第6話 氷の国の闇の叙事詩:Ⅱ

エリサルを連れて、一旦ルアルの元へ戻った。


「有難う御座います!」


「安全な隠れ家はない!?」


「疾走する白狼亭の裏口で五回ノックしてから入って下さい!その符牒で案内される部屋は王すら知らない部屋です!」


「有難う!」


少し高く飛んで分からない様に遠くに降りて、白狼亭の裏口で五回ノックする。


顔を出したのは中華包丁を持った一見殺人鬼みたいなゴリゴリシェフだったが、素早く誘導してくれて、地下の部屋へ案内してくれた!


有難う!見た目ゴリゴリのヤベーシェフ!


避難所なのか中は広く、ベッドもかなりの数があった。

何はともあれエリサルをベッドに寝かせる



怪我はしてない様だが…薬とか飲まされてないか確認しなきゃな…


「生命の安定スタビリティ・オブ・ライフ


スキルを唱え、二本指で頭から爪先まで指差す。


このスキルは故意に不安定になった生命活動を平均化し元の状態まで戻す。


「オッケーにゃ♪」


「有難う式部!」


「さて、犯人はどうやってあぶり出す?♪」


「エリサルは事件が終わるまで出さない方が得策…でもでもー?」


「顔をバッチリ見られてて、捕まっても大丈夫な人がいるにゃー♪」



ズズズズズ……


「地震?」


「でも揺れが不規則だよ!」


「遠視の魔眼ディスタンス・ルビーアイ!!」


遠見のスキルで街の外壁を見ると、数多くの兵士が巨大な象や虎に乗って外壁を攻撃している!


どうする…国同士の戦争に加担するのも考え物だが、それで人が死んだらどうにもならない!


……いや…


「式部、動くよ!」

「にゃっ!♪」






「大臣殿、報告致します!」


「どうした騒がしい!後にしろ!」


「先日、罪人を連れ去った少女を捉えました!」


「…何!?すぐ連れて来い!」



空中庭園らしき場所で取り調べが行われる。

「おお、先日の!貴様、我が国は今攻撃を受けている!ここに来れる者はスキルを多く保有している者だけ!外へ出て、野蛮な隣国を追い払うのだ!相応な金は払う!」


「私の対価は…安くないぞ?」


「卑しい平民が足元を見おって!幾ら欲しい!?」


「金は要らない。欲しいのは街の人達でスキルを試して、殺した一連の犯人。そしてそのスキル…」


「無理に決まってるだろうが!あの方に謁見するだけでも難しいの……はっ!」


「語るに落ちたな大臣、お前より地位が上で、謁見が難しいなんて…王だけだよな?」



「下がれ家畜よ…」


大臣の上半身と下半身が逆方向にねじ切れた!


長身長髪、髭の長い優雅な服を着た男が傍の椅子に座った。


「私がアイリシア十七代目国王、ラグニス・イル・アイリシアである」



私が難なく拘束を解くと「やはりか」という顔でこちらを見た。


「確認だけする。改竄スキルで反政府地下組織を大勢殺したのはお前か?」


ゆっくり国王が手を前に出し、握っていくと月花の身体が土下座していき、腕は少し後ろに捻られてる様な姿勢にされていた。


「王族に頭が高いな…スキルの実験は他人に任せたが私がこの国の為に行なった。今は人の魂が必要な時…スキル改竄を用いて貴女を街中で不審死させてもいいのだぞ?」


「程度の低い脅しをするな。お前は一見脅している様に見えるが、懐柔しようとする腹案が見えている。罪人として捕まえた女を私達が逃すのも計算の内?」


「威勢のいい女性だ。確かに、現在進行している勢力を殲滅せんと貴様たちを戦力に入れようとしているのは本音だ。女は少し反抗的だったから処分するつもりだったがまぁ良い」


「国同士がいがみ合わないで、ほんの少し歩み寄れば解決出来る事じゃないの?」



再度国王が右手を差し伸べて、月花に何かしようとするが、何も起こらない。


こっそり私がイレイズしてるからにゃー♪


「効かない…だと?先程は効いたのに…」


人は対峙する人物が格下だと見ると饒舌になりやすいからにゃっ♪


ドドォン!!!



音の方向を見ると凄まじい大きさのストーンゴーレムが、氷山を抉り街に投げて来ている!

巨大な氷の塊が当たった場所は隕石が落ちたかのような悲惨な状態だった。



「話の途中だが、私は出る!」


「前に出るのか!国民を守るのか?」


「私は国を護るのだ!国民なぞ幾らでも増えて来る!」



「……それでも王か!?」


「王の血筋を絶やしては為らぬ!その理由がここにある!改竄し、強力になったアイリシア国の王族スキルを見るがいい!」


『式部!何かヤバい!側に来て!』

『分かった!』


結晶結界を張り、周囲に蒼いドーム状の結界が展開された!


その瞬間!街の方角から、夥しい数の光の珠が上がってきて、王の身体に吸われている!!


「魂を…街の人の魂を食ってる」

「………むごい」

「拘束を解きたい、イレイズしてくれる?」

「りょ!消去イレイズ!」



魂を飲んで肥大化した王の魂は膨れ上がり、巨大な白竜に変貌する!


生者も…きっと死者も魂を徴発ちょうはつされている。


巨大ゴーレムの元に上から巨大な氷の塊を何発も吐き出す!


ゴーレムは頭が欠け、腕が落ち、バランスを崩して雪原に倒れた!


付近にいた隣国の軍勢が巨人の下敷きになる!


そこで手を緩めず、白竜は滑空しながら壁を攻撃していた軍勢を氷の吐息で氷漬けにした。



「式部!街の状況を確かめに行くよ!」


「分かった!」


手分けして飛んで街を見て回るが…倒れている人ばかりで、全員息をしていない…


「式部…そっちも…?」


イヤホンで式部の状況も聞いてみた!


「ちょっちまって!…地下にいたせいかエリサルさんや衛兵団は無事だよ!でもそれ以外は…」



「戦争の為に国を犠牲にして振り返りもしない王など、絶対にあってなるものか!!!」




その頃白竜と化した国王は、隣国の軍勢を蹂躙しつつあった!


これはもう…一方的な虐殺だ…


「止まれ――――!!!」


空を高速移動し、荒ぶる白竜を静止させる!


「小娘よ、何故行く手を阻む…」


「王が愛すべき国民の多くを犠牲にして勝つ戦争で…お前に…何が残る?」


「勝利という我が国の歴史…国民など知らぬ内にまた幾らでも集まる。そしてその為にスキルで区分けしておる。優秀な者だけ我が元へ集まる…」


「反吐が出る…国民を…人を愛していないのか!?」



「王の血脈は使い捨て出来ぬが、民は王族の血筋を護る為に生まれたのだ。名誉ある死である!その功績を称える気持ちはある!」


「生きて王を支えて、王は国民の安寧の為に尽力する…それが国だ!!」


「意見するのなら我に手傷を負わせてからにするがいい…出来る物なら!」


白竜が巨大な氷柱を大量に飛ばしてくる!


「花鳥風月・硬!!」


巨大な障壁を出し全てブロックする!!


「臨機応変な我が改竄スキルを思い知れ!」



障壁に阻まれていた氷柱が突如として障壁をすり抜けてくる!


慌てて刀を取り出し、斬り払うが数が多すぎる!



「針の先程の塵芥でも、眼に入れば煩わしい…」






月花と合流しに向かっていた式部が目前で見たものは月花が氷柱に貫かれてる刹那!!!






式部は慌てず魔槍グングニルをくるくると回転させ、天に矛先を向ける。





「我が王よ…黄泉の淵より還り給え…ヴァルプルギスの夜!!」




月花を球状の闇が飲み込む… 


夥しい氷柱を白竜が追い打ちに吐くが、全てすり抜けていく!!



闇から月花の左手が出て来て、闇を縦に切り裂いた!


闇が割れて月花がゆっくりと姿を現す。


「式部…有難う!スキル全確保!」


技術強奪スキルスティール!」


「ぬぅ!何故だ!スキルが全て消えた!これでは人にも戻れぬ!」



「戻る必要があるのか…?国民のいない国に…飾りだけの王などいらぬ!」



「全てを凍てつかせる白竜の吐息で命を凍てつかせるが良い!!」

「遅い!名も無き切り札ネームレス・ジョーカー!!」

高速移動抜刀術で白竜を通過したした瞬間、白竜の身体ごと空間が斜めにずれる!!!


下半身が地上に落ちていき、内蔵を落としながらもまだ対空している!

「我を阻むな…邪魔をするな…」



「…我が王に仇なす敵を屠れ、魔槍グングニルよ!!」




魔槍が竜の頭部を貫き、ターンして左右の翼を切り裂いて式部の手に戻る。


力なく壁外に落ちていく白竜。


「コロちゃん!やっちゃえ!」


「ににに!」


炎の槍が何本も出て白竜にとどめを刺した。


「コロちゃん強ーい!いい子だぞー♡」


「にっ!♪」



城の空中庭園まで来ると、エリサルが不安そうにこちらを見ていたので、空から降りた。



「良かった!《社》さん無事だったんですね!…良かった…」


「有難う…沢山の犠牲が出てしまったからこの国はもう…」


「大丈夫です!」


その声と共に衛兵団が現れ、エリサルの後ろに付いた。


「残った方々が居れば我々が力を合わせて導いて行きます!王が独占していた白竜のスキル、国の為に使うのでお譲り下さい!」



「それは無理かにゃー♪」


「…エリサルさん、今回の一連の事件…全て貴方の掌の上だったのね…」


「え…何の事…?」


「港町でたまたま情報を聞いたおじさんが情報通でね、貴方が王の隠し子だと知ってたのよ。この国の象徴とも言える白竜のスキルは王の血族じゃないと使えないスキル…今の言葉で血族である事を認めてるような物…」



「私達を呼んで被害者のフリをしつつ、王に進言し、改竄スキルの可能性を見極める為に反政府地下組織で人体実験していったのにゃー!」


「そして、白竜のスキルに衛兵団以外の魂を吸い上げ、攻撃力を上げる、と書いた」



この街はもう衛兵団しかいない。



王もいない、大臣も、料理を作る人も、街を作ってる人も、漁をする人も…


無人の街を警備する人しかいない。



「あー、そうそう!お見事な読みね!あんな王より私達の方が外交も統治も上手くやるわ!白竜の力で街を正しく導く!」


「……そっか。式部、さっきの白竜スキル渡してあげて」


「はーい♪技術譲渡スキル・トランスファー!」



エリサルに白竜のスキルを渡した。

少しほくそ笑んでる様にも見えたが、突然顔色を変えた。



「ちょっと!何よこれ!?」



【白竜の血族】

このスキルを使うと白竜に変身出来、白竜のスキルを全て使える様になる。

このスキルはアイリシア王族にしか使えない。

このスキルで白竜に変身すると二度と元に戻れない。

このスキルは王族しか保持出来ない。



「献身の心もなく、瓦礫の町で頂点に座ろうなど片腹痛い。立つと決めたなら命を賭けろ!国を憂い、粉骨砕身盛り上げていけ!ただ人の上でふんぞり返りたいだけの王など滑稽でしかない!…運命は星が決めるのではない。我々の思いが決めるものだ…」



「こいつらを捉えてスキルを奪う!取り押さえろ!」


「…力の差をわきまえよ、れ者共!」

超威圧ドラゴンアイでエリサルも衛兵団も全員膝から崩れ落ちれ気絶した。

エリサルは少し強めに威圧したので、白目剥いて涎出てた。


「帰ろう式部。上から観た光景が思い望んだ光景か…星ですら熟知してる事を理解していない」




「後味の悪い依頼主だったね…」



「この国がどうなるか分からないが、ここから這い上がって、いい国になって欲しい」


とぼとぼと歩いて港まで進む。


廃墟と化した街は吹雪も相まって寂しい風音を出していてまるで死人が歌っている様に聞こえる。


長く式部と旅をしてきたが、こんなに悲しい気持ちになったのは初めてだ。



港町まで入ると、街から距離を取って…人が沢山いた!!!



「おい、お前達情報売った子だな?生きてて良かった!中の情報を買いたい!」


情報通のおじさんも生きてたー!



生きてた人達は急に足元に魔方陣が出現し、人が死に出したので魔方陣の外へと非難し、白竜とゴーレム、そして私たちの戦いも見ていた様だった。


私は包み隠さず、事のあらましを全て話した。


「そうかー不穏な空気はあったから、いつかはこうなると思ってた。隣国の情報網にも流して助けてもらうさ。戦争嗾けしかけたのはこちらだし、向こうの国は温厚だからな!」


「国を乗っ取られたり、皆酷い目にあったりしない」


「あ?誰に向かって言ってんだ…?」


全員がパンパンの筋肉を誇張しだした!!!


「あ、国王より強そうだにゃー♪」


式部の言葉で漁師達がドヤ顔した後、全員で大笑いした!



この人達が居れば、きっと新しい国が作れる。


明るい国は元気な人が作るんだ!





「さぁて、式部は最初の港町寄るんでしょ?」


「ほっとあったかたこ串買って帰らなきゃ♪」


「私もママに買って帰ろうかなぁ…」


「六花ちゃん絶対に気に入ってくれるよ!」


「とりあえず高くてもいいから帰りの船は客室付きのチケット買おう!雑魚寝はやっぱり辛い!」


「でも私は膝枕を要求するぅー!♪」


「式部のベッドは隣だぞー!」

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