第7話 禁断の果実


 アイリシアから帰って来て早々≪社≫を呼んで改竄するスキルを渡した。


 さり気なく、渡した後どうなるのか聞いたら、研究と悪用されない様に厳重に保管します、との事。



 あのスキルは間違いなく人を不幸にする力があった。


 あんなもの…全ての世界から失くした方がいい。



「それと、≪社≫以外の機関が研究の為にスキルの回収を始めたとの事です。攻撃はされないでしょうが妨害位はあるかもしれないので、うちの仕事の場合は充分に気を付けて下さい」



 競い合う事で企業は高め合うんだろうけどこういう業界はどうなの?


 とりあえず、アイリシアで買ってきたあったかほっとたこ串が冷めちゃうので家に入ろう。



 オアシカは丁度閉店後でパパ・ママと小町ちゃんがいた。


「ママー!目瞑って口開けて♪」


「何々?そういうプレイ?」


「子供の前でプレイゆーな小町」


 口に突っ込まれるたこ串。


「何これ!美味しい!」



「パパ・ママもはい!」


若干怪訝けげんな顔で食べる二人…


「見た目よりずっと美味しい…」


「味付けが分からない…謎の美味しさ…」



 押しなべてどころか抜群に好評だった!


「月花ちゃん、式部、御飯何か作ろうか?」


「少しだけお願いします!」

「ママのご飯が恋しいにゃー♪」


「はいはい、作るからお待ちをー♪」





 皆で御飯食べた後、家に帰って今回の依頼の話をパパとママとした。


「そうだな…人一人の命の重さが分からない国は衰退していく。月花は間違ってないよ」


「それより死にかけたの大丈夫なの?」


「うん、魔槍と同時にゲットした刀を持ってると、式部の術で蘇生可能なの!」


「月花、その刀見せてもらっていいか?」


「はーい!」


 次元の狭間から取り出し、パパに渡す。


「…本当に名前がない、俺達の神器と同じで鍔なし、刀なのに装飾が北欧…西洋…どちらだ」


 刀をスッと抜く。


「直刃、腰反り、凄い圧だ…先日多重結界内で月を斬っただけの事はある」


 鞘に納めて返してくれた。



「アナザーバースで拾った物は俺達の常識から逸脱している可能性も高い。良い方向に向けばいいが…悪き兆しが見えたら手放すことも考えなさい」


「うん、今は使い勝手良いから持ってるけど、命の危険があるなら手放すね!」


「そーよー!パパとママの大事な娘ちゃんなんだからねー!コロちゃんもだけどー!」


「ママのハグがいつもより強いー!」

「ににににに…」





 手放すかぁ…名も無き刀を抜いて刀身に映る自分を見る。

「お前は…私を助けてくれるの?」


 返事は梨の礫なのは分かってたから次元の狭間にしまって寝ることにした。


 明日から暫く中学生に戻らないと!





「小花ちゃん、式部おはよー!」


「月花、お早よう」


「月花おはにゃー!♪」


 この二人は制服も似合ってて可愛い…目の保養になる…


「月花は朝からやらしい事を考えてたね」


「もー月花は考えるだけじゃなく私に手を出してくれてもいいのにー♡」


「朝から欲情はしてないっ!」


「…昼からか」


「昼も夜もしてないからっ!」


 そもそも朝の登校途中で話す様な内容ではない!



 そんなこんなで学校に到着すると、ちょっとした事件が起きていた。


 人が真っ逆さまで地面に落ちている姿で止まっている!


 しかも四人!


「うちの中学の柄悪くて嫌われてる四天王じゃない?」


 小花ちゃんの言うとおり、いじめの噂が絶えない嫌われ者だ。



「折角無防備だし、腹を謎の生物が喰い破って生まれてくるスキル試してみようかしら」


「小花ちゃん、死んじゃうからやめてあげてっ!!!」


 丁度その時、消防隊が駆けつけ、4人の下に空気で膨らますマットを展開し始めた。



「式部、あれどう思う?」


「4人同時に落として空間固定…?出来ないことはないけど、落とした方も人手いるよねー…空間固定の時間も気になるから、落下前に助けないと!」


「流石相棒!」


「消防隊の方、私が四人を助けますので、下でサポートして貰えますか?」


「あ、ああ大丈夫だが、出来るのかい?」


「はい!」



 結晶飛行で、空間固定されてる四人組の前まで来る。


 次元から刀を出すとめっちゃざわつかれるが無視しよう…


「…名も無き解除ネームレス・リリース!!」

 戒めのみを切断する!


 四人同時に落下していき、マットで救助された。


「有難う、お嬢さん!助かったよ!」


「いいえ、人命救助優先ですから!」


 小花ちゃんが躊躇なくホラースキルを試そうとしてたのが怖かったけど!




 ドタバタしてたけど、やっと教室についた。


「犯人は誰だろうね…?」


「いじめられてた子がいたとしても、特定されるの早いから絶対に違うよにゃー♪」


「復讐代行…若しくはそう見せかけた愉快犯?」


「愉快犯かにゃー?これに懲りてガラの悪さが抜けてくれるといいけど…」


履歴閲覧ログブラウズで周囲を見てるけど、そういうスキルを使った形跡はクラスには無さそうだね…」



 勿論、警察も来ているので後は警察におまかせしよう!




 むーっ!むーっ!


 ん?

 スマホが振動してる…メールかな?



【緊急依頼】

 アナザーバースにて、非常に強力なスキルを確認。

 万が一、心無き人物に渡ると未曾有の危機が及ぶ可能性あり。


 ミッションは当該スキルを持ち帰る、最悪の場合破壊もやむを得ない。


 スキル名:果実の種

 効果:   中心を取り除く



 …なんだこれっ!

 桃とかビワとか食べやすいだけじゃん!


 まぁ、《社》の緊急依頼って珍しいし、いいか!


「龍安寺先生!鹿鳴と駒鳥鵙、急用で早退します!」


「ああ、いつもの奴な。気を付けて行ってきなはれや!」


『はーい!』




 突然私達が帰ってきてもママ達はそこまで驚かない。

 サボってると見なされないのは私達が真面目だからだ!

 オアシカの上の秘密基地に入り、いつもの服装に着替え、リュックを背中に、コロちゃんを頭に装備し…


「行き先どこだっけ?」


「どうも私達がいつも行ってるファンタジー世界らしいにゃ♪」


「少し慣れてる世界だから有り難いね!」



『ダイヴ・イン!』


 紐づけされてる世界なので、すぐ到着する。


 今回は空中スタートじゃなくて良かった…



 だが、いつもの街じゃない…別の町だな…ここもお城と城下町があり、活気がある!


 双子山が重なって見えて、竜の洞窟が見えないから、いつもの街より北東の街か。


「日が高いから情報収集しようと思うんだけど…事件が起きてるとか書いてなかったよね?」


「詳細を伏せてるのが《社》らしいけど、それでいつも困ってるもんねー♪」


「八百屋とか果実売ってるとこ行ってみる?」


「心当たりがなさ過ぎるから、そうするにゃー!♪」



「すみません、この果物二つ下さい」


「あいよー!」


 二個で銅貨一枚…安い!


 外見が桃だったので剥いて式部と食べてみる…


「…おおお!」


「そのまんま桃だ!糖度高すぎる!」


「うめーだろ?うちの果物はいいもの揃えてるからなぁ!」


「本当美味しい!ところでおじさん、果物とか種とか関係するスキルの噂を聞いてきたんだけど、何か知らない?」


「うーん、そういうのは聞かないが…近頃とても奇妙な事件はあるな…」


「奇妙…?」


「町中にさ…落ちてるんだ…心臓が…動いてる心臓も発見されるらしい」



 桃吹くかと思った!


 道理で《社》が食いつく筈だ。


 だが、緊急依頼をかける程か!?


 確かに対象の中心を定義すれば何でもくりぬけるかも知れない。


「それって滅茶苦茶頻繁に起こってるの?」


「いや、それがまちまちでな…自警団も動いてるし、城の騎士団も見回ってるが、犯人は未だ捕まってない」



「尻尾を掴むのは難しそうだねー」


「数日様子見してみる?」


「聞き込みも目処が立たない内にすると逃走される可能性あるしねー♪」



「今日は宿屋決めて、街を歩いてみようか?スキルショップも見ておかないと!」


「はーい!♪」



 少し大きな宿屋に拠点を決めて、街を散歩…と思ったら宿屋の真横がスキルショップだったので覗いてみる。


 テーブルで座りながら、カタログをパラパラと捲る。

 それに合わせてコロちゃんが首降ってるの可愛い♡



【刺身の極み】

  骨を取り除き三枚おろしにする。


 なんかパバが欲しがりそうなスキルが!


【鮮度回復】

  痛みを取り除く。


【食パン達人】

   潰さずに綺麗に切る。



「あー…またかぁ…」


「月花、何か分かった?」


「式部、何でもいいから自分のスキルを表示して」


「うん、したよー♪」


「じゃ、この三つ見て?」


「何か文章ズレてるよね?」


「ズレてるんじゃ無くて主語が消されてる…主語が消されると人間にも使える…」


「《社》のメールの文も同じだったね!」


「心臓が落ちてるっていうのはあのスキルの持ち主の犯行だ!」



 怖いので、主語が消されてるスキルは回収し、この三つを売った人物の名前を聞く。



 名前はアドラム・ムラド、スキルショップの店主に依ると帽子を目深に被った杖をついた老人だそうだ。



「よし、糸口は掴んだ!次は自警団を探そう!」


「うにゃにゃー♪」



 意外と広い街で探すのに時間が掛かりそうだから、聞く!

 こういう時にこそ日頃のコミュ力が物を言うのよ!


「月花なんかドヤ顔してるけど、心の中でドヤってた?♪」


「顔に出てた、はずい…////」



 城の大門に近い場所に自警団の詰め所があった。

 扉を開けると女性がいたので、調査協力のお願いをして、最近不審な死を遂げた人物の人隣や職業を聞く。


 職業はバラバラだが、恨まれていたり、粗暴だったり、評判が良くない人物ばかり二十人程亡くなっていた。


「最後に、アドラム・ムラドと言う方をご存知ありませんか?」


「団長ですか?御用ならばお待ち頂ければすぐ戻りますよ?」


 女性は優しく、裏がない誠実な方に見える…


「いえ、また伺います!有難う御座いました!」




 念の為に迂回し、結晶飛行で飛んで戻る。


「収穫は充分に合ったねー♪」


「充分過ぎる…だが、すんなり行き過ぎて気持ち悪い」


「え、ここは私が脱ぐべきタイミングかな?♪」


「服は着ておけっ!」



 自警団団長がスキルを悪用して、法では裁けない悪を捌いていく…日本のドラマかっ!

 いや、ありえなくは無いんだが…何故足が付くのにスキルショップに売った…?


「よし、今日の処はご飯にしよう!時間遅いし、朝から何も食べてないー!♪」


「あー!ごめんね!御飯いこ!」



「たまには外の食堂見に行こうか?あったかほっとたこ串みたいなヒット商品が出るかもしれない!」


「とうとううちの彼女がグルメの方向性に…ホロリ…」


「いつもの町にはないグルメを探そう!」



 宿屋を出てすぐ隣、スキルショップは閉店していて真っ暗だ…


 どむっ!


「はう、なんか蹴っちゃった!」


「式部大丈夫?」


 暗がりから、蹴ったモノがごろごろべちゃっと前方の街灯の下に真っ赤な液体を滴らせながら照らされた。




「…あったかほっと…」


「それ以上言うなっ!タコが食べれなくなる!自警団に知らせよう!」




 自警団に来てもらって、昼間聞いたアドラム団長も見る事が出来た。


 高身長でローブに杖、情報通りだ。


 因みに心臓の本体は三百メートル位離れた場所にうつ伏せで倒れていたという。


 金貸しで評判の悪い男だったそうだ。


 昼間伺った所為か、事情聴取をされるだけで解放されたので御飯は食べに行った。


「月花、これみてー!」


「何々?ひゃっ!!!」


 式部のブーツが血だらけの大惨事だった!!


「…見つからない様に食べてそっと出よう…」


「帰ったらブーツ洗うからドライヤー貸してね…あ、そうそう!うちのクラスの男子に似た人をさっき見てフフってなったよー」


「異世界にも似た人が三人いるのかしら…」


「ウチのママに似た人も三人存在するのかな…?♪」


「三人で売れっ子シェフしてるか三人でお笑いやってるかの二択ね…」


「あ、アドラムさん履歴閲覧ログブラウズした?♪」


「うん、不審な点は無し、あの人魔法使いみたいだったね。ログもそんな感じだった」


「魔法使いかー…」


 一日バタバタしてたから、ちょっと疲れた…


 そういや今朝、いじめっ子を救出した時に『流石鹿鳴ろくめい駒鳥鵙こまどりの娘だな』って言われたのは褒められたのか?


 何となくママ達の暴れっぷりが想像つくが、考えないようにしよう…

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