SIDE:S
いた。
いや、目にしたわけではない。でもずっと回復や補助魔法を使い続けていた私なら分かる。ナツカ・シアリのオーラがそこにあった。そっか、ゆうがおダンジョンにいたんだ。まだ未踏破だったもんね。
ああ、謝罪したい。地に足をつけて謝罪したい。泣きじゃくりながら「す゛み゛ま゛せ゛ん゛て゛ち゛た゛」と大きな声で謝りたい。あなたを追放してすみませんでしたと叫びたい。出来れば戻ってきてほしいとすがりつきたい。
でもできない。今、私はクラリスのメンバーとしてこの地に来ている。クラリスがそんなことをやってはいけない。クラリスは完全無敵なパーティなのだ。
「どうした、暗い顔をして」
私の前を行く、賢者のスカルスが私に声をかけてくる。
「いえ、何でもないわ」
「ナツカのことでも思い出したのか、セイラ・クトーカ・コルナシア公女殿下」
その言葉に一瞬ドキッとする。スカルスがそれを見逃すはずがない。
「図星か。奴がここにいるわけでも無い、今は目の前の出来事に集中しろ」
「わかってるわよ」
賢者と言っても攻撃しかしていないスカルスではナツカのオーラを感じ取ることは出来なかったようだ。何十年前とかじゃない、ちょっと前まで仲間だったんだが。
クラリスが来たと知って群がってくる人々を払いのけながらダンジョン管理組合の事務所へ到着する。
組合長に面会してから、三一階層のオーガ退治に向かうのだ。
「これはこれはクラリスの皆様、ようこそおいで下さいました」
組合長がにこりと笑って挨拶をする。私たちの担当者は常に組合長。だって最強のパーティ”クラリス”だから。
「いやーものすごい負傷者を出したポンコツ組合長ってのはあんたのことですか」
「ロラ! ロラ・ディオ・セルタール!」
「なんだよセイラ。事実だろ」
「未探索の階層は何が起こるかわからないというのがダンジョン探索者の常識でしょ。組合長の――」
「――はいはいはいはい! セイラの説教はそこまでで十分だ! 俺は事実を言ったまで!」
「それだからって挑発するような言い方はないでしょう!? まだ報告書も出てないって聞いてるのよ!!」
お互い高ぶる感情。そんな時キャンが一言。
「とりあえず御茶が飲みたいです」
「「御茶!?」」
あまりにも唐突で闘争心が削がれてしまった。
「はっはっは、キャンが一番豪胆かもしれないな。ロラ、セイラ、今はひとまず休戦としようじゃないか。申し訳ないな、組合長どの。ロラに悪気はないんだ」
「いえ。ポンコツなのは事実ですよ、ハハハ……」
キャンのノンビリした行動により仲裁をする形でこの場は収まった。
「――というわけでして、皆様にはオーガの群れを討伐、あわよくば攻略完遂をお願いしたく来ていただきました」
組合長が丁寧に頭を下げながらそう話す。まるで私たちが王でもあるかのような気分だ。王族グループだからさほど変わりはないんだけど、今私たちは貴族じゃない、ダンジョン探索者なんだけどね。
「オーガなんざ何匹いても相手にならねえ。そっこー退治してきてやらぁ」
「ロラはいつでも威勢が良いな。ま、俺もロラと同一意見だがな。オーガなんて敵じゃない」
「ありがとうございます。現在村と集落の存在を確認しており――」
組合長が丁寧に説明を始めようとする。それを遮るようにロラが。
「――はいはい説明ご苦労さん。スカルス、どちらが多くオーガを殺せるか勝負しようぜ」
「物騒な話だな。だがその勝負受けて立とう。では三一階層に赴こうか。準備は出来ているんだろうな、セイラ」
「あ、えーと。あなたたちの出発の準備なら出来ているわ。私とキャンはもうちょっとかかりそう」
せっかく地上に出たんだ、魔素の変わりとなる魔法石をアイテムボックスいっぱいに詰め込んでおきたい。女の子の必需品も残り少ないし。
アイテムボックスはそこそこ元気だけれど魔導具はみんな使い果たしてしまった。補充用具もあったようなんだけれどだれも補充なんてしない。そんな雑用は嫌、らしい。
私が補充しようとしたときには既に補充用具は捨てられてしまっていた。ナツカの大事なものなのに。あのとき、せめて魔導具だけでも置いていけば良かった。
「ではさっさと行くとする。後は任せたぞ。行こう、ロラ」
「ぜってー負けねえからな!」
言うが早いが二人は三一階層へとっとと行ってしまった。
はぁ……ついていけない。
オーガにだって無傷とはいかないんだから。その傷は誰が治すのよ。私よ。その私の準備はまだだというのに。
帰ってきたときに各種アイテムを用意しておいてほしいと組合長にお願いして準備を切り上げ、足早に二人を追いかけるのであった。
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