですむ。

 LP40の博士はギリギリ生き残れる。

 ホッとした様子の貧乳女に博士。

 貧乳女が二つ目のドアを開けると、そこには誰もいなかった。

 わざと外したのだろう。

 だが、俺様は容赦しねーよ。

 黒の部屋を開ける。

 そこには妖怪女がいた。

「ふーん。無害な私も標的なんだ?」

 妖怪女はニタリと笑みを浮かべる。

「わりぃな。LPが必要なんだよ」

 そう言って自分のLPを確認する。

 二人当てたので200ポイントの加算があった。

 これで俺様のラッキーポイントは1100となる。

 これで勝負がつく!

 このゲームが終われる!

 俺様が伊里奈にサムズアップを送り、はしゃいで いると、妖怪女が目を鋭く光らせる。

「スキル《革命》! スキル《アタック》!」

「え?」

 スキル《革命》。LPの量を変える。具体的には順位が一番上の者と下の者をそっくりそのまま交換する。二位以降にも適用される。

 その効果で俺様のLPはたったの20になり、かわりに博士がLP1100となる。

「アタックの攻撃対象を《相羽龍彦》に」

 スキル《アタック》。対象一人のLPを20させる。消費スキルであり、一度しか使えない。その上、取得LPは60も必要である。

 妖怪女のせいで、俺様のLPは徐々に減っていく。

 そしてついにはゼロになる。

「――っ!!」

 運営の筋骨隆々なスタッフが俺様の両脇を固めて、持ち上げる。

 俺様もけっこう鍛え上げた身体だというのに軽々と持ち上げる。

 そしてそのまま、15階のフロアへ連れていかれる。

「スキル《敗者復活戦》。スキル《救済措置》発動」

 そうつぶやくとスタッフも理解しているのか、15階にある小さな部屋へ案内される。

 そこには椅子や机、ベッドなどの一揃いの小部屋があり、20階の部屋を小さくした感じの部屋がある。

「くそ。たく……」

 時計を見ると午後のゲームが終了したところ。

 俺様はパンフレットを見る。

 食事の時間になったらコンビニ弁当が支給されるらしい。

 ちらりとフロアに出てみると、

「よぉう。龍彦じゃねーか」

 そこには仇敵きゅうてきを心待ちにしていた半家がいた。


◆◇◆


 わたしはどうしたらいいのだろう? 一人で先に脱出する?

 ううん。わたしは頑張らなくちゃ。

 お兄様の目指した誰も死者のでない作戦を実行できるのはわたしだけなのです。

 頑張らなくちゃ。

 でも、お兄様がにいったってことは、もう終わりなのですか?

 犠牲者は出てしまうのです?

 答えてよ、お兄様!

 ゲームが終了し、自分の部屋に戻るが、心が不安定で落ち着かないです。

 大事な兄を失ったのです。

 これが安心できないです。

 今にも泣き出しそうになる気持ちを引き締めて、改めてスキルの見直しとお兄様の残した言葉を反芻はんすうする。

 わたし、頑張ります。

 夕食になり、わたしは一人でブッフェに向かう。

 回りからは異端の目で見られているのは知っている。

 わたしにはその耐性がない。すぐに、五分くらいで人に酔ってしまうくらいには弱いです。

 だから人の視線をさけつつ、わたしはスイーツを選ぶのです。

「伊里奈ちゃん、大丈夫?」

 九条さんが気安く話しかけてきたのです。

「なに……?」

 警戒心たっぷりで九条さんを見やると、ニヘラと笑みを浮かべる。

「やっぱり! 伊里奈ちゃんかわい~いぃ♪」

「え?」

「うん。いい子いい子。お兄さんがいなくても、あたしたち一緒にゴールしましょう?」

「いや、えっと……」

 拒絶の視線を向けるが、気がついていないようです。

 やっぱりアホの子。

「伊里奈ちゃんはスイーツが好きなんだね!」

「え、う、うん……」

「じゃあ、コカトリスの限定パフェ食べたことある?」

 なんなんだろう。この子。

 わたし嫌いなのに。

 お兄様に近づく悪い虫なのに。

 なんでこんなにも積極的なのですか。

「そこ行ってみたかった、のです……」

「むむむ。伊里奈ちゃんは行ってなかったか……。味どころの抹茶チョコは?」

「ん。あれは、美味しかった、です……」

「おっ! お取り寄せ系はいけるのね!」

 九条さんが嬉しそうにツインテールを跳ね上げる。

 その後も九条さんとスイーツの話しで盛り上がった。

「ふん。九条さん。その子とそんなにお話をして無事ですむと思っているの?」

 ニーナさんが怖い顔でこちらを見やる。

「何言っているのかな? ニーナちゃんは龍彦くんを嫌っていたのでしょう? なら伊里奈ちゃんには関係なくない?」

 九条が腕組みをして挑発的な笑みを浮かべる。

「そ、それは……」

「わたしのことも、攻撃する、のですか……?」

 わたしはわざとらしく上目遣いで尋ねる。

「そ、それは……」

 ニーナさんは困ったようにうろたえる。

「もういいだろ。お前の望みは叶ったんだ」

 五里ごりさんがそう言ってニーナを引き離そうとする。

「失礼した。九条と伊里奈さんの言う通りだ」

 五里はそう言い、離れていく。

「ごめんね。伊里奈ちゃん」

 ふるふると首を横に振ると、ギュッと抱きしめてくる九条さん。

 金色の髪がはらりと揺れる。

 柔らかく暖かな気持ちになる。

 良い匂いがする。柑橘系の、爽やかな香り。

 わたしは。

 わたしはなんで敵対していたのだろう。

 お兄様はなんで敵対するような言い方をしていたのだろう。

 たぶん、が今でも心に残っているのだろう。

 もう、お兄様のせいではないというのに。

 でも人の心は理屈ではない。

 だから暖かくも、冷たくもなれる。

 人の本質を見極める。

 その目があれば、お兄様もきっと。

 九条さんは悪い人じゃない。

 それはお兄様が一番良く知っているはず。

 だから戻ってきて。

 お兄様。

 じゃないと、わたし――


 壊れちゃう。

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