第8話 川西音子
『ルーレットスタート!』
次の日、朝食を終えて25階に来ると、
『親は
「伊里奈、分かっているな?」
「ん……」
俺様が呼びかけると、伊里奈は短く答える。
子が隠れる時間が始まる。その間、親は目隠しをし、柱に頭をつけている必要がある。
だが、そんなことは意味がない。俺様と伊里奈の本当の力をまだ見せていない。
「俺様の後についてくるなよ。無駄肉乳女」
「いいじゃない。私の勝手でしょ?」
「はっ。俺様と一緒であれば伊里奈は選べないと思っているのか?」
「ふん。私の作戦がバレているわけね。ま、私は最強のプロゲーマーだから、このゲームも終わらせ方も知っているの。さっさと協力しなさい」
「へ。貴様程度が俺様たちに勝てると思っているのが不幸なんだよ。テメーは何も分かっていねーよ」
俺様はそう言って白の部屋に入る。
後をついてくる無駄肉乳女。
同じ部屋に入ることで伊里奈の攻撃を防ぐつもりか。
『さあ、全ての人が隠れました! 親の行動開始です!』
『ん。……私はふたつの扉を選び……ます』
そう言って博士のいる赤の扉を開ける。
スキル《肩代わり》を使いLPを消費して助かる博士。
次いでこちらに向かってくる。
「ちょっと。待ってよ。なんでこっちに向かってくるの? あなたがいるでしょうに!」
「それをお前はどうやって知るんだ?」
「あんたたち兄妹は傷跡や埃で見分けているのでしょう? そんなのバレバレよ」
「は。それだけだと本当に思っているのか?」
「え」
伊里奈はスーパーコンピュータ『
そればかりか、ほとんどのゲームでチート級の計算を行う凄腕のハッカーでもある。
その脳みそに賭けている俺様だ。
ガチャッと扉が開く。
『おおと! 白の部屋にはニーナ=プロシンと、相羽龍彦がいました!』
ざわつく会場。
「私は《肩代わり》を使うわ」
『ラッキーポイント20を消費します。残り
運営が淡々と告げる。
「俺様も《肩代わり》を使う」
『ラッキーポイント10を消費します。残りLPは5となります』
「は?」
声を上げたのは無駄肉乳女だった。
「ふざけないで。LPの消費ポイントに違いがあるじゃない!」
「は。テメーは自分でスキル欄を見ることすらしねーのかよ」
俺様はステータス画面を開き、スキルを見せる。
「《節約家》……?」
「消費するLPを半分に削る。まあ、賭けだったがうまくいったな」
俺様と伊里奈はハイタッチをかわし、喜びあう。
「でも、待って。消費されるLPなんて分からないじゃない。前回のゲームでは
「だから、最初に博士を見つけたのだよ」
伊里奈はハッカーだから、そのデータはすぐに解析できたけどな。
「そんな。馬鹿な……」
そもそも《肩代わり》を見つけたのは俺様だし、一回戦目のチュートリアルで人を脱落させなかったが。
そんな簡単なことも忘れたのか。
『午前のゲームは以上で終了です。午後からのゲームに備えてください』
食事のため、10階にあるフロアに移動する。
肉に食らいつきながら、俺様は腕時計型の
「簡単には外せそうにねーな」
ソフトが得意な伊里奈に対してハードに詳しい俺様。
そこでばらしてみようと試みたが、下手に外すと手首がポロリとなる可能性があることが分かった。死ではないが、右手を失う生活は考えられない。ゲームもできなくなってしまう。
そして、少しその端末をいじってみる。
「拡張現実はいつ使うんだろうな?」
「ん。このあと、別のゲームがあるのかも?」
「そうか。なるほどな」
クツクツと意地の悪い笑みを浮かべる俺様。
俺様はトレーに何も載せずに席につく。
「運営さんよぉ。俺様は食事を放棄する。バランスのとれたゲーム性、よろしく」
『わかりました。相羽龍彦さんにはLP5を追加します』
「うそ。そんなことでもLPを稼げるの!?」
無駄肉乳女が驚いたような顔で青ざめていく。
「でも、5ポイントだぜ? 食事をして万全になる方がいいって」
眼鏡がそう告げると無駄肉乳女の顔に生気が戻る。
「あァー。眼鏡の言う通りだな。これじゃあ、あとで腹が減る」
「そ、そうね。それもそうだわ」
無駄肉乳女はスコーンとサラダだけのトレーを机にのせる。
まあ、俺様の計画通りだな。
問題は、スキルに目を通すことか。
スキルは数百種類ある。
おとといから始まったこのゲームだが、未だに確認できていないスキルが多数ある。
その中から俺様に有利に働くスキルがあるはずだ。
ただ、二人で分担して調べているせいか、他のチームよりも早く解析できているはずだ。
それとも無駄肉乳女はチームを組んでいる。あいつらがスキルを探しているのは自明の理。
このゲームの攻略法がスキルにあるのなら、きっとあのスキルがあるはず。
そうでなければ、このビルを出ることができない。
最後の一人になるまで外に出られない。
俺様は妹と一緒にこのゲームを攻略する。
やってやるさ。
こんな〝かくれんぼ〟ごとき。
しかし、伊里奈の言うことが正しいなら、次のゲームがあるのか。
それが本番に違いねぇー。
『さあ、午後のゲーム開始です! ルーレットスタート!!』
運営の言葉に力が入る。
このゲームで俺様と無駄肉乳女のLPはなくなる可能性がある。
でも、どうなるか……。
『おっと! 親は
あの妖怪女か。
なんだか信用できないんだよな。あの妖怪女。
「ふふ。わたくしが親ね。安心なさい。誰も脱落させないわ」
俺様が使う床の傷跡は相当慣れていないとできない。一長一短で身につくものじゃない。ましてや伊里奈に追い付くほどの解析能力はないだろう。
でも、妖怪女は自信満々に笑みを浮かべている。
目隠しをし、柱に頭をつける。
『さあ、子は移動してください!』
運営の実況がウザく感じてから、俺様と伊里奈は移動を始める。
伊里奈が青の部屋に向かうのを止めて、別の部屋に向かう。
「あ? 無駄肉乳女は、ついてこねーのかよ?」
「いやよ。あんたと共倒れなんて。それに、私にも考えがあるの。あなたはこれで終わりよ」
「は。それはどうかな」
俺様は、伊里奈は、ここで負ける訳にはいかねー。
ぜってー、ここを抜け出して、FPSをする。
◇◆◇
わたくし、
家族は六人家族で、父、母、長女、長男、わたくし、三女と一緒に暮らしていた。
ある日、事故に遭い、わたくしの家族は崩壊した。
わたくしは運良く生き残った。
母とわたくしが財閥を維持していかなくなった。この時、僅か十二才。
でも、わたくしには才覚があったのか、財閥のダメなところを次々と言い当て、結果的に財政破綻しそうなところから持ち直すことができた。
〝川西財閥の天上人〟と呼ばれるようになっていた。
今でこそ、医療分野にも力を入れているけど、本来は化粧品会社だった。
わたくしの一存で医療分野にも力を入れるようになって、かなりの功績を残した。
そんなわたくしの趣味はゲームである。
ゲームの中では何をしても許される。
みんなが対等だ。
だから――。
わたくしはこのゲームに買って、財閥を引き続き貢献していく。
そうやってバラバラになった家族を取り戻すんだ。
失った青春を取り戻すんだ。
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