第14話 カジノ

「お前、落ちたんだな? 龍彦たつひこ

 半家がにんまりと笑みを浮かべる。

《さあ! ここは敗者復活戦のゲームコーナー!! ここではカジノをやって多くのLPを稼いだものが有利になる場です!》

「眼鏡もいるんだろ?」

 俺様は周囲に目を配らせる。

「いますよ。あなたの使ったスキル《崖っぷち》と《代打》のお陰で」

 スキル《崖っぷち》。

 一度でも致命的なダメージを受けたとき、LP1で耐え忍ぶ。ただし、自分自身には使えない。

 スキル《代打》。

 ゲーム中の一人と対象一人を交換する。

「まさか《代打》の影響力が運営スタッフにまで影響するとは……。お陰で助かりましたよ。龍彦君」

 眼鏡をくいっと持ち上げて感謝を示すようにお辞儀する。

「しかし、なぜ?」

 眼鏡の奥の目が光る。

「あー。最初に約束したからな。みんな生き残る、と」

「それでなぜ、僕たちを信じる気になりましたね」

「は。お前らが死んだら、寝覚めが悪くなるじゃねーか。それに伊里奈が悲しむ……」

「……そうかい。おれの気持ちが鈍る。すぐにゲームといこうじゃねーか」

 半家がぎろりと睨むような視線を向けてくる。

《ここではブラックジャックをやってもらいます》

【最初に二枚のトランプを引く】

【トランプの合計が21になるように引く】

【絵柄もの(JジャックQクイーンKキング)は10でカウントする】

Aエースは任意で1か、10でカウントする】

【最大三枚まで山札から引くことができる】

【22以上になった場合は、バーストと呼び、敗者となる】

【このゲームでは山札を配る人をとし、手札を持つ者をとする】

 マズいな。

 このゲームではベッドした子が有利になるバトル。

 俺様のスキル《王者の化身》がある限り、自動的にとなってしまう。

 親ではほとんど稼げないというのに。

 がLPを稼ぐにはのバーストを望むしかない。

 それが可能なのか?

《このゲームでは、三試合して、その合計ベッド数で競います!》

 俺様は受け取ったカードを切り、眼鏡と半家に配る。

「ち。面白くねー手札だ」

 半家が吐き捨てるように言う。

「ふふ。僕の勝ちですね」

 そうして一枚追加する半家。

「ち。マジかよ……」

 LP200をベッドする眼鏡。

 半家は10をベッドする。

 10は最低金額であり、半家はやる気がなさそうにすら感じる。

「僕は20です」

「おれはバーストだ」

 眼鏡が絵札を二つ。そして半家は23とバースト。

 ベッドしたLPから差し引いてゲットする眼鏡。

 俺様の余剰分は俺様のLPから引き抜かれているらしい。

 俺様のLPはマイナス190。

《このゲームで勝てなければ、相羽あいば龍彦たつひこ選手の死亡が確定します! さあ、盛り上がって参りました!!》

 運営が面白おかしく伝えてくる。

 人の死をなんとも思わないのだろう。

 だから、そんな言葉が出てくる。

 二試合目。

 俺様はカードの端を触り、確かめる。

 なるほどな。

 スキルを買うLPもなければ、親から抜け出せない。

 俺様が

「は。おれの勝ちだな!」

「いいえ。僕も負けていませんよ!」

 二人とも500LPをベッドする。

「二人ともよろしいのですね?」

 俺様が尋ねると、二人は熟考する。

 絵札二枚。つまり合計20だ。Aが来るのを望んでもう一枚を引くという手もある。

 だが――。

「いいぜ」「僕もです」

 そう言って手札を見ると二人とも20。

 そして――。

《おおっと! これは意外な展開です! 引き分けの場合は親にベッドしたLPがいきます!》

 と、を持った運営スタッフだ。

 なら親にも勝ち目がある。

 合計で1000LPをゲットした俺様だ。

 マイナス190のLPから計算し、810LPが手元に残る。

 よし。これで買える!

 LP500でスキル《任意決定 壱》を購入。

 これは他のスキルを任意で発動できるようになる。ただし一つのスキルのみに発動する。一度決めた後は変更できない。

 スキル《王者の化身》もその対象外ではない。

 だが一度、そのスキルに決めると他には適応できない。

 なんともまあ、非効率なスキルだ。500もするというのに。

「まあ、いい。これで俺様の勝ちだ」

「お前、どうやって親から子に!?」

 半家が驚いたように声を荒げる。

「スキルでしょう。変わったものをお持ちだ」

 眼鏡もその賢さを見せる。

 カードについた傷跡と塗装のすり減り具合から持っているカードを予測できる。

 運営スタッフが親になり、俺様は子になる。

 受け取ったカードで21を構成する。

 これで俺様の勝ちだ。

 ベッドするLPは200。

 眼鏡と半家は少なめに賭ける。

 そして手札を見せ合うと眼鏡は19、半家は18だった。

 この勝負、俺様の勝ちだ。

 しかし、これが敗者復活戦である以上、誰かを消し落とさなければならない。

 これまで誰も〝死〟を迎えなかった。

 だが、ここは最終防衛ラインだ。

 ここで落ちれば、として〝死〟を迎えるだろう。

 これは俺様の望むところではない。

 ……は。これじゃ、あの貧乳女の言う通りじゃねーか。

 俺様は伊里奈を守る。そのためなら他の者の〝死〟なんてどうでもいい。

 そうだろ?

 俺様の家族は伊里奈一人なのだから……。

 掛け金である400LPをゲットすると、俺様のLPは1100をゲットする。

 しかし、ここは15だ。まだ勝てない。

 スキル《復活》をゲットするにはLP1500の消費が必要だ。そうすればまた伊里奈のもとに行ける。

 だが、ここで1500を稼ぐというのもかなりキツい。

 大富豪やポーカー、スピードをやりだいぶ稼げてきた。

 だが、このままでは眼鏡と半家が死んでしまう。

 何か手はないのか?

 休憩時間になり、15階にある別室へ移動するとベッドに倒れ込む。

 スキルを検索しながら、眼鏡と半家を救う方法を考える。

 それに伊里奈のことも気がかりだ。

 ここに連れられてきたとき、スマホなどの通信装置は全て没収された。

 今頃どうしているのかな、伊里奈は。


 ◇◆◇


「スキル《数値操作》」

 わたしがそう呟くと、スキルが発動し、消費LPを誤魔化すことができる。

 早く来て、お兄様。

 わたしはなんとか耐え忍んでいた。

 残りLPが800にまで減少していた。

 このゲームが終われば、みんな解放される。

 わたしがクリアしていれば良かったのかもしれない。

 でも1にも特別なゲームが待ち受けているに違いない。

 このままでは勝てない。

 やっぱり、お兄様の力がなければ。

 わたしは九条さんの後ろに隠れるようにしてゲームを進行する。

 こんなにも頼れる九条さん。

 なんで今までバカにしてきたのだろう。

 わたしの方がバカだ。偏見とか第一印象でこうまで人の根っこを読めていなかったとは。

 でも今は違う。

 あのニーナさんですら、味方を守ろうとしている。

 こっちではゼロサムゲームが続いています。

 これでは運営の茶々が入っても仕方ありません。

 もしかしたら、この『デス・かくれんぼ』も終わりかもです。

 そろそろしびれを切らして、犠牲者が出るようにルールが変更されるかもです。

 人の心は読める方なのです。

 だから運営スタッフ側も分かっています。

 それにスタッフの一人がお兄様の犠牲者になっています。

 だから躍起になっているのです。

 勝ち目は、……ないかもです。

 早く帰ってきて。お兄様。

 でないと、わたしたち勝てません。

 くだらない人間のくだらない自己満足のために大勢の人が死ぬかもしれません。

 このくだらないデスゲーム。早く終わらせてください。お兄様。

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