第6話 ゲームスタート!

 俺様が親となり、子は全員色つきの小部屋へと入っていく。

 もちろん、誰がどの部屋に入ったかなんて見ていない。

『さ、ゲームスタート!!』

 運営の言葉を皮切りに俺は目隠しを外し、周囲の小部屋へと続く道のりをつぶさに観察する。

 床を眺めながら、色のついた小部屋を見やる。

 青の小部屋の前で止まり、じっくりと思案する。

「宣言する。俺様はこのゲームで一つの選択肢にする」

『お。どういうことですか?』

 運営側が僅かにテンションを上げる。

 なるほど。やはりな。

「俺様は選択肢を一つ減らすことでLPを稼ぐ。……公平性、バランスをとるにはLPに変換するのが当たり前だろ?」

 性格の悪そうに口の端を歪める。

『いいですよ。そのためのポイント制ですから』

「ああァ」

『どういうこと? あなた死ぬかもしれないのよ?』

 無駄肉乳女が腕時計型の無線機から声が漏れる。

『はっ。九つある、しかも複数人が入れる小部屋だってのに、選択肢を減らせばどうなるか、分かっているんだろうな?』

 半家はげも興奮した様子で声を荒げる。

『でも、ポイントを稼ぐには有効かも。スキルで子を探すのもあるみたいだし』

 博士が冷静な分析を始める。

『ん。お兄様は天才、です……』

『ふむ。頭の悪いおれには分からんが……。いい策だ』

 伊里奈とゴリラも声を上げて、褒め称える。

『LPを20追加します! で。どうします? スキル:絶対君主? それともスキル:奥の手?』

「いいや、俺様はなんのスキルもつかわないぜ?」

 そう言って赤の扉を開く――。


 そこにいたのは半家一人。

「ま、待て! 話し合えば分かる!」

「何を?」

「お前が俺を見つけられなかったと言えば、すべてすむはずだ。LPは減るかもしれねーが、さっきのやりとりでかなりのLPをためているはずだ。大丈夫だ、な?」

「俺様は半家を見つけた。これで終わりだ」

「嫌だ! 死にたくない! 俺は幸せになるために生きてきたんだ。こんなところで死ねるか!」

 半家は部屋を出てエレベーターに向かう。

「見苦しいぞ。半家」

「うるさい! 俺はまだ死ねないんだ! 世界中のやつらに思い知らせるまでは!」

 狂ったようにエレベーターのボタンを押す半家。

 両脇を固める運営スタッフ。

「嫌だ! 俺はまだ死にたくない!」

 悲痛な嘆きは耳にこびりつき、嫌な気持ちにさせる。


「まさか。一発で当てるとはね。どうやったの?」

 顔色一つ変えずにやってくる無駄肉乳女。

「はん。てめーに教える義理はねーよ」

 俺様は意地の悪い笑みを浮かべて、隣にいる伊里奈を見やる。

「やっぱり、二人ともにいたのか」

 俺様は伊里奈を抱き寄せると、嬉しそうに甘えてくる伊里奈。

 頭を撫でると、猫なで声を上げる妹。

「へぇー。二人は本当に兄妹なのかな?」

 眼鏡がじっと見つめてくる。

「あァ。これで本物の兄妹だぜ?」

「僕にも弟がいますが、仲良くありませんよ?」

「しかし、半家の奴、本当に死んだのか?」

 ゴリラが不安そう言う。

「「「…………」」」

 ゴリラの言葉の意味を咀嚼する。

 もしかしたら、この場にいる誰もが思っていることかもしれない。

 次はお前だ、と。

 でなければ、自分がやられる。

 どうするのが良いのかは分からないが、俺様も生き延びたい。

『では。子をずばり当てた相羽あいば龍彦たつひこさんには100LP、見つからなかった子には30LPを贈呈します!』

 一人100LPか。なるほど。ならもっと大勢を見つければ、LPの量も増える、ということか。

 にやりと口の端をつり上げる俺様。

『さてさて。一人の犠牲者がついに出てしまいました。ちなみに彼は《スキル:肩代わり》を持っていませんでした! 残念!!』

 明るい口調でそう告げる運営。

 だが、聞き逃せない言葉でもある。

 なら――半家は何を取得していたのだ?

 ではなかったのか?

 もしかしたら、俺様の見逃していたスキルかもしれない。

 いや、すぎたことは忘れよう。

 げんに俺様は生きている。

 《スキル:身代わり》なら、俺様が代わりに脱落者になっているはずだし、それに取得LPが高い。確か100ないといけないはずだ。

 初期LPが50なので、取得できないはず。

 だから半家は防御のしようがないはずだ。

 それにしても、このチリつくような感覚はなんだ?

 肌を焼くような……、ざわつく気持ちは。

 伊里奈が耳打ちをしてくる。

「やっぱり小さな傷跡とか、あった?」

「あァ。だが、それを警戒してなのか、無駄肉乳女が貧乳女と靴を入れ替えてやがった。あいつらは危険だ」

「あらあら。どんなお話をしているのかしら?」

 無駄肉乳女がちろりと舌を見せて、こちらを見やる。

「まさか、独りぼっちが寂しくて妹と同じ部屋に入っていたのか?」

「ふふ。あれなら私を選べないでしょう?」

「そいつはどうかな?」

 クツクツと性格の悪い笑みを浮かべる俺様。

「あー。怖かったぁ。でも、助かったよ。相羽くん」

 貧乳女が何かほざいているが、気にしてはいけない。

「ん。あたしの声聞こえている? おーい!」

「うぜーよ、おめー」

「何よ。聞こえているじゃない。無視しないでよ。まったく。別にあんたなんかと話したい訳じゃないだからね!」

「あっそ。じゃあ……」

 その場を離れようとする俺様。

「いやいや! 待ってよ!」

「話したくないんだろ?」

「いや、それは言葉の綾というか。なんというか……」

「なんだよ。てめーのことはホントウザいとしか思ってねーからな?」

「がびーん。あたし史上、最大のショックかも……」

 古い表現をするやつだ。

 まあ、悪い奴ではないんだがな。

「で。何を聞き出したい?」

「ずばり! 部屋に人がいるのが分かった件について、よ!」

「お前、オタクだろ?」

「そうですがー! 何が悪いのですかー!!」

 目をひんむいて怒りの声を叫ぶ貧乳女。

「あ。いや、わりぃ。非難するつもりじゃなかった」

「は。オタク文化がこの国を支えているのよ? そんなことも分からない? 経済効果は群を抜いて高くてよ?」

「いや、だから。わりぃって……」

 俺様はたじたじになり、延々とオタク文化の素晴らしさを語る貧乳女。

「ということで、涙活や笑み活、ドル活は、世界一の素晴らしさを誇っていて――」

「いや、いつまで続けるんだよ。他の連中みんな帰ったぞ?」

「分かっていないわね! ここでは語れないのだけど、冴えないキャラでもヒロインになれる可能性を世界に示したのよ! そして最近ではモブにスポットライトを――」

 いや、いつまで続けるつもりだよ。この胸なし女。


◇◆◇


「《スキル:潜伏》。《スキル:敗者復活戦》を起動」

「了解しました。お疲れ様です♪」

「まあ、これでいつでも狩れる準備は整った」

「さすがです。我々のことも利用しようとしていますよね?」

「……なんの冗談だ?」

 低く唸ると、運営スタッフはにこやかな笑みを浮かべる。

「だって、そうしないとが保てませんから」

「は。そればっかだな。うぜーよ」

「つれない人ですね。でも、いつまで《潜伏》するおつもりですか?」

「決まっている。あいつが最高にみじめになったときだ!」

「それはそれは。面白そうですね。頑張ってくださいね。これからもあなたのことを応援してくれるギャラリーがいるのですから……」

 ギャラリー。

 つまりは観客がいるってことだ。

 これだけのデスゲームを楽しんでいるやからがいる。

 それが怖くてたまらない。でも、それがスポンサーとなって、パトロンになってくれるかもしれない。

 そう思うと俺はワクワクする。

 いつでもあいつを狩れる。

 裏の裏をかくのがなんだよ。

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