第23話 チョコレートを作るお姉ちゃん
学校に行くと、男子たちがなにやらそわそわしていた。紗月はいつも通り(?)クールな様子でそんな男子たちを笑っていた。
「バレンタインもうすぐだもんね」
私は窓際の席に座って、紗月に話しかける。
「紗月は誰かに渡すの?」
「別に? 好きな人もいないしね」
「莉愛ちゃんには渡さないの?」
紗月は机に肘をついて、考え込むような姿勢を取っていた。
「あー。そういえば最近、莉愛もなんかそわそわしてたね。やっぱりチョコレート送ったほうがいいのかなぁ?」
「世界で一番大切なんでしょ? だったら送りなよ。私もひまりに手作りチョコ送るつもり」
「私もひまりさんに送りたい! ね、凛、一緒にチョコレート作らない? 凛、料理得意でしょ?」
紗月は眉をひそめていた。私は「いいよ」と頷く。チョコレートを作るのは初めてだけど、ネットで検索しながらなら何とかなるでしょ。多分。
ということで、私と紗月は放課後、スーパーに向かった。
スーパーで板チョコを何枚かとペンタイプのストロベリーチョコレートを買う。あと、ハート形の型も購入して、準備完了。そんなに凝ったものは自信がないから、今回は簡単なハート形のチョコを作ることにする。
買い物終わり、私たちはスーパーの前で言葉を交わす。
「あとはどこで作るかだよね」
「私の家はひまりがいるからねー。紗月の家はどう?」
「莉愛は部活で帰り遅いから、大丈夫だと思う」
「それじゃ、紗月の家にいこう!」
「おー!」
とは言ったものの、実は私誰かの家にいくのって初めてなんだよね。少し緊張する。一応、ひまりには連絡しておこう。「帰るの少し遅くなりそう」とメッセージを送ると、「どうして?」とすぐに返事が返ってきた。
まさか本当のことを話すわけにもいかず私は「秘密」と返す。すると怒ったネコのスタンプが送られてきた。でもすぐに悲しそうなネコのスタンプも送られてきて「早めに帰って来てね」とメッセージが来た。私は微笑みながら「分かった」とメッセージを送った。
「ちょっとちょっと。私の隣でイチャイチャしないでよ!」
紗月は羨ましそうな顔をしている。私はすぐに首を横に振った。
「いちゃいちゃとかじゃないよ。大切な妹を、大切にしてるだけだよ?」
紗月は不満げにしている。でもすぐに微笑んで「凛って本当に変わったよね」と告げた。
「変わった?」
私は首をかしげて問いかける。
「うん。最初の方はお姉ちゃんって感じじゃなかったけど、今ではもうすっかりお姉ちゃんやってるもん」
「えへへ。そうかなぁ」
私は嬉しくてにやついた。ちゃんとお姉ちゃんをできているのか、少し不安だったのだ。ひまりが求める通りのお姉ちゃんができているのか、まだよくわからないけど、紗月にそう言ってもらえると安心する。
「正直、不安だった。だって凛、私に「お姉ちゃん」って呼ぶように頼んできたでしょ?」
「……うっ。あれは黒歴史のようなもので……」
「だからひまりさんにも、ウザがらみとかして嫌われるんじゃないかって思ってた。でもひまりさん、ちゃんと凜のことお姉ちゃんって思ってるみたいだし、きっと大好きなんだろうね。帰るのを心待ちにしてくれてるわけだから」
そんなことを言われると、顔が熱くなってしまう。恥ずかしくなった私は照れ隠しで告げる。
「紗月だってそうでしょ? 莉愛ちゃんと仲いいじゃん」
「ふふっ。そうだね。私も少しは莉愛と仲良くなれてると思う。大切にしないとだね。お姉ちゃんとして」
「そうだね」
それから私たちはお姉ちゃんどうし、お互いの妹を自慢し合いながら、紗月の家に向かった。
紗月の家に着くと、私たちはすぐにキッチンに向かう。ボウルに砕いた板チョコを入れて、電子レンジで溶かす。その間に、ハートの型にペンタイプのチョコで模様を描いた。
「ひまりさん、勉強はどんな感じ?」
「ひまり天才だから、余裕だと思うよ。もう私よりも賢くなってるもん」
「凜も勉強頑張りなよ。ひまりさんに相応しいお姉ちゃんにならないと」
「えー? 勉強できないお姉ちゃんと勉強できる妹でバランス取れてないかなぁ?」
「そんな風に油断してたら、私が取っちゃうよ?」
紗月は鋭い眼光で私をみつめた。私は抗議の視線を向けた。
「紗月には莉愛ちゃんがいるでしょ!」
「いや、確かに莉愛は大切だけど、別に結婚するわけではないでしょ? 凜だってまさかひまりさんと結婚したいとか考えてるわけじゃないだろうし」
「……それはそうだけど」
「ひまりさんだっていつか、誰かに取られちゃうんだよ? だったらそのとき、それでも関係が続くように、尊敬されるお姉ちゃんで居続けないと」
「……むぅ」
確かにいつかひまりは誰かと付き合うことになるのかもしれない。私はお姉ちゃんだから、そういう対象にはならないだろうし、私だってひまりのことは可愛い妹だとしか思ってない。
でもやっぱり寂しいなって思う。未来の話かもしれないけれど、いつかひまりが私の手から離れていくなんて。
というか、そもそも九月になればひまり、カナダに留学にいっちゃうんだった。
「……私、頑張る。頼りがいのあるお姉ちゃんになれるように、頑張る!」
「その意気だ! 凛!」
私は紗月と堅く握手をする。そのとき、レンジが音を立てた。
私たちはレンジから溶けたチョコレートを取り出し、ハートの型に流した。
そのとき、突然、キッチンに莉愛ちゃんが入ってきた。紗月はとても驚いている様子だった。
「えっ? なんで莉愛が!?」
紗月は慌てて、私のもっているハートの型を体で隠そうとする。だけどそれはきっと莉愛ちゃんからすると、私を隠そうとしているようにみえたのだろう。後ろで隠れている私としても、そう思われても仕方ないと思ってしまうくらい、紗月の反応はたどたどしかった。
まるで浮気現場でも目撃されたみたいだ。
そんな紗月の態度をみてどう思ったのか、莉愛ちゃんは表情をこわばらせたかと思うと、大きな声で叫んだ。
「……お姉ちゃんのばか!! 浮気もの!」
かと思えばどたどたと二階に走っていった。
「……浮気もなにも付き合ってないでしょうに」
「とりあえず誤解を解こう。私と紗月がいかがわしいことしてたとか勘違いされたら、大変だし」
「そうだね。私たちはただの親友なのに」
そのとき、スマホが震えた。私はハートの型を下ろして、スマホを開く。ひまりからのメッセージだった。悲しい顔をしているネコのスタンプと一緒に送られてきている。
「お姉ちゃんって、紗月さんと付き合ってるの?」
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