第22話 見守るお姉ちゃん

 私たちはショッピングモールを探した。洋服売り場、食料品売り場。でも莉愛ちゃんはなかなか見つからない。しばらく探して、ゲームコーナーでようやく、莉愛ちゃんをみつけた。


「な、なんですか?」


 莉愛ちゃんはUFOキャッチャーの前で、高校生くらいの男子二人になにやら話しかけられていた。


「俺たちと遊ばね?」


「遊ぼうぜ。きっと楽しいぜ?」


「嫌です。遊ぶわけないじゃないですか。私、あなた達みたいな人、嫌いです」


 莉愛ちゃんは怯えているみたいだけど、それでも強気に振る舞っている。私たちが駆け寄ろうとした時、どこからか颯爽と現れた紗月が莉愛ちゃんの手を握った。


「えっ?」


「私の妹に手を出すな!」


 必死で自分を守ろうとする姉を、莉愛ちゃんは顔を赤くしてぼうっとみつめていた。


 でも、それでも懲りないらしい二人組は、あくまでもナンパを続けるつもりらしい。


「なるほど姉妹か。だったら数もあってるしダブルデートしようぜ」


「いい考えだな、そうしよう」


 そうして二人の肩に手を伸ばそうとしたそのとき、紗月は莉愛ちゃんの腰を抱き寄せて、とんでもないことを口にした。


「この子は私の彼女だから、そういうの間に合ってるんだよ」


 二人組は「はぁ? まじかよ」と口にして、退散した。紗月は私たちに手を振って、莉愛ちゃんと一緒に私たちのところまで歩いてきた。莉愛ちゃんは顔を真っ赤にしている。


「ちょ、ちょっと、何なのよ!? か、彼女って……。はっ! ま、まさか今ので本当の彼女になったつもりじゃないでしょうね? そういうのはきちんとした告白を……」


 紗月は申し訳なさそうに微笑んでいた。


「そんなのじゃないよ。心配しなくてもいいから。ごめんね。でもそうするしかなかった。あいつらしつこそうだったから」


「……な、なんだ。それなら最初からそうといいなさいよね。ふん」


 声色は明るいけど、莉愛ちゃんは心なしか、寂しそうにしているようにみえた。


「莉愛。私、もう百合はやめるよ」


「えっ?」


「莉愛が私を避けるようになったのって、身の危険を感じたからなんでしょ? 私が百合の中でも特に姉妹百合を好むようになってから、私のこと、避けるようになったし」


「……ちが」


「私、また莉愛と前みたいな関係に戻りたいんだ。莉愛。また戻ってくれる? 私と、姉妹に」


 莉愛ちゃんは切なげな紗月の表情をじっとみつめていた。だけど何度か深呼吸をした後、なにかを決意したような真剣な表情でつげる。頬は真っ赤になっていた。


「私は別に、危険を感じたとかじゃないわよ。ただ、その、恥ずかしかったの。もしかすると、お姉ちゃんも私と同じなんじゃないかって……」


「えっ?」


「だから! ……お姉ちゃんも私のこと、好きなんじゃないかって。でも最近はひまりとかいう子のことばかりだし、怖かった。……私のこと、嫌いになっちゃったのかなって」


 その声はとてもか細かった。だけど紗月には届いたらしい。紗月はほんの一瞬、逡巡するような表情をみせてから、莉愛ちゃんを抱きしめた。


「ちょ、ちょっと。なにするのよ」


 口では拒否しているけれど、莉愛ちゃんは少しも抵抗はしなかった。


「私も、好きだよ。莉愛のこと」


「えっ……」


 莉愛ちゃんは顔を赤らめながら、まじまじと紗月をみつめていた。


「世界で一番、大好きだよ」


 その瞬間、莉愛ちゃんはこわばらせていた表情を和らげて、そっと目を閉じた。


 ひまりは私の隣でもぞもぞしていた。どうしたのだろうかと思うと、まるでハグをねだるみたいに両腕を私に差し出してくる。私は微笑みながら、ひまりの背中に腕を回した。ひまりは満足そうに微笑んで、私の胸に顔をうずめるのだった。

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