第9話 九条理彩
妖怪女が親になり、この《真・デスかくれんぼ》を攻略する側に立った。
どうやってLPを稼ぐのかは知らないが、俺様のように傷跡で移動経路をたどることもできないだろう。
もし間違えれば、無駄肉乳女と博士、それに俺様は脱落者になる可能性がある。
無駄肉乳女と博士は残りLPが10。俺様は残りLPが5だ。
一発当てることに通常20を消費する。
LPがゼロになったとき、脱落者になるこのゲームでは誰かが死んでもおかしくない。
「ごめんなさい」
妖怪女が謝りながら、一つの部屋を開ける。
黒の部屋だ。
そこには眼鏡がいた。
「ぼ、僕か……」
これで眼鏡のLPも10になる。
このゲームで稼ぐのは難しい。
でも伊里奈は前回のゲームで三人を当てて150のLPをもらった。
だから眼鏡を当てた妖怪女も50のLPをもらった。
次の部屋でしくじっても、LPはかなり稼いだはずだ。
「ごめんなさい」
妖怪女は次に青の部屋を開ける。
そこには誰もいなかった。
少しホッとした様子の妖怪女。
「こんな時に敵の心配かよ。妖怪女」
「あら。わたくしは自分の信じた道を生きるだけですよ。誰にも死んで欲しくないのはわたくしも同じです。もう家族を失うのは……」
「は。テメーの心配しろよ。甘ちゃん女」
だから女なんて……。
「ん。お兄様、苛立っているの、です……?」
「あァ。ちょっとな」
しかし、どうしたものか。
『皆さん、お疲れ様でした。次の試合は明日5月17日の午前中、9時から始めます』
「待って」
眼鏡が言葉を遮るように声を荒げる。
「こんなゲームになんの意味があるのさ! おかしいよ。こんなことをしても何も代わらないし、誰も救われない。だったら、このゲームになんの意味があるのさ!!」
『自分には分かりかねます。ただ、この世界には裏の顔があるだけです』
そう言って運営はモニターをきる。
「ふざけるな! 僕はまだ死にたくない!」
眼鏡の残りLPは10だ。あと一回でも当てられたら、死ぬ。
だから怯えている。怖がっている。
だが、俺様はこのゲームの攻略法に片足を突っ込んでいる。
伊里奈とこのビルを、ゲームを、攻略するのは可能だ。それが分かった。
やはりあのスキルは存在していた。
なら――俺様は勝てるかもしれない。
食事をしながらもにやけてしまう。
あとはLPを稼ぐだけ。
そのためにはあの無駄肉乳女か、誰かを落とす必要がある。
「あー。龍彦」
「なんだ。貧乳女」
期待外れの奴が来て、嘆息まじりのため息を吐く。
「なによ! これでも脱いだらすごいんだぞ! 揉んだら柔らかいんだぞ!」
「はいはい」
「きー! ムカつく!」
貧乳女はツインテールを揺らしながら
「あー。でなんの用だ?」
「なによ。そんなやる気のない感じ……」
「実際、話すことはないからな」
ジト目を向けてくる貧乳女。
「いや、ええ……」
困ったように頬を掻く貧乳女。
「まあ、でも、あたしからしてみれば、ニーナちゃんと一緒にクリアして欲しいのだけど?」
「は。そんなちっぽけなことを言いに来たのか? 貧相な胸だが、頭も貧相なんだな」
「きー。ムカつく! まだ成長途中ですし! まだ可能性あるし!!」
「はいはい」
「ムキー!」
こいつ、貧乳女じゃないな。
サルだ。
「ほれ。バナナ」
「いや、なんの冗談よ!」
パシッとバナナを奪い取る貧乳女、改めサル。
もぐもぐと頬張るサル。
「それ、わたし、のです……」
困ったように顔をしかめる伊里奈。
「ごめんな。とってくる」
「待ちなさいよ! 逃げる気?」
「いや、妹が困っていたら、助けるのが兄だろ?」
「正論かと思ったけど、単なるシスコンね」
「うっせーわ、馬鹿ザル」
言われた罵倒を理解できなかったのか、「馬鹿ザル」とうわごとのように呟く貧乳女。
「ムキー! ムカつく!!」
「だから、サルって言われる、のです……」
呆れたようにため息を吐きながら、首をふるふると横に振る伊里奈。
「でも、いいじゃない。あたし、あんたたち兄妹のこと、羨ましい。それに……」
「戻ったぞ。伊里奈。ほい、バナナ」
「ん。ありがと……。お兄様……」
バナナ、好きだったな。甘党だからな。うちの妹は。
苦笑を浮かべていると、ツインテールが目に入る。
「テメーも帰れよ」
「なによ。あたしだって考えているんだから!」
「何を?」
「むー。本当に分からず屋なのね」
ぷいっとそっぽを向き、後ろの席に座る貧乳女。
食べているものはステーキにサラダ、白米、とろろ、そして牛乳。
「ミルク飲んでも、胸は育たねーよ?」
「うっさい! もうなんなのよ! あんた」
プンプンと怒り出すツインテール。
頬をハムスターのように膨らませて、怒っている。
「お兄様、謝った方が、いいです……」
「そうなのか?」
俺様ができない感情表現を計算してくれる伊里奈。
「すまん。言い過ぎた。噂によると、胸は揉むと成長するらしいぞ」
「じゃあ! 揉んでよ!」
「それはできない!」
しくしくと静かに泣く貧乳女。
いや、まあ、可哀想ではあるけど……。
「あー。あと睡眠も大事だそうだ」
「さっそく試してみる!」
トレーを横にどけて昼寝を始めようとする貧乳女。
「こいつアホか?」
俺様がさすがに呆れていると、伊里奈は困ったように微笑を浮かべる。
「たぶん。でもいい子、です……」
「はは。それはあるな」
「うるさい。眠れない!」
貧乳女、怒りすぎじゃね?
俺様がジト目を向けると、貧乳女の腹の虫が鳴る。
「今は食べろよ。寝れねーぞ?」
「うー。そうする……」
貧乳女、少し可愛いな。
「お兄様?」
「なんだ?」
「いえ。見たこと、ない顔……です……」
「あー。そうかよ?」
俺様が食事を終えると、30階にある自分の部屋に戻る。
そこに籠もってスキルの一覧をもう一度、見直す。
勝てる。
その確証はある。
だが、それにはLPが足りない。
やはりこれが攻略法だと運営側も気がついている……いや、わざと一覧に入れているのだろう。
ゲームはクリアするためにあるのだから――。
ゲームには攻略法があるのが当たり前だから。
やっぱりスキルゲーじゃねーか。
まったく。気がつかない奴らが憐れだな。
まァ、気がつかない奴らがわりぃ。
こんな簡単なゲームねーよ。
これは《かくれんぼ》じゃねーからな。
◇◆◇
あたし、
赤ちゃんだったあたしはゴミ箱に捨てられているところを、発見された。
児童養護施設で親代わりの人に育てられた。
でも、その親も良い人ではなかった。
あたしが失敗するとすぐに手を上げる人だった。
だから完璧を演じる必要があった。
どんなものにも手を抜かない完璧人間。
でもすぐに親が死んだ。だから、代わりの親がきた。
それに困惑し、あたしは誤魔化すようになった。
表向きは完璧超人。裏ではなよなよした子。
そんなあたしはいわゆるツンデレのように育った。
新しくきた親が甘やかしてくれるから、あたしは弱さを見せるようになった。
そのせいで絶妙なバランスの性格になった。
アホの子とも言われるようになった。
それは親に甘えられないあたしの気持ちが表に出ていたのかもしれない。
誰かに優しくされたかった。
助けて欲しかった。
こんなあたしに家庭を、幸せを手にすることができるのか、だいぶ悩んだ。
でも完璧だったときの名残がある。それがゲーム。
あたしはプロのゲーマーとして世界に名を馳せた。
ゲーマーネーム・ときおり。
時を折る。
そんな願いを込めて。
運命に反逆する狼煙として。
あたしはプロの世界へ飛び立った。
このデスゲームへは興味本位で参加した。
本当に殺し合うなんて想像もしていなかった。
あたしもこのゲームから脱出したい。それは当たり前の感想。
でも、運命の人を見つけた。
――相羽龍彦。
あの人に間違いない。
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