第5話 半家

『それでは〝真・デスかくれんぼ〟の内容を説明します』

 運営がそう告げると、画面が切り替わる。

【親一人と子八人に分かれる】

【子は九つある部屋へ移動する】

十分後じゅっぷんご親が最大二つの部屋を開く】

【部屋の中にいた人は脱落者となり、死を持って償う】

 そしてここからが追加ポイント。

【親が子を見つけられなかった場合、親は脱落者となる】

【子を見つけた場合、親にLPラッキーポイントを得る】

【見つからなかった子はLPを得る】

【LPを使いスキルを習得することができる】

【何度か行われるゲームの中でLPやスキルは使用可能になる】

『そして、我々はを記すため、のとれたゲームを楽しんで頂きます』

 運営からの通達は終わり、画面が戻る。

『いかがですか? ゲームのルールは分かりましたか?』

「つまり、かくれんぼしつつLPを稼ぐ、そしてスキルを買ってゲームを有利にするってこと?」

『その通りです』

 運営は僅かに笑みを浮かべた気がする。

「しかし解せないな。スキルとはどんなものだ?」

 半家が冷たく言い放つ。

『はい。スキルは全部で百種を超えているので、あとでリスト化します。例としてあげるなら――』

 運営のモニター画面が切り替わる。

 とそこには多くのスキルと、その詳細が載っている。

【スキル:背水の陣:選べる部屋数が一になる代わりに、もらえるLP量が増大する】

【スキル:一目惚れ:異性の子の位置を教えてくれる】

【スキル:代わり身:脱落者となったとき、代わりに別人を一人、脱落させる。自分は脱落者ではなくなる】

【スキル:肩代わり:脱落者となった場合、LPを消費し脱落者ではなくなる】

「ほとんどスキルゲーじゃねーか」

 半家はカエルのようなぎろりとした目でモニターを睨む。

『ちなみに最初の持ち点として50LPを贈呈します!』

「はん。スキル・肩代わりの交換ポイントが20。交換しない手はねーな」

 俺様は爆破物でもある拡張現実AR機能のついた腕時計にスキル購入を行う。

 それに続くように博士以外の者は《肩代わり》を購入していく。

『さて。そろそろ二試合目だよ。ルーレットいっくよー!』

 運営が明るくいい、ルーレットの画面に映る。

 そして――。

 ルーレットで俺様が親に決まった。

「ほう。面白い。俺様が脱落者を選ぶぜぇ~」

 テンションの上がった俺は無駄肉乳女に向き直る。

「てめーを落とすことができるぜ」

「あら。面白いことを言うね。私は全然脱落する未来は見えないのだけど?」

「その無駄口を叩けなくしてやる」

 俺様はそう言い残し、エレベーターに乗り込む。

 大部屋で一人待機していると、他の人が小部屋へ移動するのが伝わってくる。


 ◇◆◇


 俺、半家はげは陰惨な過去を送ってきた。

 両親は仲が悪かった。

 毎日のように喧嘩をし、酒に溺れる親父おやじ

 部屋もない狭いアパートで俺は小さくうずくまる。

 親父の変わりに小説を書くゴーストライラー。そのお金で毎日の食い扶持を稼ぐ。

 名も売れていない人を自分の代わりにする汚い金。

 酒に酔った親父はアパートから転落死をした。

 ゴーストライターであることがバレ、俺と母さんは路頭に迷う。

 母さんは俺を育てるため、娼婦となった。

 それが学校にバレ、いじめられる。

 靴に画鋲をしこまれたり、机に罵倒される言葉を刻まれる。

 服を脱がされ、全裸で校舎を一周する。

 それでもいじめはなかったという学校。

 何も見ていない。

 自分の保身しか考えない人々。

 憐れだ。

 自分こそ、泣いている俺こそが人間であり、あいつらは人間じゃない。

 ふと、オモチャ売り場にある体験型用の電子ゲームに触れてみた。

 面白かった。

 理不尽で溢れているこの世界に、俺が生きているのだとぶつけているみたいだった。

 理不尽に奪われた俺の未来。

 バトルという名の暴力――。

 人を撃ち殺しても文句の言われない――それどころか、評価される毎日。

 倫理と、自己表現のすり合わせの結果がだった。

 世界がゲームで決着をつければいいのに。

 そうすれば、悲惨な戦争も、陰湿ないじめも、壊れた家庭もなくなる。

 そう思えた。

 俺はプロのゲーマーとして生きていくんだ。

 いくつかのゲーム会社が、その競争率を、注目を集めるために開催する公式試合。

 最近では高額の賞金も得られる。

 そんな祭りで、俺は日銭を稼いだ。

 娼婦となった母は自暴自棄になり、窓から飛び降りた。

 だが、俺には関係ない。

 生きている俺こそが正しく、死んだ奴のことなどすぐに忘れる。

 世界はそうやってできている。

 だから俺は生きる。

 そんな俺の人生を邪魔するものが現れた。

 ニックネーム《青の騎士団》。

 本名・相羽龍彦とその妹・伊里奈。

 あいつらに負けてから、俺の人生は狂った。

 賞金をもらえなくなり、コンビニのシフトを増やす。

 バイトが増えれば練習する時間が減っていく。

 そうして俺のゲーマー人生は閉ざされていった。

 守るものも、大切な人もいない。

 代わりにあるのはゲームだけ。

 俺の人生はそんなもの。

 でも、それでも俺は生きたい。

 生きて幸せな日々を送るんだ。

 それは両親が成し遂げられなかった楽しい人生。

 俺はそれを勝ち取ってやる。

 あの相羽兄妹よりも良い成績を上げてやる。

 だから、俺はVチューバーを始めた。

 それなら俺でも広告収入を得られる。

 ゲーマーを続けられる。

 コンビニの先輩も、店長も俺をいびってきた。

 ゲームさえあればそれでいい。

 俺は他人がどうなろうと関係ない。

 それでいい。

 親父も母さんもそう言うだろう。

 俺は俺の幸せのために生きる。

 だから、他人は関係ない。

 他人なんていなくても生きていける。

 俺はそうしてゲーマーになった。

 全ての理不尽をひっくり返す。

 ゆくゆくは世界一の賞金稼ぎになり、世界を変えてみせる。

 俺が悠々自適な生活を送れるような、そんな世界にする。

 他人なんざ、どうでもいい。俺は俺を生かすために戦う。

 どんな汚い手を使おうとも、他人を蹴落としてでも、俺は上がる。

 そんなおり、デスゲームの誘いがあった。

 これはチャンスだ。

 俺は相羽兄妹を殺せる。

 そして名だたるゲーマーたちを殺す。

 そうすれば、俺は晴れて世界一のゲーマーになれる。

 俺を馬鹿にする奴なんてこの世にはいなくなる。

 それでいい。

 だから、俺はここでデスゲームをしている。

 かくれんぼ。

 最初聞いた時は運営の甘ちゃんな考えに苛立ったが、真かくれんぼは確かに面白いシステムだ。

 スキルを獲得することで逆転を狙える。

 LPによって強さが変わる。

 なんだよ。やればできるんじゃねーか。

 俺はようやく世界一のゲーマーになれる。

 そのチャンスがやってきた。

 ちげーねー。

 これなら合法的にあいつらを殺せる。

 運営のやり方に最初は苛ついたが、これは同時にチャンスでもある。

 俺がこの世界で一番強いんだってこと、証明してやる。

 誰の力も借りずに、金を稼ぐんだ。

 他人と関わって生きていても、良いことなんてないんだから。

 だから、俺はゲームと一緒に生きる。

 ゲーマーである俺が、こんなかくれんぼごときでやられるわけがない。

 九条やニーナと言った有名ゲーマーを一気に殺すことができる。

 いいじゃねーか。

 ようやく、俺にも転機が舞い降りたんだ。

 これを成功させる。

 俺は誰にもバレないよう、こっそりと赤の部屋へ入っていく。

 あの相羽兄妹にも宣戦布告した。

 俺があいつに負けるわけがない。

 スキル獲得にも、俺だけは違うものを購入していた。

 気がつかなかったあいつらが悪い。

 俺はこれで勝つ。

 勝ってみせるさ。

 そして最後まで生き残るのはこの俺、半家だ。

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