失敗してんじゃねえか……

 らんらんるー


 と、軽い足取りでダンジョン管理組合の事務所に向かった私。

 しかしそこにあったのは、大量の負傷者と彼らが発するうめき声だった。


「こ、これは一体どうしたんですか?」


 思わず声に出す私。だって動揺したんだもんよ。


「ナツカ・シアリ上級伯爵様か。どうしたもこうしたも、オーガの逆襲劇にあって敗走したダンジョン攻略者の群れだよ」


 振り返るとゆうがおダンジョン・ダンジョン管理組合長・オルフェガ・トルデオさんがそこにいた。


「ナツカ・シアリ……あの?」

「たしか最強パーティから追放されたっていう……」

「わがまますぎて扱いきれなかったって話だろ」

「いや、ダンジョン官報では諸般の事情としか書かれていない。大方ついて行けなくなったんだろう」

「わかんねーよ、諸般の事情なんだ。理由は何でもいいんだぜ」


 私の名前を聞いて負傷者がヒソヒソと、いや堂々とした声で話し始める。

 反論したいが汚名返上の機会はきっとくる。今は我慢だ。


「えっと……なんで逆襲に遭ったんですか?被害はどれくらいなんですか?」


 それらを無視して、オルフェガさんに問いかける。


「村と集落へ各々派兵して、掃討中に各個撃破された、それだけだ」


 さらりとそう答える組合長。しかしその声には怒りがこもっている。

「そんな。オーガがまだいたということですか?」

「二ヶ所の生き残り隊員が、どちらにも五〇体以上のオーガの増援があったと証言している。偵察仕切れなかったわけだな」

「三一階層に二〇〇体以上のオーガが住んでいたってわけですか!?」


 そんな馬鹿な。普通なら五〇階層以降に出てくる数字だ。


「ここの偵察ってナツカ・シアリだよな」

「ああ、ダンジョン魔導掲示板によればオーガが多数いるということを報告したのは彼女だ」

「偵察しきれなかったってわけよね。それでこれだけの被害が出てる」

「逃げ出したナツカ・シアリ、今度は偵察ミスで大規模被害をもたらすってか」

「死んだやつらも浮かばれねえよなあ」


 後ろの声には我慢我慢。彼らも本気で言っているわけじゃない。


「シャー! ご主人、こいつら叩きのめして良いですかニャ!?」


 どこかの狐猫はぶち切れてるけど。


「まあまあ、落ち着いて落ち着いて」

「フーシャルシャルフー、シャー!!」


 よくわからん威嚇音をだして威嚇しておる……


 組合長が口を開く。


「少なくとも今回ナツカ・シアリは間違ったことをしていない。出来る範囲で偵察をした。偵察としてはそれが正解だ。深追いは禁物」

「でもよぉ」

「今回の敗因はろくな偵察もせずに我先にとオーガの元へ走っていった組合員たちが原因だ」

「んだとぉ!?」


 血の気の多い戦士が食ってかかる。そりゃまあ、負けた直後に原因を指摘されれば怒るよね。わかるわかる。お姉さんわかるぞぉ。


「実際」


 組合長は三一階層の地図を魔法で空間に表示させると。


「ここに村があってここに集落がある。とすると奥に本拠地があると考えるのが道理。実際指揮官もそれは事前把握しており、逃げるオークは深追いするなと指示が出ていたはずだ。しかし実際はどうだ」

「……みんな我先にと村と集落へ行き、逃げるオークも構わず殺して回ったよ。だって討伐報酬が――」

「――だっても糞もあるか。そのおかげで烏合の衆となった我らに規律の整ったオーガ軍団が攻め入ってのこのざまだ」

「うぐ……」


 食ってかかった戦士はすごすごと引き下がる。


 まあこれで敗因はわかった。次はもうちょっと功績のあるやつらで編成して討伐するしかあるまい。もう私の出る幕じゃ無くなったなー、どうしよー、別に三五階層まで探索しないといけないってわけでもないしー。

 一応クエストとして契約は結ぶけど、危険な任務を行っているから契約破棄は自由だからね。


「とにかく今は負傷者の介護が最優先だ。今日の支援者は休む暇なんてないぞ」

「あ、それなら私たち得意です。契約結んでいませんけど回復の支援します」


 そう言っておもむろに強化型単発魔導銃を取り出し、弾薬に”エリアヒール”を装填。

 天に向けて発射し回復作業を始めるのでした。

 ただ、範囲行為で特に強いのはタツキ。無限に使える魔力(私由来)をテコにバリバリ強力ヒールグランドきつねヒールをかけていきます。


 私たちのおかげで一晩中かかると思われていた回復作業も日没してから少し経ったくらいで終わり。


「ふー疲れた」

「大体治したニャ」


「さすがナツカ・シアリ上級伯爵様だ! バリバリ元気になったぜ!」

「こんなに動けるナツカ様なのに、クラリスはパーティから外したんだねえ」

「クラリスなんてどうでも良いよ、今はナツカ様を称える時間だ!」


 わっしょい、わっしょい、わっしょい。


 さっきまでの嫌みはなんだったのかという感じでみんなに担がれる私。

 うん、でも、まあ、悪い気はしないかな。


 翌日、緊急案件として討伐隊募集が組合から発されました。

 こうなると凄い美味しい案件となり、五〇階層とか六〇階層とかを攻略している討伐者も募集に応じる形になるんだって。これなら余裕だね。


 さて三一階層の攻略を待って、ゆうがおダンジョン三二階層以降を攻略するか、それとも他のダンジョンにいって攻略をするか、どーしよーかなー。


 などと三〇階層の組合事務所で思っていると、何やら黄色い声がダンジョンエレベーターの方から聞こえてくる。なんじゃろ。


 そちらの方に向かってみると、そこには。



 ――クラリスのメンバーがいた。

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