第5話 氷の国の闇の叙事詩:Ⅰ


 …………寒っ!!!!!!



 ≪社≫の依頼で私たちは久々に違うアナザーバースへ赴いた。


 座標を転送装置に入力し、ダイヴした先は…大氷河の間にある小さな港町。

 空は吹雪いているが雲の向こうに太陽が二つあるのが分かる。


 私達はストレージがそこまで多くないので防寒着を入れる余裕がない。

 だけど…


太陽の上着ノースウインド・アンド・サン!」


 防寒スキルで肌が露出していても凍傷にならないレベルまで重ね掛けをする。


「ふわー…危うく鼻から氷柱を出す魔物になるとこだった…♪」

「新種の魔物じゃん!」


「なんかこの船を逃すと一か月位船が来そうにないから先にチケットを買って、時間だけ聞いておくね!」


「はーい!♪そこの店で暖かい食べ物ないか聞いてくるー」




「すみません、そこの船アイリシア王国城下町まで行きますか?」

「行くよー!チケットは一人500ヒアンだよ。出航は三十分後だ」


「有難う御座います!二枚下さい!」


「あいよー…天候次第だけど一日で着く…が、ちょっと城下町で不審な人死にが出ている。充分気を付けな?」


「はーい!」




 …えーと、式部はどこかなー…いたい…た、両手に何か持って笑顔で走ってくる…


「何買ったの?」


「あったかほっとたこ串♪」


「それ、名前だけで買った?」

「まーまーまーそう言わずっ!」


 口に大きなタコの脚が突っ込まれる。


「…あれ?意外と美味しい…」

「でしょでしょ?私二本目―♪」



「三十分後には出航だって!あと、案の定城下町で不審死が流行ってるって…」


「犯人がスキルを悪用してるね…標的絞って回収しないとね!」


「まずどんな死に方してるのか分からないから特定しないとね。相手を知らないと私達にも危険が及ぶ!」




 程なくして、大きな汽笛を鳴らし大型船は出航した。


 砕氷船の役割も兼ねているのか、鋭角の吃水下船首が氷に乗り上げて船の重量で砕氷している。


 個室は無さそうだったので、大部屋の隅っこでクッションに座って到着を待つ。


 クッションがなかったら乙女のお尻が振動で固くなるところだった。



「あのさ…思い切って話すんだけど…」

「今、思い切るタイミング!?でどうしたの?」



「…後悔の無い様に…三本目いっておくべきだったかなって…」

「タコの話かいっ!帰りに寄ればいいじゃん!」


「帰りは十本位買ってママにお土産にしよ!♪」


「ざっと一日かかるらしいから式部は寝ておいて!私は交代で寝るからー」


「分かったにゃー♪」


 ちゃっかり膝枕ポジションで寝る式部。


 しょうがないなーもー


 後で太腿が痺れるんだろうが、式部の寝顔は可愛いからいつも許してしまう。




 私も式部の膝枕をちゃっかりキープしつつ仮眠し、食べて寝てを繰り返すと、巨大な城が見えてきた。

 その城は高台にそびえ立っており、斜面に沿って区画分けされている。

 お城、城下町、港町かな?

 その周辺は雪原と、遠くに山が連なっている。


 周囲を塀が囲んでいるのは、魔物が居るのか、戦争があったのか、あるいは両方か…


 私達は、その吹雪が纏いつく街に巣くう闇を知らずに、足を踏み入れた事を後悔する事になる。




「ふへーやっと着いたね…酔わなくて良かった♪」

「途中二回位酔うかと思った…」


「まずは一番手前の町で情報集めてみようか?」


「あれ?そういえばコロちゃんは?」


「ああ、寒そうだったから胸元に入れてるよ?」


「にゃるほどー!道理で不自然に巨乳だと♪」

「コロちゃんは柔らかいから実質胸!!!」


「カロリーゼロ理論の応用!?♪」




 ファンタジー王道の町の歩き方はまず酒場で情報集めだが、私達はお酒が飲めないしお酒が飲める年に見えない。


 そこで第二の手段として、情報をお金で扱う人か店を探す。


 港町の雰囲気は…衰退というか、寂れていて閉鎖的に見えた。


「あー…知りたい事あるなら金次第で教えてやるよ…」


「これでどう?」


「……何が知りたい?この額で教えれる事だけ教えてやる」


 もう少し足元見てくると思ってたら、結構ベラベラと話してくれた。

 三ヶ月前から、不審な死者が相次いでおり死に方も様々、圧死、轢死、突然死、失血死、場所も城下町と港町が多く、城の中での不審死は三人しかいないとの事。


「あとエリサルって人探してて…」


「なんだ、エリサルの知り合いか?ここから真っすぐ城下町に上がって衛兵団を訪ねたらいい…城下町に上がれたらな」


「上がれたら?」




 待ち合わせの時間までに式部は来ていた。


 情報を照らし合わせるとやはり不特定多数が不審な死を遂げていて、謎が多いそうだ。

 そして、隣国と戦争で被害を受けて人は減る一方だという。


 大きな街なのに崩れている家と焼け焦げた石畳、活気がないのはそういう事か…



「兎に角エリサルさんに会おう!」


「そうだねー、依頼主に聞くのが手っ取り早い!♪」



 巨大な城下町の外壁にある数カ所の検問。


 何を調べてるのか知らないが恐らく城へ向かう不届き者へのチェックなのだろう。


「君達は冒険者かな?登録証を拝見します」


 二人で登録証を渡す。


 どの世界も冒険者登録証があれば身分は保証される。

 どういう仕組みか分からないが《社》凄い!


「次はスキルの保有数のチェックをします。数だけで内容は見えないのでご安心下さい」


 え、何それ?


 スキルの保有数で街に入れる入れないが決まるのか?


「……はい、貴方達はオーケーです。通行を許可します」



「スキルの数で身分を差別してる…?」

「謎だにゃー♪」


「謎が多い…兎に角エリサルさんに会いに行こう!」



 街は先程の暗い雰囲気と打って変わってごく普通の街の雰囲気だった。

 塀一つでここまで変わるものなのか…


 衛兵団を訪ね、エリサルさんを待つ。


「今日は、私がエリサルだが貴方達は…?」


「《社》の使者です。貴方が依頼主という事で宜しいですか?」


 エリサルさんは簡素なプレートメイルを身に着け、ブロードソードを帯剣しているショートカットの女性だった。


「《社》の!本当に来てくれた!感謝します!」


「軽く情報は集めてきたのですが、改めてお聞かせ願えますか?」



 事情を改めて聞くとやはり普通の殺人ではなく、突然、奇妙な死に方をする事案が多発しているとの事。

 しかも死に方がバラバラで共通点が無く、犯人が単独犯なのか複数なのかすら検討が付かない。


「亡くなられた方の名前、職業、年齢、なんかの詳細はありませんか?」


「私が書き留めたものならあります。良ければスキルで【複写】しますが?」


「助かります!二人分お願い出来ますか?」



 エリサルさんに安全な宿屋を紹介して頂き、ここを今回の拠点とする!




「うーん、名前、出身、職業、性別、その他諸々…共通点が見つからないにゃー!」


 二人でベッドに寝転びながら書類を眺めるも、糸口が一向に見つからない…これは本気で無差別殺人も視野に入れないと…



「とりあえずご飯食べようか?」

「そうだねー!脳に栄養をっ!」

「にににっ!」



 下の食堂でホワイトシチューらしきものと謎の料理を注文する。


「はーいお待たせ!しっかり温まっていってね!」


 気立ての良さそうなお姉さんが持ってきたのはホワイトシチューと……餃子?


「どの角度から見ても餃子…ゴクリ♪」


「ちょっとコロちゃんにお肉あげるから毒…味見してみてー!」


「あからさまに毒味させるスタンスだが死にはしまい!ぱくっ!もぐもぐもぐ…」


「どう?」


「餃子に擬態した肉まん♪」


「紛らわし過ぎる!!!焼いてる肉まん…おやきに近いのかな?…ぱくっ!……あ、肉まん」


「違う世界に来ると食が楽しみだよねー!♪」


「うんうん!」



 食を進める内に式部が急に黙り込んだ…盗聴スキルで何かを聞いている様だ。


「反政府地下組織…」


「今回の事件に関連するの?」


「ビンゴだにゃー♪」



 この国の政治は外交に於いて、水産物と農作物の取引の値段で隣国と揉めた挙句戦争という非常に国としては情けない政治の様だ。


 港町が暗いムードだったのは、外交が無い為仕事の量が少ないからだと推測される。


「明日は反政府地下組織の事調べてみないとね…ただ、少し危険が伴うかも…」


「王政に反対してる市民の方々だけなら安全なのににゃー♪」


「武力行使の準備を整えてるなら気をつけないとね」


「寧ろ反政府地下組織より政府が殺してるとしたら国そのものがヤバイにゃー」


「まって式部!人だけじゃない…犬や猫、牛、豚、ヤギ、魚…」


「…反政府動物組織…な訳ないにゃー…」


「人に飽き足らず犬猫まで標的にするとか許せない!コロちゃんファイヤーでお仕置きしなきゃね!」


「ににににに!」




 翌日、エリサルさんの衛兵団を尋ねると、容疑者と思しき医者が逮捕されていた。


 昨夜、不審死した女性の側で…笑っていたそうだ。


「エリサルさん、その男性に会う事は可能ですか?」


「え、うん。私が一緒だけどいい?」


「勿論!」



 エリサルさん、私、式部、コロちゃんと牢屋の更に奥、堅固な牢屋に鎖で繋がれていた。

 もしかしたらスキルを使えなくされてるのかもしれない。


「ベルトナーさん、何か思い出しましたか?」


「いいや…本当に僕がやったのか…」


「状況証拠では現状貴方が最有力候補ですね…」


 私のスキル【履歴閲覧ログブラウズ】で何のスキルを使ったのか見る…


 え………ヤバい!!!


「式部!彼のスキルが何個あるか数えて!」


「分かった!」


消去イレイズ!お願い効いて!消去イレイズ!」


「…ぐ…グウぇべキゅ!」


 ベルトナーの首が…抜歯した歯の様に引き抜かれて絶命した…


「月花、エリサルさんが気を失ったから一旦戻るにゃ!」


「…分かった…」


 詰め所まで戻り、衛兵さんに事情を話してエリサルさんを宿直室まで運んだ。



「月花、履歴閲覧ログブラウズでどうだったの?」


「スキルは引き抜きってスキルなんだけど、内容が『夜中に外へ出て最初に出会った人間をスキルで殺し、衛兵団に捕まった後人気の多い瞬間を狙って自分にスキルをかけて自殺。この効果は消せない』って書いてた…」


「で、ですの…いやいやいや!無茶苦茶なスキル…これは、間違いなくスキルを改竄するスキル!」


「これから更に犠牲者が出る…」



「む…それは本当か…?」


「エリサルさん大丈夫?」


「すまない、情けない限りだ」


「エリサルさん、もらった名簿と昨日の被害者、ベルトナーさんが反政府地下組織の構成員かどうか調べて欲しいんだ!」


「分かった、つてを当たって見るから時間を頂戴!」



 衛兵団のベンチで待つ姿は、確実に迷子でパパママを待つ姿そのもの!


「あの子達、お母さんとはぐれたのかな?可哀想にねー♪」

「アフレコすなっ!」



「《社》さーん!分かりました!」


 しまった!名前を名乗ってなかったから《社》さんって言われてる!



「結論から言うと、ベルトナーさんと昨夜殺された女性以外は反政府地下組織の構成員でした!」


「なら、ベルトナーさんは犯人じゃない」


「え、その推理はどこから…?」


「さっき、パートナーの式部にベルトナーさんのスキルを数えてもらったんですが…王政区に入るにはスキル幾つ以上必要ですか?」


「スキル80以上保有が条件ですね」


「ベルトナーさんは50もなかったにゃー♪」


「だが王政区では被害者が三人も出ている。彼は王政区に入れないのに」


「王政区に入れる人間、もしくは王政区の人間が犯人だにゃー!」


「この話が広がれば益々反政府派が増えてしまう…一旦この話、私に預からせて頂けないでしょうか?」


「わ、分かりました。私達まだ、疾走する白狼亭に泊まってますので…」


「分かりました」





「んー、狙いがはっきりしないよねー」


「反政府地下組織を倒すだけなら、あ…そうか…改竄スキルの安全性と実験が目的かも…それなら動物にまで被害が及んだのが合点がいく」


「式部の読みがビンゴなら、この国のトップか研究者が何かを企んでいるかも?」


「寧ろ改竄スキルを使えば人はおろか生き物全て使い捨て兵士にすら出来るよ!」


「いよいよきな臭くなってきたな…」



「あれ?あの人…」


「お食事中失礼します!衛兵団のルアルと申します」


「あ、はい、どうかされましたか?」


「エリサル団長が…一連の不審死の犯人として王政区に連れて行かれました…」


「は!?エリサルさん全く無関係じゃない!?」


「私達もそう上告したのですが、聞く耳を持っていただけず…午後には人々の安寧を与える為に、と…断頭台にかけられます」


「ごめんなさい、その断頭台周辺の地図とかある?」


「あります!詰め所へお越し下さい!」


「式部、コロちゃんいくよ…って口に滅茶苦茶詰め込んでる!!!」


にふはつめほんははららいひょうふにくはつめこんだからだいじょうぶ!」


「ぬぬっぬぬぬ!」


「式部もコロちゃんも聞いた事ない声になってる―――!」





「皆の者、心配を掛けた!この者が民を脅かし人々を不安に陥れた犯人である!よって、民草の心の安寧を取り戻す為に、二つの太陽が天で交差した時、刑を執り行う」



『その女性は無実だ!』


 拡声スキルで周囲に訴えかける!


 高台に置かれた断頭台前にエリサルさんが両手を拘束されて跪いている。


 左右に居た黒いローブの男達が炎と氷の矢を乱射してくる。



消去イレイズ!」


 手の一振りで全ての攻撃が搔き消える!



「私はこの国の大臣のルメルドである。この物の罪は明白、大人しく投降し…」


「真相を究明もせず国民を処刑する者の何が大臣か!!!!」

 スキル:超威圧ドラゴンアイを視界内全てに発動する!


 99%の人間が白目を剥いて気絶する。


 何か象位の大きさのわんこも気絶しちゃった!


 残り1%の式部が素早くエリサルに駆け寄り彼女を担いだ!



 指を鳴らすと彼女は結晶飛行状態になり、一旦この場は引いた。


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