第10話 すべてはゲーム

 貧乳女と食事をしたあと、俺様と伊里奈は午後のゲームに向けて作戦を練っていた。

 どうすればLPを確実に稼げるのか。

 一番良い方法はになること。子ではあまり稼げないのだ。

 ただ前にやったように自分のピンチを作ることでLPの増大は見込める。それがどうすればいいのか、分からないが。

「まあ、伊里奈はこのスキルをとってくれ」

「ん。それなら……これも一緒に、とる、です……」

「おお! なるほど。さすが伊里奈だな」

 天才がこちらにいてくれて良かった。

 俺様はこいつについて行けば、一生いっしょう生きていける。

 スキルゲーなこのゲーム。

 LPを稼ぐのが最大の方法。だったら、一番稼げるになれるスキルもあるはずだ。

 でなきゃ、公平性が、バランスがとれないじゃないか。

 レベル01の主人公がレベル10にするには努力を積まなきゃいけねー。

 それがゲームのルールだ。

 面倒であっても、そのレベル上げが必要になってくる。

 そういったな時間が必要なのだ。

 それがゲーマーの勘だ。

 そしてそれに否定をしない伊里奈。

 それが全てを証明している。

「やってやるさ。俺様が世界最強のゲーマーであると示してやる」

 二チャリと口の端を歪める俺様。

「ん。お兄様は最強、です……」


 そのあとも日数をかけて何回か、ゲームを行った。

 俺様はLP200。伊里奈はLP350。

 貧乳女がLP140。

 無駄肉乳女がLP200。

 博士がLP70。

 ゴリラがLP30。

 眼鏡がLP15。

 それぞれがスキルを購入したこともあり、LPの消費が激しい人もいれば、そうでない人もいる。温存している人はより大きな効力を持つスキル狙いだろう。

 事実、俺様が購入したスキル《ギャンブル》もいい。もらえるLPを最大六倍にしてくれる。まあ、失敗すると増えないときもあるが。ただ購入LPは100と高かった。

 でも条件縛りでもLPが増えるので、重宝している。

 俺様は腕時計型の端末を操作して、みんなのLP残量を確認したあと、お茶をすする。

「お兄様……お茶煎れるの、苦手です、よね……?」

「ま、そうだな」

 確かに香りが弱いし、味も薄い。

「まぁ。家事なんてできなくてもいいだろ。これまでもそうしてきたんだから」

 引きこもり期間で俺様と伊里奈は家事を放棄していた。

「それも、そう、……です、ね」


『ゲーム開始です! さあ、皆さん、楽しんでいきましょう!』

「は。よく言うよ。人の命賭け事に使いやがって」

「あら。それは私のセリフよ。あんたみたいなぼんくらには関係ないでしょ?」

 無駄肉乳女が怒りを込めて呟く。

「サーセン」

 笑いを浮かべながら応えると、俺様は引き下がる。

『いいですよ! それでいいのです。じゃあ、次からはルールを少し変えます』

 運営の不穏な言葉に周囲がざわつく。

『今度から親が二人になります。親は別々の部屋を開けることができます』

「なっ! 何よそれ!?」

 怒りを露わにしたのはやはり無駄肉乳女。

『しかし、会議で決まったことです。あなたたちが生ぬるいゲームをやっているからですよ』

 そう。伊里奈が言うにはギャラリーは死の淵に立たせられた絶望感が見たいのだ。

 それにも関わらず半家はげ以外は誰も死んでいない。

 これは運営側としては予期していない結果だった。

 それも無駄肉乳女の求心力でみんなをまとめ上げていった結果である。

 まあ、理想通りに行っているわけだ。

 そこは素直に感心するが、今度のルールはどうするつもりなのか。

 まあ、くたばってくれた方が楽だがな。

「しかし親が二人になるのか」

 自然と扉を開ける個数は倍になる。つまりは二から四になるということだ。

 小部屋は九つ。ほぼ半数の部屋が危険にさらされる。

 となると、脱落者も増えるって計算だ。

 1000LPを貯めないと、このゲームはクリアできない。

 と考えると――。

「俺様はスキル《王者の化身》を使う」

『おおっと! ここで相羽龍彦、スキル《王者の化身》を使った!』

 王者の化身。

 自分を親にすることができるスキル。LPが高めだったが、ようやく使う機会が訪れたようだ。

 そして消費スキルではないため、これからことができる。

「ん。わたし、も使う……です。スキル《数値操作》」

 スキル《数値操作》は、決められた数値を少しばかり変更できる。

 このタイミングで使うのには意味があるのか、分からないが、天才な伊里奈のことだ。

 なにか理由があるのだろう。

「親が子を当てた時のLPの増減を変える、です……」

「はぁ!? ふざけるなよ! 僕を殺す気か?」

 眼鏡が怒りでランランとした瞳を輝かせている。

 恐ろしく醜い光を宿している。

 自己中と言われる類の目だ。

「ん。君が強ければ、勝てるの、です……」

 なんの邪念もなく、純粋に応える伊里奈を前にたじろぐ眼鏡。

「性格悪いわよ。相羽兄妹」

 無駄肉乳女がすごむような目で見据えてくる。

「は。てめーもぶっ飛ばしてやんよ」

 俺様に楯突いたこと後悔させてやる。

『それじゃあ、ルーレット始めるけど、いいかな?』

 運営がしびれを切らしたのか、淡々と進行を進める。

 画面に表示された赤い矢印回りだし、台紙に描かれた俺様たちの名前で止まる。

 スキル《王者の化身》が発動したまま。

『お! 親は相羽龍彦と、』

 続いて回る青い矢印。

『相羽伊里奈です!』

 俺様と伊里奈は目をあわせる。

 これでバトル終了だ。

 無駄肉乳女、ゴリラ、眼鏡、博士、妖怪女。そして貧乳女には悪いが、ここで俺様たちは次のゲームへと移動するつもりだ。

 だから、死ね。

 俺様と伊里奈はアイマスクをし、柱に身を預ける。

 カウントが終わると、俺様たちは目を開く。

「ほう。傷跡でバレるのを阻止したか」

 靴を脱いで裸足で歩いたのだろう。

 床にはそれらしい傷跡はない。

 だが――。

「床板の塗料の、すり減り具合で分かる……のです」

 伊里奈の言う通りだ。

 人はそれぞれ体重が違う。重心が違う。バランスが違う。

 だから、必然的に床材に塗ってある塗料がわずかばかり削れる。踏み固められる。

「さあ、ご退場願おうか」

「わたし、ごめんなさい。……当てるの、……です」

 俺様と伊里奈は別々の扉を目指す。

 親に当てられた子は30LP消費する。が、今はスキル《数値操作》によって通常ののLPを消費する。

 子を当てた親は100LPを得られる。が、今はスキル《ギャンブル》により、通常ののLPを得られる。

 俺様の《ギャンブル》と伊里奈の《数値操作》によりこれまでのゲームをくつがえす。

 徹底的に敵を倒す。

 その覚悟が俺様にはある。

 そして伊里奈にもある。

 人を蹴落としてでも得る勝利。

 それも悪くないと知る。

 勝利は勝利だ。

 そこに至る過程など、些末な問題でしかない。

 だから、俺様は貴様らとは相容れない。

 可哀想とか、酷いとか。

 そんなのは他人の戯言だ。

 元に俺様はそうは感じない。

 これも一種のゲームなら、

 ゲームらしく終わりを迎える。

 そうだろ?

 俺様たちはゲームをしているのだから。

 負ければ脱落者。勝てば賞金。

 eスポーツとしての、ゲーマーの世界はそう甘くはない。

 全力で敵を潰すのがゲームだ。

 失敗すれば〝死〟を意味するのはどの社会でも一緒だ。

 もし、仮に絶対に勝てる勝負しかしないやつがいるとすればそいつはアホだ。

 そんな中途半端な覚悟では誰も生き残れない。誰も助けることなどできない。

 人助けとは、自己が満たされ、余裕が生まれた者のみが到達する一種の娯楽ゲームだ。

 余裕がなければ、誰も人助けという娯楽ゲームを楽しめない。

 この世界のほとんどがゲームなのだ。

 衣類を選ぶのも化粧メイクするのも、それすらもキャラクターメイキングの一種だ。知力も、雑学もキャラ生成の一種だ。

 そう、全てはゲームなのだ。

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